第16話 秘密の露見

 ネベルが大型刀剣エクリプスを持って近づくと、虚ろな目をした〈アルマロス〉の住人たちは恐れおののいて、蜘蛛の子を散らすようにその場から去っていった。


「な、なんだー?!」


 行商人が突然の出来事に戸惑っている隙に、ネベルは難なく捉える事に成功した。


 ネベルは捕まえた行商人をひと気のない裏通りに連れて行くと、壁際に立たせて喉元に剣を突きつけた。


「さて、お前にいくつか聞きたいことが…………」


「この野郎っ! こんな事してただで済むと思うなよ! 俺はファントムローゼの会員なんだからな!」


 ネベルの言葉を遮り、行商人の男ははげしく感情をあらわにさせながら。憎悪に満ちた言葉を発した。


「ファントムローゼ? その名前も聞いた事あるよね」


「ああ……、フリークが言ってた黒魔法使いのごろつき集団の一つだな」


 ネベルは行商人の持っていた鞄の中身を確認した。すると彼が売っていた魅了チャームの魔法がかけられたレリックの他にも、怪し気な薬や魔導書の類が乱雑に詰まっていた。


 ネベルは鞄からそのレリックを一つ取り出すと、男の前に突きつけこう尋ねた。


「お前はコロニー〈カマエル〉でも、この偽のレリックで取引したな」


「あ~? さあな、覚えてねえな」


「…………言葉は慎重に選ぶんだな」


 ネベルはエクリプスの刃を行商人の身体に密着させた。すると行商人は慌てた様子でこう言った。


「わ、分かったよ……。でも本当に覚えてねえよ。ここいらのコロニーはほとんど周ったが名前なんて覚えてねえし、売人は俺以外にもいるからなぁ。けっへっへ」


 行商人はこちらを小馬鹿にしたような態度をとってはいたが、嘘をついている様子は無かった。


「…………お前たちの目的は何だ。何のためのにこんな事をしている」


「てめえらが目障りだからだよっ だから跡形もなく消してやるのさ」


「なんだと」


 すると行商人は不気味な笑みを浮かべながら語り出した。


「集団魔法ってのはだいたいあってるぜぇ。ただしやる事はもっとえげつないけどな。カスどもに売ったレリックを起点にして大規模破壊魔法陣を発動し、ここいらの人間どもの住処を全部吹き飛ばすんだ! けっへっへ、最高に爽快だろうよ。邪魔なよそ者もみんな消えてついでに大規模破壊魔法の実験もできる一石二鳥の完璧な計画なのさ」


 黒魔法使いは人殺しの計画を嬉々として語っていた。フリークの言う通り黒魔法使いが頭のおかしな連中というのは本当のようだ。


「ふーん、そうか。でも今部外者にその大事な計画を知られて、完璧ではなくなったと思うんだけど?」


「ハハハ! 馬鹿めッ、このまま生かしておくわけがなかろうッ!」


 行商人はネベルに見られないように背中に隠していた、魔力を溜めていた右手を前に突き出すと、同時に魔法の炎を顕現させた。


「死ねッ エクセレスソルフレイム」


 しかしそれに対抗して瞬時にネベルも魔法を行使した。


「リフレクトマジック!」


「は!? 人間のくせに反射魔法だとッ ぐぁぁぁぁッ…………!」


 ネベルがとっさに使った魔法障壁に跳ね返された火炎球は、そのままに行商人に戻っていきその体を焼いた。苦しそうな断末魔も炎が消えると静まり返った。


「さてどうしようか……」


 焼死体を前にして、ネベルはこれから先をどうすべきか考えこんでいた。

 ピクシーは焼けた死体を少し怖がっていたが、棒立ちしたままのネベルを見るとこう言った。


「ねえねえ、こいつまだたくさん仲間がいるんだよね。止めなくていいの? なんかヤバそうな事いってたじゃん。大変なことになるんじゃない」


「ああ……。けど仲間の場所を吐かせる前に殺してしまったからな。もうどうにもできない」


「そうなの? うーん……」


「最初から俺には関係ない話さ、どっちみちほっとくしかないだろ」


「待って、今思いつくから…………、そうだネベル君! わたし、もしかしたら分かるかもよ」


 するとピクシーは行商人の鞄の中から偽物のレリックを取りだし手に取った。そして何かを確信したように頷いていた。


「うんうん、そうなんだ。やっぱり!  ねえ、微精霊たちがコレに魔法がかけられた場所なら教えてくれるって!」


 ピクシーはレリックに向かって一人だけで話をした後、ネベルに向かってそう言った。


「あ? 何をいってるんだお前」


「えへへ、このレリックの微精霊たちと話してみたんだ」


「……そんなことが出来たのか」


「まあ、わたしも元は微精霊だからね。えっへん」


 それまで便利なエネルギー程度にしか思っていなかった微精霊に、人のような意思があるとは思いもよらなかった。

 しかし意思のある摩訶不思議生物の代表ともいえるピクシーがそう言っているんだ。彼女の言葉は信じるしかなかった。


「へえ、そうか。つまり奴らのアジトの場所も分かるって事だな? やるじゃないか」


「うん! だけど、なんだかこの子たちも怖がってるみたい。急いだほうがいいかも」


「ああ。それならさっそく、悪者退治に行くとしようか。……ククッ」


 ネベルは次の行先を決めた。

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