第9話 空からの襲撃
コロニー〈カマエル〉
そこではある時を境に不思議な出来事が多発していた。
トイレからピラニアが大量発生、子供が一斉に病気にかかる、コロニーの近くでオーガが徘徊するなどだ。
凶事の報せは断続的に続いた。
そこで、困り果てた
不可視の獣。その名前は風の噂で聞くことがあったが、使長が実際に目にするのは初めてだった。使長は自分の家に彼を招いた。
コロニー〈カマエル〉にやって来た彼を見て、まず目についたのは背中にあった奇怪な形の剣だった。
彼が着ている黒コートには、ゴツイ見た目の機械の装身具が装着してあり、背面部の装身具は刀剣の鞘と一体化されていた。装備品はどれも傷だらけで、傭兵が繰り広げてきた壮絶な戦いの数々を物語っていた。
また、不可視の獣がまだ髭も生えていない少年だという事にはとても驚いた。
なのでコロニーの使長は噂で聞く武勇が、この少年のものだとすぐには信じる事が出来なかったぐらいだ。
しばらく話を聞くと、彼は名をネベル・ウェーバーだと語った。
「あなたが、本当にあの不可視の獣なんですか?」
「…………ああ、俺がそんな風に名乗った覚えはないけどな」
「そうですか。まあこの際あなたが誰だろうと構いません。どうか我らのコロニーを災いからお救いください。報酬は望むだけのエナジーをお支払いします」
「いいだろう。この仕事、引き受けたぜ」
「感謝いたします」
それからネベルは、〈カマエル〉で起きたここ数日の奇妙な現象について聞かされた。
使長から話を聞いたネベルは、それらの怪異はグレムリンなどの小さな妖精によってもたらされたイタズラではないかと推理した。
しかしコロニーの住人の中に妖精の姿を見たものは一人もおらず、またグレムリン程度の小物にオーガを操れる力は無かった。
「使長。コロニーの住人の中にエルフやウィッチと接触した者はいないか?」
「ミュートリアンと? それはどういう事でしょうか」
「彼らから何かの形で魔術をかけられていれば、それが原因でモンスターや奇怪な現象を引き起こしている可能性はあるんだ」
「なるほど! しかし……コロニーの中にそのような者はいないでしょう。住人がコロニーから出るのは農地の整備や泉から水を得る時だけ。我らは決して自分から危険なミュートリアンに近づこうとはしません」
「そうか。じゃあレリックはどうだ? 変わったレリックを手に入れなかったか」
「う゛っ レリックですか……。そうですねぇ。どうだったかなぁ…………」
ネベルがレリックについて尋ねると、使長は急に言葉を詰まらせ返答に困っているようだった。
明らかに彼は何か隠している。ネベルはその秘密について問いただそうとしたが、その時、家の外から何かが破壊される音が聞こえて来た。
二人が外に飛び出ると、コロニーの住人たちは慌てた様子で天を見上げていた。
ほとんどのコロニーは強化樹脂と金属の半球体のドーム状の建物だった。
まだ旧文明の機械が自由に使えた頃に、数百人が暮らせる簡素な一次しのぎの居住空間として作られたのだ。
天井は透明な強化樹脂製で、常にコロニー内は外界と完全に隔離されている。
しかし突如襲来したハーピィの群れにより、天井の一部が破壊され穴が空いてしまっていた!
ハーピィは羽の生えた女のような見た目の狂暴なモンスターだ。眼下の住人を見て涎を垂らしながら、今にも壊した天井の隙間から侵入を試みようとしていた。
「ネ、ネベルさん!」
「ああ。まかせろ」
ネベルは大型刀剣エクリプスを取りだすと、ギアを回して刀身を変形させエクリプスの銃撃形態を解放した。
すると剣先のカートリッジ射出口が左右に大きく開き、そこから刃に隠れていた銃身が姿を見せた。エクリプスに内蔵してあるのは、大口径で貫通力の高い
ネベルはしっかりと狙い定めてトリガーを引いた。鉛玉はハーピィの羽を貫通し、奴らは苦しそうにのたうち回りながら外へと逃げていく。
一匹は撃退したものの、まだコロニーの外では数匹のハーピィが内部の様子を伺っているようだ。このままでは、またすぐにハーピィ達の侵入を許してしまう可能性があるだろう。
だがネベルが外に退治に行こうかコロニーの中で守りに徹するか考えていると、エナジーライフルを持った数人の住人が加勢にしにきてくれた。
「使長、ここは私たちに任せてください」
集まった住人たちはエナジーライフルを空に向かって砲射し、ハーピィ達をけん制していた。それを見た使長はネベルにこう言った。
「ここは我々に任せて下さい。不可視のネベルさんは外のハーピィをよろしくお願いします」
ネベルはこくりと頷くと、エクリプスを剣撃形態に戻しコロニーの出口に向かって走っていった。
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