2024年4月2日 字面に納得いってない

 「紺」という漢字がある。


 「紺色」という、黒みがかった青色を示す時に使われる漢字であり、主に空や着物やスクール水着を表現する際に用いられることが多い。


 私は昔から、この漢字の字面に納得がいっていなかった。

 いつまで経っても「紺」という漢字とあのダークブルーがシナプスで繋がらなかった。


 「紺」


 いや、どう見ても寒色の字面じゃないだろう。


 この字面で「黒みがかった青色」になることある?


 黄色が入り混じったオレンジあたりの暖色のほうがふさわしくないか?


 だが、このままでは私は自分の気に食わないものをただの感情論で否定しようとするクレーマーへと成り下がる。


 ここは極めて冷静に、論理的に、私が「紺」という漢字を見た時に暖色を想起してしまう根拠を、以下に提示しようではないか。


 まず、「紺」の漢字を部首と編にわけてみようか。


 「糸」は、正直なところ寒色でも暖色でもないと思う。

 想起される色は白か透明といったところだ。ニュートラル。

 この漢字が全体のイメージに与える影響はほとんどない。


 しかし、「甘」はどうだろう?

 どう見ても暖色だろコイツは。


 「甘」だぜ?


 「甘いもの」と言われてネイビー色の食べ物のイメージが湧いてきたら食欲減退もいいところだし、「甘々お姉さん」というワードを見た時、脳内に想起されるお姉さんの髪色がブルーなことはないと思う。


 「甘」は暖色。

 これは大いに納得してもらえると思う。


 じゃあ、なんでニュートラルな「糸」と暖色の「甘」が合体した「紺」があんなダークサイドに落ちたブルーになるんだよ!


 おかしい! 絶対におかしい!


 ……。

 失礼。取り乱した。

 次の根拠に移ろう。


 「紺」の読みは「こん」である。

 「こん」という音を聞いたら、多くの日本人はキツネの鳴き声の「コン」を想起するのではないだろうか。


 キツネの普遍的なイメージであるキタキツネの毛皮は赤みがかった褐色だ。


 まごうことなき暖色やないかい!


 英語でもRed Foxって言われとるやないかい!


 ほなら、あの油揚げみたいなコンガリきつね色を「紺色」って読んだほうがよくないどすか?????????


 ……。

 失礼。またも取り乱した。


 とにかく、以上の理由をもって、私は「紺」という色が、その字面や音のイメージに反しているものであることを示したワケだ。


 反論がないなら私の勝ちだが、どうする?


 これ以上に説得力のある根拠を示せないのならば、「紺」という漢字が表す色を、寒色から暖色へ、文字通り塗り替えてやろうと思うが、どうする?


 …………。


 ……。


 なに?


 後漢時代に著された最古の漢字辞典『説文解字』に、「紺はきぬの深青にして赤色をぐるもの也」という記述があるだって?


 …………。


 わかったよ。


 私の負けだよ。

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