第5話 グンマ県警湾岸署捜査13課転移犯係の野望

 今日から俺は刑事になる。捜査1ふふ課の刑事だ。被疑者逮捕しまくって警視総監賞を獲るぞ。なんなら警視総監にだってなったるぞぉ。

「おはようございますっ。本日より配属になりました、未来の警視総監、班目ま・だ・ら・めです。よろしくお願いします」

「おう、牛井靖だ。よろしくな」

 ウシイ? 変わった名前だ。年のころは50前後といったところか。くたびれたスーツに無精ひげ、これは典型的なデキるのに反骨精神が旺盛すぎて出世できず、まわりのひとからもついていけないって思われて孤高の存在となった刑事とかいてデカと読むだな。要注目キャラだ。

「お前、いま失礼なこと思っただろ。牛丼みたいな名前だって」

「いえ、そ、そんなことわぁ」

 あります! 牛井って字は不自然で物足りない、やっぱ牛丼になって完成って思います。

「牛丼安しって、吉野家のまわしものかよ。大盛りねぎだくギョク! って、今から昼飯に牛丼食いたくなったじゃねえか、って思ってんだろ」

「そこまでは思ってません」

「いいんだ、名前ボケツッコミのネタなんだ」

 ネタもってるって、芸人かよ。おっといかん、ツッコミをいれてしまった。俺は芸人になりたいんじゃないんだ。ツッコミはひかえろ。


「もうわかっていると思うが、この捜査13課転移犯係には俺とお前しかいねえ。つまり、俺たちはコンビだな、頼むぜ相棒」

 コンビって、お笑いコンビを組まされるわけではないよな。バディだ、バディ。うん、これから被疑者を逮捕しまくって。

「で、転移犯係というのは?」

「お前、そんなこともわからねえで配属されてきたのか?」

 わかりません。あと、俺たちふたりといったけど、牛丼さんの奥に奇抜な服装の女性がすわってお茶飲んでるんですけど。魔女みたいな服装に湯呑みでお茶って、世界観がバグってないかな。このひとは、この係の人ではないのか? 近所の主婦とか? なんでそんなひとがお茶飲んでくつろいでいるんだ。

「転移犯係、転移犯てのはな。なあ、あれだよな!」

 顔をこちらに向けたまま背をそらして、うしろの女性に向かって話しているようだ。俺にだけ見えるってわけじゃなくて、まずはひと安心だ。完全に安心するわけにはいかないけど。

「異世界転移はこっちの法律で言うと、逮捕監禁罪にあたるってんで、異世界転移を取り締まるのが、あたいたちの仕事なのさ」

「そういうことだ。なにも知らなかったとなると、今の説明でも理解はできんだろうが、やってりゃそのうちわかる。俺もそうだった」

「いえ、完全に理解しました。俺たちで魔王を倒しましょう!」

「そんな理解で、よくわかった気になれたな」

 どうやら魔法使い的な女性も関係者ではあるらしい。事務の人かな。ともかく、魔王を倒しまくって警視総監になるぞ!


 今捜査中の異世界転移事件があるといって、レクチャーを兼ねて現場に行くことになった。今は警察の車を運転中、俺は運転が得意ではないけれど、ちょっとこの車にも慣れてきたところだ。話をする余裕ができたぞ。

「牛丼さん、なんであのひとは一緒に乗らないんです? 現場に一緒に行くようなこと言ってませんでした?」

 俺の運転を信用してないってことか? その勘は当たってるかもな。現場にくるってことで、事務員ではないことはわかった。

「メンドクセエ奴なんだ。帽子のトンガリがつぶれるのが嫌だとか言って、車には乗らねえんだとよ」

「はあ、たしかにトンガリ高かったですもんねえ。車に乗ったら天井に引っかかってポキッと折れたりしますよ。となると、どうやって現場まで移動するんですか」

「転移魔法はやめておけっていってあるから、浮遊魔法で空を移動してくるはずだ」

 窓をあけて見上げると、本当に飛んで車と一緒に移動していた。けっこう高いところにいるのは、目立たないためかな。その気遣いいるか? 高くても低くても人が飛んでいたら騒ぎになるだろ。

「あのひとはなにものなんですか」

「アガサか? 協力者だな。公安の外事3課なんかで有名だろ。それより前見て運転しろよ。俺の命が危ねえだろ」

 外事3課みたいな、そんなかっこいい人だったのか、ノイローゼ気味の主婦ってわけでもなかった。主婦が現場にこないか。

 名前はアガサか。お互い自己紹介しなかったな。おっとぉ、反対車線にはみ出しそうになってしまった。考え事はひかえめに、だな。牛丼さんは頭のところの取っ手につかまっている。

