第10話 オーバーキル!
ネベルがコロニー〈カマエル〉から外に出ると、一匹のハーピィが待ち伏せしており、勢いよく鉤爪を振りかざし襲い掛かってきた。
一瞬で迫りくるハーピィに気がつくと、ネベルは鉤爪から逃げるのではなく逆に前進した。そして大型刀剣エクリプスを抜き放ち、交差法的な動作でハーピィを一刀両断。
「邪魔だ。
ハーピィは断末魔を上げる間もなくその場で絶命した。
一匹は仕留めた。しかしハーピィの群れはまだたくさん残っていたのを、コロニーの中から確認している。きっと何処かでまだハーピィが待ち伏せているはずだ。
ネベルは辺りを見渡し、ハーピィの姿を探した。
すると、コロニーの上部にまだ二匹のハーピィがいるのを発見した。
ハーピィの元に行くにはコロニーの屋根を登る必要がありそうだ。
しかし、階段や梯子のような都合のいい物は見当たらない。
そこでネベルはエナジー
梯子に片足をかけ充分な耐久性があることを確かめると、両手でがっちり掴んでどんどん上へと登っていった。
~ピューッ――
口笛の音が聞こえると、コロニーを攻撃していたハーピィ達は、一斉に外壁をよじ登ってきたネベルの方を向き直った。
「コッチだ。怪鳥ども、さっさとかかってきやがれ!」
「……シャー!」
挑発に乗り二匹のハーピィが、同時にネベルに襲い掛かってきた。
ネベルは戦いの高揚で小さな笑みを浮かべると、大型刀剣エクリプスを構えハーピィ達と相対する。
ハーピィは女の頭と胴体に鳥の羽と足がくっついた怪物だ。常に群れで暮らし、自分より弱い獲物を狙って狩りを行う。だがこのようにハーピィが人間のたくさん居るコロニーを襲撃する事は珍しかった。
ハーピィは群れでなければ大した脅威ではないモンスターだ。それでもハーピィの鉤爪の威力は鉄板程度ならぐにゃぐにゃに出来る力があった。
だがハーピィがいくら爪を振り回しても、ネベルには掠り傷さえ与える事は出来ない。ネベルは二匹の攻撃を完全に見切っていたのだ。
ハーピィ達はいくら攻め続けても当たらないことに困惑しながら、ネベルの周りをグルグルと飛び回っていた。
「ククッ そんなに俺と踊りたいのか。はっ いいぜ!」
ネベルは攻撃の隙をつくと、一匹のハーピィの足を掴みそのままもう一匹のハーピィ目掛けて投げ飛ばした。
「グガガッ」
ぶつかった二匹のハーピィは醜いうめき声を上げると、飛行を維持できずコロニーの屋根の上に落下。
その瞬間、二匹の動きは止まった。
これを好機とみたネベルは大型刀剣エクリプスを変形させ、剣の中にエナジーを注入した。するとエクリプスから白い蒸気のような煙と唸るような機械の稼働音が鳴り始めた。
剣の内部には極短時間に限り、微精霊が生み出す魔法エネルギーを旧文明時代の放射性エネルギーに昇華する機構が備わっていたのだ。
エクリプスの刃が赤熱している三秒の間だけ、斬撃のインパクト時に瞬間的な破壊力を持つ衝撃波を送り込む事が出来る……!
