第31話 灰の中の白?
コロニー〈サキエル〉
そこは混沌の時代においても、安寧の地である。
ネベルとピクシーは、そんな話を傭兵稼業で助けた別のコロニーの人間から聞いて知った。そして興味を持った二人は旅をして、はるばるコロニー〈サキエル〉までやって来たのだ。
ネベル達は実際の〈サキエル〉を見て驚いた。
たしかにそこには平和があったが、二人が想像していたものとはかなり違っていたからだ。
青い海に、白い砂浜。空には燦燦と輝く太陽。
熱気に満ちたビーチでは多くの人が日光浴を楽しんでいた。大人はエビなどをバーベキューして、傍らでは涼し気な恰好の子供たちが楽しそうにはしゃいでいる。
もしこんな時代でなければ、〈サキエル〉は有名な観光地となっていたに違いない。
―まさかこんなに間の抜けた場所だとは思っていなかった―
もちろん。ビーチでくつろぐ彼らがレリックで武装している様子などはない。ほとんどが腰衣だけの素っ裸同然の恰好だ。
そんな中、金属製の可動式アーマーに身を包み、レリックでガチガチに改造した大型刀剣を装備していたネベルの姿はとても目立っていた。
「ううっ なんだか楽しそう! ねえねえ、わたしも混ぜてよー」
「あ、オイっ」
ネベルが止める間もなく、ピクシーは砂浜で遊んでいた子供たちの元へと飛んで行ってしまった。
「はぁ……たくっ」
ビーチにいる人間からは、ときより笑顔と活力が溢れていた。
噂通り、コロニー〈サキエル〉では食料も潤沢なようで、人々は不自由のない生活が送れているのだろう。同じ時代でも住む場所でこれほどに差があるのか。
だが、どうしても一つ気になることがあったネベルは、近くでエビを焼いていた小太りの住人に話しかけた。
「どうしたんだ?よそ者さん」
ネベルが話しかけると、彼は笑顔で応対した。
「ここは他のコロニーに比べると、随分いい暮らしをしているようだな」
「ああ。ここはいい場所だからね。食べ物に困ることも無いし。ここにコロニーを作った僕たちの祖父世代が優秀だったんだよ」
「へえ、そうか。じゃあ、ミュートリアンとの問題は無いのか?そんなにいい場所なら狙ってくる奴もいるんじゃないか」
コロニーに人々が引きこもる一番の理由が外界のミュートリアンを恐れる為だ。
ダイバーと違って力の無い人々は、魔界のモンスターに対抗する手段を持たず逃げ隠れるしかない。だが〈サキエル〉の住人たちは、まるで外にそんな怪物が存在する事など知らないように自由に暮らしていた。
ネベルがその事について尋ねると、小太りの彼は自身満々にこう言った。
「ミュートリアンか。それも問題ないよ! この辺りの海域にはアカグモワカメという海藻がたくさん生えていてね。ミュートリアンはアカグモワカメの匂いを嫌って近寄って来ないんだ。だからよそ者のお兄ちゃんも安心してゆっくりして行くといいよ」
「え? いやでも……」
「まあまあ、そんなことよりお兄ちゃんもクロエルフダイの魚卵でも食べないかい?ほら、小っちゃくて豆粒みたいで可愛いだろ。塩味で美味しいんだぞ」
「豆っ? 食う!」
ネベルはまだ男に言いたい事があったが、好物の誘惑には勝てなかった。
もちろん豆と魚卵はまったく別ものである。ネベルが魚卵を一口食べてガッカリしたのは別の話。なぜなら、いきなり背後から何者かが襲って来たからだ。
何処からか放り投げられた2メートルもある大鎖鎌がスゴイ勢いで迫って来た。
ネベルは目の前の小太りの男を抱えると、その場から一緒に飛びのき攻撃を躱した。砂浜に鎌が落ちるとその重さで滝つぼのように砂の塊が舞い上がった。
「ひぃっ なんだ?!」
「……誰だッ」
襲撃者はジャパンの伝統衣装キモノのような物を、帯を緩めてだらしなく着ていた。髪は唐辛子のように真っ赤でとげとげだ。
彼は放り投げた大鎖鎌を片手で軽々しく引き戻すとネベルにこう名乗った。
「てめえが不可視の獣つー奴か。オラはロイ・エマニエル・バトラーだ。あんたには
ロイが殺気を放つ。
ネベルも静かにエクリプスを鞘から抜いた。
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