2024年4月1日 創作歴を振り返る 後編

 大学に入学した私は、一度ライトノベルというものから離れていた。


 創作活動を辞めてしまったのではない。


 大学では流石にどこかに居場所を作ろうと思って文芸サークルに身を置いていたし、毎月発行するペーパー本や年二回発刊する合同誌には積極的に作品を投げつけていた。


 しかし、いわゆる「ライトノベル」のジャンルに属するような作品は書かなかった。もっぱら星新一氏のようなショート・ショートや、一般文芸チックな作品ばかりを書いていた。


 文芸サークルはどちらかというと硬派な作品が集まる雰囲気であったし、自分の作品が見知った顔に読まれることを加味すると、己の願望を煮詰めたような作品を執筆するのは恥ずかしいなと思ったからだ。


 当時の私は全くもって見当違いの羞恥心を抱いていたのだ。


 短編はアイディアを思いつくたびに書いていたので、ここで紹介するのはやめておく。後日、気に入っている作品だけアップしていくので、よければ読んでみてほしい。


 今回紹介するのは、大学の学園祭に出店する際に描き下ろした2つの中編小説だ。


 1つは、『クモノイト』という作品だ。

 これは多大なモリミズム(森見登美彦先生の作品群の影響。勝手に命名)を受けて執筆したファンタジー恋愛小説である。


 とある蜘蛛を殺してしまったことで、「人と人との縁」が見えるようになってしまった腐れ大学生が、友人と想い人の関係を知ってしまい、恋と友情、正義と悪、恋と愛の狭間で揺れ動くという物語だ。


 恋愛小説とは言ったものの、甘酢っぱい青春の要素など微塵もなく、捻くれた主人公の思考や行動のせいでどんどん苦々しく仕上がっていった。


 最終的に、「気付いた人にだけ真実が伝わる」メリーバッドエンド的な終わり方をしたこの作品は、自分でも結構よくできていると思う。


 いずれ登場人物を増やして間の展開を増やして、長編小説にしたいと思っている。



 もう1つは、『すばらしい新生活』という作品だ。


 これは、ディストピア小説の名作、『1984年』と『すばらしい新世界』に多大な影響を受けて記された、小規模なディストピア小説である。


 とあるイベントサークルが権力を牛耳る大学に入学してしまい、浮ついた生活を強制されるようになってしまった主人公が、その軽薄な人間関係や非生産的な生活から脱却しようとする物語である。


 小規模とはいえディストピア小説であったので、私にしては珍しくコメディ要素の薄い作品となった。


 これはタイトル、設定、構成、登場人物すべてが気に入っており、今でも読み返して「我ながら傑作」と越に浸ったりもするのだが、かなり実体験を交えて書いてしまったので、公表は憚られる。


 これもまた、いずれは改稿してちゃんとした長編小説に仕上げたいと思っている。



 文芸サークルではこのように一般文芸じみたものばかりを書いていた私だったが、次第に、やはり自分の文体にあったコメディ重視のライトノベルを書きたいと思うようになっていった。


 そこで、サークルとは別に、個人でライトノベルの執筆を開始したのである。


 大学4年生の時、就活も卒論も終えた私は、ついに一作のファンタジー小説を書き上げた。


 タイトルを、『Brave Another World』という。

 (すばらしい新世界の原題”Brave new world”の影響をモロに受けている)


 相変わらず主人公はどこかクセのある拗らせ野郎で、ヒロイン兼相棒はスライムで、舞台はサイバーパンクで……といった具合に、癖という癖を詰め込み、それをコメディに仕立て上げた。


 この作品は、スニーカー大賞の一次選考を突破し、一時的に私に希望を抱かせたものの、そこまでであった。


 後日送られてきた選評には、「キャラクターはいいけど文章力と展開がイマイチ」と書かれていた。


 要は、凡作だったということだ。



 そして私は失意のうちに社会人になった。


 社会人になると、途端に創作活動ができなくなった。

 脳のリソースが仕事というものに奪われ、小説の執筆どころか読書すらできず、かつては無限に湧き出てきた妄想も、意識しないと出てこないようになってしまった。


 仕事に慣れるまでの一年が過ぎ、レベルアップのための一年が過ぎ、異動になって新たな仕事を覚えて一年が過ぎ、膨大に増えてきた仕事を次から次へと処理するうちにまた一年が過ぎた。


 そうして私は過酷な労働時間と年々増していくストレスに耐えかねて、ついに心身を壊してしまった。


 『僕はライトノベルの主人公』という作品は、そんなどん底の最中、有り余る時間を使って書いたものだ。


 今更、あえてこの作品の説明はすまい。


 ただ、失意の渦中において、かつての自分を取り戻すために執筆したこの作品が、かつて自分が抱いていた夢を叶えてくれたという事実が、私には嬉しくてたまらない。




 さて、3日と6,000字をかけて己の創作歴というものを振り返ってみたが、こうしてみると、どれもこれもが愛おしい我が子のような作品ばかりである。


 どいつもこいつも欠点を持つヤツラではあるものの、彼らは私の結果に何らかの形で結びついていると思うと、きちんと年代ごとにフォルダ分けして、己の足跡として保存しておきたくなる。

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