2024年4月28日 感想『探偵に推理をさせないでください。最悪の場合、世界が滅びる可能性がございますので。』

【はじめに】

 かねてより気になっていた作品であった。


 特殊設定ミステリは大好物であるし、あらすじを読んだだけで「あ、これ好きなタイプの作風だな」と直感的に理解したからである。


 また、私の作品を読んでくださった方から、「似たような傾向を感じる」とのお言葉をいただいていた作品であったから、自分の作品の研磨のためにも読まねばなるまいと思っていた。


 以下、感想をつらつらと書いていく。


 そして、タイトルがあまりに長すぎるので、作品名は公式略称を用いて、『すいほろ』と呼ばせていただく。



【あらすじ】


「私はね、探偵なの。それもただの探偵じゃなくてね。この私、推川理耶は――本格的名探偵なんだよ」

 ミステリ好きの高校生・福寄幸太は、自称名探偵の美少女・推川理耶から一方的に助手に指名される。

 するとなぜか、目隠しをした幼女、二重人格のお嬢様など、助手希望者が続々と集まってくることに。

 そんなある日、校内で発生した事件において、空想上の怪物が犯人だという「迷推理」で幸太を呆れさせる理耶。

 しかしその夜、幸太は空を飛ぶ怪物を目の当たりにし、理耶に隠された秘密の一端を知る――名探偵は絶対に間違えない、「真実を生み出す」ことによって。



※以下、本作のネタバレを含みます。




【いち読者としての感想】


 まずは純粋な読者としての感想について語る。


「このごった煮感好きだな~~~~」とメチャクチャ思った。


 作者の夜方先生もあとがきで触れていることであるが、『すいほろ』は夜方先生の「好き」が詰め込まれた作品である。


 ミステリ、異能、非現実、特殊な組織、クセありヒロインにバトル展開。


 おいおい。オタクの宝石箱かよ。


 私は『すいほろ』の中でも、設定の緻密さとキャラクターに魅力を感じた。


 設定については、「推川理耶という存在が作品全体を支える巨大な基盤となっていること」で、ハチャメチャやれているのが良かった。


 推川理耶という作品全体にミステリという軸を通す大黒柱がいることで、他のクセありヒロインたちものびのびやれているイメージである。


 各ヒロインたちも個性豊かで、あらゆるオタクのツボをぶっ刺してやるぜという気概を感じた。


 それでいて個々人の異能にまつわる設定はどれもこれもきっちり作り込まれていて、「一作作れる設定をポンポン出すなんて気前がいいな」とすら思った。


 作中で姫咲先輩が述べていた、「私達は相応の舞台に変われば間違いなくその中心に立つ存在なのですわ」というのは、この作品を端的に言い表した良いセリフである。


 推川理耶というメインヒロインとそれを引き立たせるサブヒロインたちという構図ではなく、推川理耶という中心点に集った別作品のメインヒロインたちという構図だ。


 だから正直言って、2巻以降の展開が読めない。


 基本軸はミステリとして展開していくのだろうが、各々のヒロインたちにピントを合わせた特殊設定ミステリ的な展開になったら面白そうだなぁとか思っている。


 ちなみに私が好きなのは癒々島ゆゆさんである。よわよわでかわいいから。





【寺場糸としての感想】


 次に、(いちおう)作家としての感想を語る。


 「ワシと同じ電波受信しとるやんけ!!!!!」とビシバシ感じた作品であった。


 もうあらすじの時点で明白なのであるが、この作品は谷川流先生の名作『涼宮ハルヒの憂鬱』に非常に影響を受けて作られたものであると思う。


 メインヒロインの推川理耶がハルヒの願望実現能力に近しいものを持っているし、登場するメインキャラクターが軒並みなんらかの異能力を持っており、そして推川理耶の強大すぎる能力を監視しているという設定は、身も蓋もない言い方をすれば、まんまである。


 自分が感銘を受けた作品へのパロディやオマージュの是非については個々人の見解があるだろうが、私は大いにアリだと思っている。


 『すいほろ』は単にハルヒの設定を希釈しただけの作品ではない。


 作品に「ミステリ」という方向性を与えているし、キャラクターはうまく令和ナイズドされていて一発で魅力的だと思えた。


 作者の夜方先生の中できちんと消化された末に生まれたものであることは明白である。


 だからこそ、私は非常に夜方先生へシンパシーを感じた。


 なぜなら私の作品も方向性としてはほとんど同じだからである。


 感銘を受けた作品を下地として、その上にオリジナリティを重ねていくスタイル。

 下地が同じなうえに、作品の味付けまで似ている。私も基本的な作風はコメディだ。


 しかも、皆がニコニコ動画にハレ晴レユカイの踊ってみた動画を投稿していた時期ならともかく、令和も6年、なぜこんなタイムラグを経て同じ作品形成回路を持った作家が2人も誕生してしまったのか。


 シンクロニシティなのか。スタンド使いは惹かれ合うのか。

 

 その謎は、本格的名探偵ではない私には解くことはできない。

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