「死の舞踏を躍らせてやる。フェイタルブランド!」
コレは魔法では無かったがネベルはこの剣技に名前を付けていた。それはあまりに強力な奥義だったからだ。
ネベルは動きの止まっていたハーピィに対しそれぞれ一回ずつ剣を振るった。
斬撃を受けたハーピィは、一瞬で粉末のようにバラバラに砕け散った。
―ガチャ プシュゥ~
発動からちょうど三秒が経過すると、エクリプスのつかの辺りから自動的に円筒状の排熱装置が飛び出て来た。
剣から出る放射線は微量で人体への影響は無かった。しかし高威力であるこの技は明らかに多用するべきではなく、ネベル自身もフェイタルブランドがハーピィに対してオーバーキルである事を理解していた。
だがネベルは二匹のハーピィを自慢の必殺技で倒すと、満足そうに頷き、嬉しそうにほくそ笑みながらエクリプスを鞘へと格納していた。
コロニーの屋根の上から残りのハーピィを探していたネベルは、壁面のある一か所に三匹が群がっているのを見つけた。ハーピィ達は執拗に爪や翼でコロニーの壁をひっかいていた。
それを見たネベルは、最初はハーピィ達がまた壁を壊して侵入しようとしているのかと思った。しかしネベルはその壁の場所が使長の家のすぐ近くだと気づいた。
―あの執着の仕方は異常だぞ。やっぱりあの使長は何か隠しているんだ―
ネベルは屋根からハーピィ達の上に飛び降り三匹を同時に瞬殺した。そして謎を確かめるために、急いでコロニーの中へと戻った。
〈カマエル〉に戻るとコロニーの使長がネベルを出迎えた。ネベルが外のハーピィを倒すために出ていった後、住人達の奮戦のかいもあって、コロニー内部に侵入してきたハーピィは一匹もいなかったそうだ。
「あ、ネベルさん。外のハーピィは討伐し終えたんですか」
「……ああ」
「そうですか! いやぁ、おかげで助かりました。我らは皆、あなたに感謝しておりますよ」
「そんなことは関係ない。それより今すぐ、使長の家を調べさせろ」
「えっ そ、それは…………」
「ハーピィ達はお前の家の中の何かに吸い寄せられてるようだった。何か隠してるんじゃないか?」
「そんなことは…………そうだ。向こうに行きましょう!住人達がネベルさんを待ってますよ。コロニーを救ってくれた英雄に一目会いたいって!」
「ああ……分かった」
(「ほっ」)
「調べさせてもらうぜ!」
そう言って使長の制止を振り切ると、ネベルは家の中へずかずか入っていった。
そうして棚や家具を倒しながら家中をしらみつぶし探して、見つかったのは、エナジー
「このレリックはどこで手に入れた物だ?」
ネベルは見つけたレリックについて使長に尋ねた。すると使長はびくびくした様子でこう言った。
「あの…………すみませんでした」
「早く言うんだ」
「…………以前コロニーに来た商人から買いました」
「あ? なんですぐ言わなかった」
すると使長は決まりの悪そうに、さらに小さな声になってこう答えた。
「高かったもので、もったいなくて……はは」
「ああ」
「すみませんでした! あの、壊したりしないですよね?」
「フン……さあな」
無論、ネベルはこのレリックを壊すつもりだった。詳しい原理は分からないが、このレリックがコロニーにモンスターや奇怪な現象をおびき寄せていた原因であることは明らかだったからだ。
ネベルはレリックを宙に放り投げると、空中で砕こうとしてエクリプスを構えた。
「あ、ああ~ そんなっ 高かったのに」
使長は諦めて目の前の現実から背けるように顔を手で覆った。
だがレリックを砕く寸前でネベルはふと剣を振るのをやめた。落ちてくるレリックを片手でキャッチする。
「もしかして!考えなおしてくれたんですか?!」
「なんか変だ」
「変?何がです」
「微精霊が集まってる」
ネベルは円筒形のレリックの周りに集まる僅かな微精霊に気が付いた。エナジー
「まさか……」
ネベルは指先でレリックに触れると、体内のエナジーだけでとても小さなヒートヘイズを発動させた。そうすれば本来なら金属製のレリックの表面が少々熱くなるだけだった。
しかし実際には、レリックと炎の間で何らかの魔法的干渉が起き、静電気のような小さなイナヅマが発生した。この現象が示すのは、このレリックには何かの魔法がかけられているという事だった。
ネベルはこの不思議なレリックに興味を持った。
「このレリック。借りてもいいか?」
「え? いや、貸すのはちょっと…………なにぶん高価なものだったので」
「チッ……、いくらだ。買うよ」
「あ~、そうですねぇ。 10、いや20エナジーだったかなぁ」
「ああ。ほら」
そう言うとネベルは懐から緑色の小さな結晶を取りだし、使長に押し付けるようにして渡した。
20エナジー分を圧縮したものが1エナジー結晶となる。ただし結晶のままでは機械や銃などにエネルギーとして利用することが出来なかった。
「そんなガラクタ持ってどこに行くんですか?」
ネベルが魔法のかかったレリックを持ってコロニーから立ち去ろうとすると、使長は冷やかすようにそう言った。するとネベルは前を向いたままレリックを持った手を掲げてこう言った。
「当てがある。偏屈なエルフの知り合いがいるんだ」
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