第13話 魔法使いの仕掛け

 フリークの家は外から見ればただの古い木造建築だが、家の中にはエルフの昔ながらの生活用品に紛れるように様々な機械が置かれていた。電気式の明かり、ロボット掃除機、冷蔵庫のような物。それらはレリックであったりそうではなくネベルが作ってあげたものだったりした。

 だが中にはネベルの知らない物も存在し、それらは魔法の研究のためにフリークがネベルの機械を参考にして作った物だった。


 ティータイムで一息つくと、ネベルは例の魔法のかかったレリックをフリークにみせた。テーブルの上に〈カマエル〉で手に入れたレリックを置く。


「これはレリックじゃないですか。私はエルフですよ? 人間の機械は全く分からないですって」


「うそつけ! お前ほど機械かぶれなエルフはいないよ。でも今はそれは重要じゃないんだ。もっとよく見てくれ」


「うーん? …………ああ、なるほど。これには魔法がかけられているんですね。魔法なら私は得意です」


 するとフリークは円柱状のレリックをネベルから受け取った。そして黒い白衣から拡大鏡を取りだし、レリックをじっくりと観察しだした。


「ねえねえ~ 二人して何やってるの? なんか面白いことぉ?」


 エルフの薬草茶は妖精には少し刺激が強かったようだ。

 薬草茶の特殊な成分で、すっかり酔っ払ってしまったピクシーは、フラフラと曲線を描きながら飛んでくるとネベルとフリークの間に着地した。

 

 そのままピクシーはテーブルの上でスヤスヤと寝息を立て始めたので、ネベルはピクシーを摘まみ上げると窓の外から投げ捨てた。

 妖精であるピクシーはまるで綿のような重さで、体積と予測していた重さが釣り合わずネベルは少し驚いたが、一仕事を終えると「フン」と満足気に咳払いをして元いた場所に戻っていった。


「もう。女の子には優しくしなさいって、ママは教えたハズだぞ♡」


「うっせぇ! ……それで、このレリックにはどんな魔法がかけられてるんだ」


「え…………」


「あ?」


「そんなことも分からないのですか? プクク!」


「ム。 いいから教えろ……」


「はいはい、分かりましたよ」


 フリークの言うようには、そもそもコレは本物のレリックでは無く、誰かが意図的に作った魔法のかけられたレリックの偽物デコイらしいのだ。

 具体的には魅了チャームの魔法。人やモンスターを執着させ周囲に集める力が備わっていたのだという。


「まあ、魔法効果はほとんど消えてしまっていますがね」


「誰が何のためにこんな物を作ったんだ」


「きっとろくでもなしの黒魔法使いたちが、集団魔法の生贄のために思いついたことだと思いますよ。深淵なるとんがり帽子の一味か、黒よりも黒。ファントムローゼのどれかでしょう」


 フリークの言ったこれら三つの黒魔法使いの派閥は、魔界でも悪名高い事で知れ渡っていた。黒魔法使いは比較的古い種族で、魔法に対する知識とプライドを持ち、その道を究める為なら手段を選ばなかった。そして自分たち以外の種族を嫌っていた。


「黒魔法使いたちは、その集団魔法とやらで何をする気なんだ?」


「さあね? 頭のおかしい黒魔法使いの考えてることなんて、美しいエルフの私には推察しかねますねー」


 どうやら黒魔法使い達は、詳しくは分からないがよからぬ事を企んでいるようだ。

 だが、他のコロニーの事情などネベルにとっては関係なかった。この混沌の時代、誰もが自分のために生きるので精一杯なのだ。


 レリックは偽物だった。かけられている魔法も役に立たないと知ると、ネベルはおもむろに刀剣を取りだした。


「そうか。つまりコイツは何の役にも立たないガラクタって事だ」


「そうですが。壊しちゃうんですか?」


「ああ」


 ネベルが軽く一閃すると、そのレリックは壊れて粉々に砕け散った。

 そしてネベルはエクリプスを格納すると、そのままログハウスから出ていこうとした。


 フリークは床に散らばったレリックの欠片を炎の魔法で綺麗に消し去ると、立ち去ろうとするネベルにこう言った。


「また、一人であてもなく彷徨うのですか」


「…………ああ」


「貴方の過去は知っていますが、その生き方は間違っていると思いますよ」


「…………俺の勝手だ」


「ふふ、そうですね」


 するとフリークはそれきり何も言わなくなって、家の奥へと引っ込んで行った。


「フン…………」


 ネベルは再び孤独な旅路を歩きだす。

 しかしネベルの足音でピクシーが目を覚ました。


「うへぇ、ねむねむ。あれ、もういくの? ねえねえ待ってよー!」


「……置いていこうと思ったのに」


「んん、今なんか言った?」


 エルフは惑わしの森を去る二人を見送った。

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