「異世界転移については知ってるな」

「えっと、アニメやラノベの」

「そうだな。お前も暇があったら読んでおけ。うちのヤマは特殊だからな、あんなのが知ってると役に立つことがある」

「はあ。仕事サボってると思われそうですけど」

「刑事なんて半分はサボってるようなもんだ、気にするな」

 そんなことはないだろ、あんただけだよ。おっと、ツッコミは厳禁だった。ツッコミするよりカクホしろだ。

「アガサの説明を補足しておくがな、異世界転移は犯罪だ。逮捕監禁罪だな。もうひとつ異世界転生ってあるな」

「はあ、生まれ変わるやつですよね。スライムとか」

「あれも、場合によっちゃあ犯罪になる」

「そうなんですか? 死んじゃったあとの話ですよね」

「死に方が問題なんだ。転生させるために殺しちまう奴らがいるんだよ。トラックを操って事故死に見せかけたり、引きこもりみてえな冴えないモブにナイフで人を刺すように誘導したりな。そういうのは教唆犯だ。共同正犯で殺人罪だ」

「なにそれ、本物の捜査1課みたいですね。かっこいい。そういう事件を待っていたんですよ」

「俺たちは偽物の捜査1課じゃねえからな。それに、受け持つのは異世界側だ」

「でもとなると、犯人は異世界にいることになって、日本の警察は逮捕できないんでは」

「犯罪人引渡条約なんて結んでるわけねえからな。でもそんなもん、日本に連れてくりゃいいだけのもんだ」

 なんだか正式な捜査とはほど遠いことになりそうだ。こんな課に配属になって、俺の将来は大丈夫なんだろうか。ここで頑張っていたら警視総監になれるのか? やっぱり捜査1課に転属願を出しておこう。


 現場だという、普通より貧乏そうなアパートの一室、うす暗い靴ぬぎのところだ。むき出しのコンクリートにシミができていたりする。そんなことより、俺は倒れそうなんだ。

「3人でここに立っているのは窮屈では?」

「帽子のつばが当たってるぞアガサ」

「狭いんだから文句言うんじゃないよ」

「いや、狭いんだからこんなときくらい帽子取れよ」

「嫌だね。あんたが頭はずしなさいよ」

「俺はデュラハンじゃねえ」

 3人してどうにか靴ぬぎに立っている。ちょっと押されたら倒れる。

「被害者はブラック企業に勤めていて帰宅、ドアを入ったところで力尽きたんだな。そこを異世界転移で連れていかれた」

「不思議なんですけど、異世界転移とか転生とかするひとってなんでブラック企業に勤めてるんですか?」

「そりゃ、問題を大きくしないためだろ。ブラック企業ってのはな、替えの人間をいくらでも用意できるんだ。ひとりいなくなったって気にしない。どんどんいなくなるから、さっさとつぎのやつに切り替える。いなくなっても誰も気にしないから問題にならない。

 これが一流企業だったら管理がしっかりしているだろ。無断欠勤なんてしたら人事がアパートに来ちまう。部屋に誰もいない。うちの社員が無断欠勤で姿をくらませるなんてあり得ないとなり、警察に通報だな」

「なるほど、異世界の犯罪組織もこっちの世界の事情を調べているってことですね」

「こんなの日本くらいだけどな。だからアチコチの異世界から狙われてるんだ。北朝鮮かよってな」

 でも、そうなると。

「今回の被害者はなんで転移させられたってわかったんですか」

「ヤフオクだな。フィギュアだったかな、珍しいお宝を出品して買い手がついて相手が金を振り込んだのに、品物を発送しなかったんだ。そのときには異世界に行っちまったんだろうな。買い手が執念深いやつで、絶対お宝ゲットするって自宅に乗り込んできた。ドアを壊して部屋に侵入したら、誰もいないし帰ってこない。仕方ないってんで警察に通報してわかった。ひとがいないってヤマは一度うちにまわってくるからな、アガサに調べさせたら転移事件だとわかった」

 ヤフオクの客、執念怖いな。ドア壊して侵入したら犯罪だろ。

「で、これからどうするんですか」

「異世界に行って捜査する。アガサどうだ」

「ウシの話が長いから、あたいはとっくにオッケーだっての」

「じゃあ、行ってみるか。初の異世界だな。ようこそ転移犯係へ」

 まぶしいと思ったら、自分たちが光っていた。


 まぶしい光はおさまった。もうアパートの狭苦しい玄関ではない。

「なんですか、いきなり。俺たち光りましたよ」

「アガサが転移魔法を使ったんだ」

「アガサさん何者ですか」

「協力者だって言っただろ」

「なんで転移魔法だとか、浮遊魔法だとか言って飛んだりできるんですかってことですよ。ただの協力者じゃありませんよね」

「そりゃあ、お前。アガサは魔法のある異世界からきたからだろ。俺もだけどな」

「牛丼さんも異世界出身なんですか」

 変な名前だとは思ったけど。牛丼なんて名前のひとがいる異世界ってどんなとこだ? どうでもいいな。

「出身は、アガサと同じ異世界だ」

「出身地が同じで意気投合みたいに言わないでください。俺は日本の千葉出身なんですよ」

「俺自身が異世界転生の被害者なんだ。生まれ変わった異世界でアガサと知り合って、魔王を倒してな、日本に戻ってきたってわけだ。ラーメン食ったときには生きててよかったってしみじみ思ったね」

