2024年4月3日 書評『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 完全版 幸せの背景は不幸』

 タイトル長っ!


 でも、書評をするからには、きちんと正式な作品名を書いておかないと示しがつかないと思うので、省略ナシで書きました。


 『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』という作品は、いわゆるゼロ年代に出版されていたライトノベルシリーズですね。


 恥ずかしながら、今まで読んだことがありませんでした。


 無論、結構長いこと刊行されていた作品なのでその存在自体は知っていましたが(タイトルもインパクト強いし)、この作品が本屋に並んでいた時代、私は斜に構えて純文学作品ばかり読んでいたので、ライトノベルコーナーの棚に近寄ることすらありませんでした。


 そんないじらしい自意識のトゲもいつしか抜けてしまった今、有名作品を読んでいないというのはただのディスアドバンテージでしかありません。


 ということで、読みました。


 以下、ネタバレを含む感想となります。








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「エアプだけど、ゼロ年代のラノベってこんな作風なイメージだな」というのが率直な感想でした。


 嘘つきみーくんの虚実入り交じる軽妙な独白により進んでいくこの物語は、はっきり言うと読者の好みの分かれる作品です。


 主人公もヒロインもどこか精神に異常をきたしているし、残酷な過去が本当に洒落にならないくらいの残酷さだし、誘拐・殺人・虐待と、仄暗い気持ちになる要素満載です。


 私もそうだったので人のことは言えませんが、多感な時期というものはアンモラルな作品に惹かれがちです。


 道徳的、倫理的に社会からは認められていないものを、せめてエッセンスだけでも享受しようと、そういったフィクションを手に取ってみる。一種の予防接種みたいなものなのかもしれません。


 中身の感想については、「面白かった!」というバカ丸出しのものになります。


 そもそも私は大抵の作品を楽しく読めるタチなのです。



 この作品は、一応ミステリの目線で読んでいました。


 帯に「大どんでん返しを見逃すな!」と記されていたからです。


 私のよくないクセなのですが、こういう仕掛けを施してある作品に対しては、「よーし途中で展開を予想してやろう」と対抗心燃やしてメタ読みしがちです。


 そのため、展開や「大どんでん返し」にもあまり驚きはありませんでした。


 具体的に言うと、「みーくんの正体」とか、「みーくんは露悪的に振る舞っているだけで、その実誰も殺していないし真犯人は別にいる」というあたりでしょうか。


 これは作品を貶めようとして言ったものではないことをご理解いただきたいです。

 ただ、良くない経験値が積み上がって無駄に目線が高くなっている上に、背伸びまでしているのですから。私がズルをしているだけという話です。


 私がこの作品で感銘を受けたのは、それらの作品のギミックや展開よりも、語り手「みーくん」の露悪的で軽妙な語り口でした。


 常に「真剣」というものから遠ざかるように発せられる皮肉めいた軽口は、実に表現豊かで小気味よくて、そしてどこかいじらしくなります。


 なんというか、「無理して悪者になろうとしている」感が伝わってくるんですよね。

 これは作者、入間人間先生の妙です。

 だから、作中で主人公がどれだけ非道いことをしようとも、どこか彼に憐れみに似た感情を抱いてしまいます。


 みーくんにとっては屈辱以外何物でもない視線でしょうが、メタ的に言えば、「主人公に好感を抱かせる」作者の技術であると言えますね。


 ここまで結構好意的(そうか?)な感想を述べてきましたが、最後に1つ、私が不満を持った点についても、正直にお話します。


 みーくんは、「実は女の子だった」という設定のほうが、収まりが良かったんじゃないでしょうか。


 この作品のタイトルは、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」です。


 これだけ読んだら、多くの人は「みーくんが男の子で、まーちゃんが女の子」だと思うでしょう。

 実際、みーくんの一人称は「僕」ですし、まーちゃんはひたすら美少女として描写されています。


 ただ、作中ではみーくんがひたすら自分を「嘘つき」だと述べていたので、私は読み進めながら、「登場人物の性別が実は逆」「もしくは両方とも女の子」の予想を立てていました。


 どういう思考回路でそうなったんだと問われると、以下のような流れです。


① 「タイトルだけで男女のペアの物語だとわかる作品」である。

② タイトルに「嘘つき」が入っており、物語はその「嘘つき」の一人称によって紡がれている。

③ 「嘘つき」と言うからには、叙述トリック的なものが仕掛けられているだろう。

④ ①を否定する(嘘をつく)としたら、それは「実は性別が逆だった男女のペアの物語」もしくは「実は性別が一致していたペアの物語」ではないか。


 こんな感じですかね。

 メタ読みが過ぎますでしょうか?


 ですが、本作が電撃大賞に応募された時は、「みーくん」の性別は女性に設定されていたそうです。


 恐らく、入間先生もそっちのほうがキレイなオチになると思っていたんじゃないかと邪推してしまいますが、単刊ならともかく、続編も出すとなると当時の市場では難しかったんでしょうかね。

(極めて邪推です。ただの妄想です。まだ1巻しか読んでないので続編も含めると話も変わるかもしれません。当時のラノベ市場を知らないエアプ勢です。お願いだから「知ったか」とか「無知」とか言って燃やさないで!!!!)


 さて、長い自己弁護も終わったところで今回はこのへんでおしまいにします。


 今後も、読んだ本の感想や、オススメしたい作品についてはこんな感じで書いていこうと思ってます。

 

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