第2話 ダイバーシティ

 2440年

 魔合から生き残った2憶の人類は、地上にコロニーという金属の壁で囲まれた居住空間を建設した。

 コロニーの外では狂暴なモンスターが我が物顔で歩きまわる。なので残された人間たちは、細々と隠れながら生きる他なかった。


 僅かな資源を求めて人間同士で争う事もあり、法のような秩序が瓦解したこの世界は暴力と裏切りが支配していた。


 こんな過酷な世界では、皆が明日を生きる事で精一杯だ。

 人類全体の復興を憂う余裕など、誰にもありはしない。


 この時代、誰もが明日に怯えていたのだ。


 だが、己の利益の為、名声の為。今では希少となった旧文明の遺物レリックを求め、モンスターの潜む死地へと出向く命知らず達がいた。


 人々は、彼らをと呼んだ。



 そんな馬鹿者どもが多く集まるコロニーに、ある日来訪者が現れた。


「……っ 止まれ!」


 コロニーを守護していた衛兵はそう言うと、入り口に不用意に近づいて来た不審な人物に対し、持っていたエナジーライフルの銃口を向けた。


「貴様、中に入りたければパスポートを見せろ!」


「…………いえ、私はここのコロニーの人間では無いので、そのような物はもっていません」


「なに?? 他のコロニーから来ただと??」


 声は若い女の物だった。女はぼろのマントを深く被り顔を隠していたため、衛兵は女にマントを脱ぎ顔を見せるように言った。


「ほう…………」


 衛兵は女のあまりの美しさにため息をついた。この辺りでは見かけない黒髪黒目の美少女だ。童顔だが瞳には有り余る知性を感じさせる。大昔なら大和なでしこなどと言ったのだろう。


 衛兵に邪な気持ちが芽生え、女に向かって手が伸びそうになったが、そこである可能性が思い浮かんだ。


「待てよ。お前、あやしいぞ! さては貴様、ミュートリアンだな!」


「ち、違います!」


 ミュートリアンとは魔合によって現世に現れた魔界の生物の総称である。その中には狂暴なモンスターの他に、俗に言うエルフやドワーフ、サキュバスやデーモンのような人に近い存在も含まれていた。


「うるさい! この侵略者め、射殺してやる!」


 衛兵は問答無用で女に銃口を向けた。


「くっ…………」


 それを見ると女も懐から武器を取りだした。

 伸縮式の警棒かと思い気や、女がスイッチを入れると持ち手から熱線のような刀身が現れた。


「まさか旧文明の遺産、レリックか? ミュートリアンごときがなんで持ってるんだ。まあいい、殺して高値で売っぱらってやる! 覚悟しろ」


「や、やめてくださいッ」


「うるせぇ!死ねええーー!!!」


 まさに一触即発。

 しかし衛兵が引き金を引く瞬間、背後から大男が来て衛兵の持っていたエナジーライフルを取り上げてしまった。


「オイこら。何やってんだ」


「あ、ディップさん! ミュートリアンですよ、ミュートリアン!」


「えぇ? こんな可愛ちい子がミュートリアンなわけないだろ」


 そう言うと、ディップと呼ばれた男は何事も無かったかのように、あっさりと衛兵に銃を返した。さっきまであんなに殺気だっていた衛兵も、ディップが現れてからはとても安心しているようだった。


「やあ、俺の仲間が悪かった。俺はディップ・バーンズ。君の名は?」


「私は月見里やまなし のぞみです。あの、助けてくれてありがとうございます」


「いいってことよ。同じ人間どうし助け合わなくちゃな! 望ちゃん、ようこそ俺たちのコロニー〈ダイバーシティ〉へ、案内するぜ」


「は、はい! ありがとうございます」


 そしてディップは望を連れて、コロニーにある行きつけの酒場に向かったのだった。

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