第14話 ロボ ファクトリー
ゲバルの遺した電子端末の中には、旧文明のロボット工学についての知識だけではなく、かつて稼働していたロボット工場の座標も記録されていた。
ネベルはこれらの工場から電気基盤や金属片などのレリックを持ち出しては、大型刀剣エクリプスの改造などに使用していた。
ネベルは水苔の下に隠れていた、ひび割れたコンクリートの岩盤を見つけた。
「ここだ。マップの示している遺跡はこの近くにある」
コンクリートのような旧文明の物質があるという事は、近くにもっと大きな建築物などが眠っているという事だ。
ネベルは電子端末の情報を頼りに、旧文明の工場遺跡の場所を探していたのだ。
しばらく辺りを観察していると、目の前の轟々と流れ落ちる滝の中にきらりと光る何かを見つけた。
「……滝の裏か」
滝の中で見つけた光は、まるで金属が反射して生じたようだった。ネベルはその先に探している工場跡があると考えた。
「ええ!うそぉーー! 遺跡ってあんな所にあるのぉ?」
ネベルの小さなつぶやきを聞いたピクシーはその姿を現すやいなや、妖精の小さな体には似つかわしくないよく通る声でネベルにそう言った。
そしてネベルの周りをくるくると周りながら近くの岩場に着地すると、彼にこう尋ねた。
「ねえねえ、昔の人はなんで滝の裏なんていう超超めんどくさい場所に遺跡を建てたの?」
「違う。滝の裏に建てたんじゃない。後からなったんだ」
「んん? どういうこと?」
「ああ……父さんの電子端末によると、昔はどこもかしこも真っ平らだったらしい。けれどあの魔合があって、地形も色々変わったんだ」
「分かったっ。元から遺跡があった場所の上に、川とか滝が出来たのかぁ」
「ああ」
特殊な金属で出来たタイプの旧文明の遺跡はとても頑丈な造りだった。地形が盛り上がり、ゼロから巨大な滝が出来るような地殻変動にも耐えられる強度を持っていた。
「もしかして、これから滝の中に入るの? わたし濡れるのヤダなー」
「…………だったらついて来んなよ」
「もう~違うでしょネベル君。そこはレディをエスコートするんだよ……って、置いてかないでよー!」
旧文明の遺跡はその時代や出土するレリックにより、いくつかの種類に分類されていた。
このような大部分が特殊な金属で構成された遺跡は、おおよそ100年前までのサイバーエイジの遺跡だ。
その中でも
ネベルの向かった旧ロボット工場の遺跡には、プールや人間の死体があるわけではない。そのため危険なモンスターが寄り付くことはなかった。だが代わりに警備ロボットが工場を巡回しているので、それを避ける必要があった。
工場の内部は殺風景で、人の視て楽しめるような物は何もない。銀色の十字に入り組んだ通路が延々と続いているだけだ。
遺跡の中をしばらく進んでいると、前方から聞こえてくる小さなモーターの駆動音に気が付いた。ネベルは咄嗟に通路の反対側の壁に張り着いて身を隠し、進行方向から近づいて来る音源の様子をそっと覗き見る。
すると通路の天井付近を、球体状のロボットが浮遊しながら移動しているのが見えた。そのロボットは監視カメラのような役割を担っていて、あれに見つかるとたちまち他の戦闘用の警備ロボットが集まってきてしまうのだった。
監視の目をくぐり抜けながら、安全且つなるべく物資の損失を抑えて工場の備蓄倉庫にたどり着く事が、今回のミッションだ。
「なにしてるの。もしかして新しい遊び~?」
必死に球体状の監視ロボットから見つからないようにしているネベルに対し、ピクシーは呑気にそう言った。
妖精はエナジーを持つものにしか見る事が出来ず、機械のカメラには映らずピクシーだけは見つかる心配がなかったのだ。
「あ? どこから見てもそんなわけないだろ。見つからないように隠れてるんだよ!」
「そうなんだー。へへ、大変だね人間はぁ」
「ム。お前なー……」
監視ロボットはずっとネベルの近くにとどまったままで、なかなか遠くに行こうとしてくれなかった。このままではいつまでも先に進むことができない。
仕方なくネベルはエクリプスを銃形態に変形させた。これで監視ロボットを狙い撃ち、うまく機能を停止出来ればいいのだが、撃たれる瞬間を僅かでも目撃されれば援軍を呼ばれてしまう。死角から確実に一撃で決めなければならない。
しかし、エクリプスはその大きさ故に小回りが利かないという弱点があった。
射撃時には両手で銃身を上下で支える必要があり、ジャイロ補正のある剣状態より圧倒的に機動性に欠けていたのだ。
ネベルは見つからないように、十字の通路の壁からそっとロボットの様子を覗き込みつつ、攻撃のタイミングを窺った。
―チッ ここからじゃ、カメラがどこについてるのか見えない……―
ロボットの球体状のフォルムも相まって、背面から攻撃するタイミングを上手くつかむことがなかなか出来なかった。
~ピピピ…
今の電子音は監視ロボットが動く物体をカメラに捉えた時に発する警告音だ。
ロボットが自分の方に近づいて来たため、ネベルはサッと構えていたエクリプスを戻し壁の向こう側へ隠れた。
しばらく周辺をうろうろした後ロボットは離れて行ったが、まだ通り道は塞がれたままだ。
するとネベルが手間取っているのを見て、みかねたピクシーが彼にこう言った。
「ねえねえ。わたしが手伝ってあげよっか!」
「フン……。お前に何ができるんだ。手伝いなんかいらないぜ」
「まーまーそう言わないで。そうだなぁ……。あ!じゃあ、わたしがロボットの様子を見て来てあげるよ。それで合図するってのはどうだね?」
「それは……! 正直たすかるかも……」
攻撃の正確なタイミングさえ知る事ができれば光明も見える。
「え、本当?! ……いや、ほらねぇっ やっぱりピクシーさんが最強なんだよ。じゃあそう言う事で!あ、間違ってもわたしに弾を当てないでね!死んじゃうからっ」
ピクシーは自分を頼ったネベルの意外な返答に驚いたが、口角を上げていつもの自慢気な態度になるとフラフラとロボットの方へと飛んで行った。妖精のピクシーは監視ロボットに見つかる心配はない。
「小さな半球のガラスがどこかにあるハズだ。それが俺と反対方向に来たら教えてくれ!」
「はいはいー、お任せあれ~」
その後も何度か監視ロボットに出くわしたが、ピクシーの偵察のおかげでネベルはいつもより迅速にレリックのある備蓄倉庫にたどり着くことができた。
しかしこの件で借りを作らされたネベルは、ピクシーからわがままな要求を提示される事になる。
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