第5話 ビックモスキート

 ヒポテクスは大人しいモンスタータイプのミュートリアンだ。顔は馬に近く、大きな鼻の穴が特徴的だ。恐竜のラプトルのように素早く二足歩行で走り、主に草を食べて生きる。

 望からヒポテクスの乗り方を教わると、ディップとデルンは共にツンの遺跡まで向かった。ヒポテクスはまるで風のように走り、あっという間に目的地まで達した。


 ツンの遺跡は大きな長形の岩が幾重にも積み重なった地形だ。旧文明の塔は見当たらないが、周辺にモンスターが出現するため、以前から地下にはなんらかの構造物が眠っていると噂されていた。


 今もディップ達の視界には、空を飛ぶ何匹かの大型モンスターの姿が映っていた。


「兄さん、ビックモスキートですよ。まだこっちには気づいてないようですが」


「ああ、そうだな。気づいていない今がチャンスだぜ。望ちゃん、レリックの詳しい場所は分からないのか?」


 ディップは望にそう言った。しかし望は首を横に振るだけだった。


「くっ そうか」


「えっと……昔の建物の一番奥としか」


「うーん。ならやはり地下に遺跡があるんだな。…………よし、一か八か、賭けてみるか」


 するとディップは新しく機械を取りだした。それを見ると弟のデルンは驚いた。


「兄さん!正気ですか?! 目の前にあんな大きなミュートリアンがいるんですよ!」


「だとしても使うしかねえだろっ スピード勝負になる。いいから準備しやがれ」


「もう、分かりましたよっ」


 そう言うとデルンは半分ヤケクソになりながら、持っていたエナジーライフルの弾倉を込め始めた。


「何をはじめる気なんですか」


 望はディップに尋ねた。ディップは望にさっき取りだした機械を見せながらこう説明した。


「いいか。これからこのレーダーで周辺の地形を調べて地下への入り口を探す。それで恐らく遺跡を見つける事は出来るが、レーダーが出す音波でビックモスキートが俺達にすぐに気づくだろう。だから、遺跡の場所が分かったら、合図するからすぐに走るんだ」


「は、はい!」


「兄さん、武器の準備はできましたよ」


「よし、じゃあいくぞ!」


 ディップはレーダーの電源を入れた。


 ―~―ピコーン―…………


 すると機械から音波が発せられ周辺の地形がスキャンされた。チカチカと液晶が点滅しだし、少しずつ読み込んだ地形情報を映し出し始めた。


「兄さん! ミュートリアンが気づいた! 早く逃げなきゃ!」


「まだだ…………よしっ あそこの岩の下に空洞があるっ みんな走れ!」


 ディップの掛け声で三人は一番大きな長形の多岩の真下目掛けた駆けだした。空からレーダーの音波に反応したミュートリアンが迫って来ていた。


「グぎゃぁッ」


「このっ くらえ!」


 デルンは振り返りざまに、追いかけてくるビックモスキートにエナジーライフルの弾を撃った。しかし逃げながらの射撃だったので、狙いが定まらずほとんど弾は命中する事が無かった。


「デルン、構うな! 逃げることに集中するんだ」


「わ、分かったよ兄さん」


 デルンは渋々ライフルをしまった。


「はあっはあっ」


「望ちゃん、がんばれ! もう少しだ」


「っ はい!」


 ダイバーではない望は二人よりも身体能力が低かった。


 体力がつきかけ追いつかれそうな望を見ると、ディップは急いで来た道を引き返し望の元へと駆けつけた。


「しっかり掴まってろよ!」


「え?きゃっ」


 ディップは望を抱きかかえると、そのまま担いで大岩の隙間へと滑り込んだ。


 そこでは先に着いたデルンが二人を待っていた。


「多分この下だよ兄さん!」


「撃て撃て! ふさいでる岩肌を撃ち壊すんだ」


「オ―ケー!」 


 デルンはエナジーライフルを地面に向かって撃ちまくった。岩の地面はみるみるうちに削り彫られていき、下にはぽっかりとした空洞が現れた。


「飛び込めぇー!」


「おりゃー!」


「ええっ きゃぁー!」


 そして三人は遺跡に続く穴の中へと一斉にダイブした。


 後を追いかけて来たビックモスキートは、突然獲物の姿を見失なったので、そのまま何処かへ飛んで行った。

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