DareDevil Diver ~深き混迷から立ち上がる者たち~

かがり丸

原書の獣

第1話 魔合

 ―侮ることなかれ

 空想が現実となり、悪夢が災いとなって降りかかる。

  死人の幽霊、悪魔、ウィッチ、レプラカーンやドラゴン。

 空想だったそれらは、1000年の時をもって日常となる。

  恐るることなかれ―


 ヴォイニッチ手稿 改め、ヴォイニッチ予言書より 第57項 新世界開合



 2408年

 長い間解読不可能だったヴォイニッチ手稿が、ただの子供の落書きだったと知った時、人類は落胆した。


 解読に成功した当初、この蒙昧で突拍子もない内容の文書について真面目に議論する学者らもいたが、当然すぐに話題にする事もばかばかしくなり、この古い書物は人々の記憶から忘れ去られることになった。

 かの有名なノストラダムスの大予言「空から恐怖の大王が降って来る」の方が、抽象的な分まだ信憑性があっただろう。


 しかし、もちろんこの予言は的中することになる。

 そうでなければ、この物語は先に進まないからだ。



 この時代の多くの人々は、カテドラルスペースという仮想空間で暮らしていた。


 世界各地の都市部には大きな塔が建てられた。その中には人口羊水とナノマシンの詰まったプールという名の仮想空間へのフルダイブマシンがたくさん詰まっており、夢の中では大勢がそれぞれの人生を謳歌していた。

 仮想空間では衣食住すべてが揃う上、理想どおりの最高の生活が出来たのだ。


 この時点で、人口の大半が仮想空間で生活するようになってから百年余りの年月が過ぎていた。

 わざわざつらい現実空間で生きようする物好きは少ない。それでも地上で暮らすのは産業用ロボットと、アンチダイバーと言う反仮想空間の思想を持つ10億あまりのわずかな人間だけだった。


 なので仮想空間で暮らす200憶の人間は、空に現れたもう一つの新しい月に気づくことが出来なかった……。



 2422年

 人々から忘れされた予言の刻がついにやってきた。のちに魔合と呼ばれる出来事だった。


 その日、空に浮かぶ月と太陽、そして新しくやってきた月の影とが一つに重なった。

 白く明るい闇の中、空に浮かぶただの月だったそれは禍々しくギラギラと輝きだし、あっという間に世界を覆い隠した。それこそ異界と現世が一つになった瞬間だった。


 まず最初に変わったものは大気だ。地上に居た人々は空気が軽くなった感じを覚え、身体に羽が生えたように錯覚した者もいた。ある者はその違和感に嘔吐していた。


 魔界の大気には現世でいう微生物のようなものが多く含まれていて、アンチダイバー達の一時的な高揚感はその影響だった。人体には生死にかかわる影響がなく、その事については特に問題はなかった。


 また大気中の微生物たちは集まると結晶化する性質があり、地上の各地を結晶で溢れさせた。これもまあ大丈夫だ。


 一番最悪だったのは、魔界から来たモンスターが世界中の塔をぶち壊して回った事だ。アンチダイバーたちはなんとか止めようとしたが、狂暴な牙を持つモンスターたちに逆に数を減らされてしまった。


 魔界の怪物によって大量のプールがある塔をいくつも壊され、ついに200憶あった人類は2億にまで数を減らした。


 文明の崩壊である。

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