2024年5月7日 感想『R帝国』
【はじめに】
時々、ディストピア小説を摂取したい欲求に駆られる。
かつてジョージ・オーウェルが描いた不朽の名作『1984年』に脳を焼かれてしまった私は、あの時の強烈な、思考が塗り替えられるような感覚をもう一度味わいたいと思っているのだ。
人生観や思考回路に影響を与える素晴らしい作品は多々あれど、今の自分が置かれている現状を見直し、心機一転を図ろうとするならば、ディストピア小説はうってつけだと思っている。
ただし、ショック療法に近いので、あんまりのめり込みすぎないように注意されたし。
さて、この『R帝国』は、そんな欲求を持つ私が久しぶりに手にとって見たディストピア小説である。
結論として、とても面白かったし、現代そして日本という国に住む我々にとってはかなり示唆に富んだ作品であると思うので、ぜひ読んでみてほしい。
【あらすじ】
近未来の島国・R帝国。人々は人工知能搭載型携帯電話・HP(ヒューマン・フォン)の画面を常に見ながら生活している。
ある日、矢崎はR帝国が隣国と戦争を始めたことを知る。だが何かがおかしい。
国家を支配する絶対的な存在”党”と、謎の組織「L」。
この国の運命の先にあるのは、幸福か絶望か。
やがて物語は世界の「真実」にたどり着く。
(文庫本のあらすじより)
【感想】
「現代日本人」の我々にはぶっ刺さるディストピア小説だと思った。
そのくらい、作中におけるR帝国の体制や、国民性が、現代の我々と似通っている。
ディストピア小説は風刺があってナンボである。
『1984年』では全体主義国家を、『すばらしい新世界』では平和と安寧を、『華氏451度』では映像メディアがもたらす文化の破壊をそれぞれ誇張して国家の形に仕立て上げ、恐ろしくもどこか身近に感じる世界観を提供している。
では、本作『R帝国』では一体何が誇張されているのかというと、あくまで私見であるが、それは「我々」であるような気がした。
作者の中村文則先生があとがきで述べているとおり、この作品で風刺されているものは非常に多岐に渡っているので、一概にそうと言い切ることは難しいのであるが、「我々」にある程度の風刺の目が向けられていることは事実であろう。
それは「現代社会に生きる我々」であり、「日本に生きる我々」であり、「スマホを使う我々」であり、「集合体としての我々」である。
具体例を1つ挙げよう。(ネタバレになるので未読勢は注意!)
この『R帝国』では、第二次世界大戦中の日本を思わせるような国家主義的な”党”に対し、「L」と呼ばれる組織が反旗を翻そうとする。
物語終盤、「L」の企み――国家が抱えているスキャンダルを全国民に発信するハッキング――は、見事に成功する。
成功するのだが、なんと、まったく意味を成さないのである。
国家が先手を打ってその発信を止めたのでも、内容を改竄したのでもない。
その情報を受け取った国民が、己の生活と心の安寧を守るため、その情報が真実であるとうっすら感じているにも関わらず、「信じようとしない」のである。
これは非常に面白いと思った。
私がこれまで読んできたディストピア小説では、国民は常に国家に支配されていた。
徹底的な監視体制下では行動を制限され、情報操作や洗脳によって思考を国家に都合がいいように塗り替えられていた。
いわば「被害者」である。
彼らは時として洗脳から目覚めた主人公たちをバッシングし、時には国家の犬として治安機構に引き渡そうとするが、それはどちらかというと「洗脳された結果、そうするようになってしまった」というような印象が強い。
しかし、『R帝国』では国民は「被害者」ではなく「共犯者」として描かれている。
行き過ぎた事なかれ主義が生み出した、沈黙の加害者。
無論、彼らも”党”による情操教育を受けているので、「被害者」的な側面がないとは言えないが、根本はあくまで「共犯者」であると思った。
これは恐らく西欧諸国と日本における「個人」に対する認識の差だと思う。
これ以上はなんだか色んなところに煙を立ててしまうような気がするので深くは言及しないけれども、そういう意味でも「我々」に近しい世界を描いたディストピア小説であると思う。
こんな感じで、『R帝国』内では様々な風刺が描かれている。
たぶん多くの人が共感したり「ウグッ」と痛いところ突かれたりすると思う。
私は読書の際、感銘を受けた箇所のページの角を折るという習慣があるのだが、本作に関していうと、めちゃくちゃ角を折った。
本の厚みに影響をもたらしてしまうくらいには。
そういう意味でも本作は非常にタメになる作品であると思う。
単純にディストピア小説としてかなり出来がよくて面白いのでぜひ読んでみてほしい。
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