 一回死んだけどなっ。牛丼さんなのに、ソウルフードは牛丼じゃなくてラーメンなのかよ。

「魔王を倒したからっていい気にならないでください。警視総監になるのは俺です」

「なんの対抗心だよ。警視総監になんかならなえよ」

 なあんだ。やっぱりはぐれ刑事純情派か。

「異世界出身ということは、牛丼さんも魔法が使えるんですか?」

「いや、ラノベでよくあるだろ。魔法が万能の異世界で魔力ゼロってやつ。あれだな」

 あれかー。きっついな。こう見えて苦労してるんだ。

「で、ここはどこです?」

「異世界だ。被害者が連れてこられた。アガサは使われた魔法ののこり魔力から追跡できるんだ、どの異世界からやってきた魔法かってな」

「警察犬みたいなものですね」

「誰がかわいいワンコだって?」

「美化しましたね」

 わんわんと言って、ワンコの手をして体の前で振っている。放っておこう。

「異世界って果てしなくつづく草原にスライムがいたりするやつじゃないんですか。ここは、結婚式場かなにか?」

「異世界転移の犯人を捜すんだぞ? スライムが転移魔法で日本からひと連れてきてなにするんだよ。こういうのはな、王様か宗教施設の偉いやつが犯人なんだよ。実行犯じゃなくても教唆犯だな。どっちでもいいんだ。とにかくトップをねらえ!」

「アニメネタを突っ込んできましたね」

「アガサ、どっちだ。転移魔法を使った場所に行ってみるぞ」

 アガサはこっちと言って、さっさと廊下を進んでゆく。

「はじめから犯人の目星ついてるんですね」

「なんだつまらねえか?」

「いえ、どんどん逮捕して警視総監賞を狙いましょう」

「そんな簡単にいかねえけどな」

 そうなんである。相手は王様や教会の偉いやつってことは、暴力団幹部並みにまわりにモブをはべらせて警護させているのだ。俺たちはさっそく兵士に見つかり、取り囲まれた。ここを突破しないと逮捕も警視総監賞もない。

 アガサさんは容赦なく魔法をぶっ放し、牛丼さんは拳銃、俺は警棒で殴って、犯人への道を切り開く。うぉー。ガキッ。

 金属の鎧を着ているから、警棒では役に立たない。

「牛丼さん、守りが硬いんですけど」

「そうだな、アガサ! あれ出してくれ」

「こっちは忙しいってのに」

 どこからもってきたのか、アガサさんは大きな杖をもって、杖の先からバンバン魔法を放っている。俺の知ってる外事3課の協力者って、普通の人がこっそり協力してくれるやつなんだけど、ぜんぜんちがうじゃねえか。

 アガサさんが片手間にこちらに手のひらを向ける。牛丼さんの足元が光って、箱? アタッシュケースが床から浮かび上がった。まさか、コスプレ衣装? ここでコスプレは場違いだ。

 牛丼さんはケースを開けて中から機械みたいなものを取り出して組み立て始めた。俺はモブ兵士たちを押えて時間をかせがないといけない。タカ、早くしろ。あぶない刑事なみに俺も拳銃ではっちゃける。弾はみんな鎧に弾き飛ばされるけどな。意味ねえ。腕力で鎧を押して進行を食い止める。

「待たせたな、相棒」

 牛丼さんは床に膝をついてミサイルランチャーを構えていた。それって組み立て式なの? 俺はモブ兵士たちから離れ、床にダイブした。

 しゅー、どっごーん!

 ここは王宮か教会なんだよな。そんなのぶっ放して大丈夫なのかよ。天井が落ちてきたら死ぬぞ。

「牛丼さん、大丈夫なんですか? 建物がもたないんじゃ」

「そうだな、柱をいくつか壊しちまった。つぎの部屋へ進むぞ」

 俺のことは気にせず駆け出してしまった。まだ死にたくないから、牛丼さんを追い越してドアを開けた。俺は逃げ足が速いんだ。一番に部屋の中に突入する。


 どうやらボス部屋だ。部屋の奥に段があって上に玉座がある。髭の生えたじじいが、頭に王冠を載せてすわっている。

「お前が犯人だな。警察だ、動くな」

「ふぉっふぉっふぉ。呼んでもいないのに異世界から客人か。田中さん、相手をしてやりなさい」

 顔色の悪い、弱りきった男が、背を丸めて玉座の横から前に出てきた。あれが転移犯の被害者だな。名前は田中さんか。

「警察です。たすけにきました。日本に帰りましょう」

「いやだぁ! 俺はもう出勤したくない。あんな会社潰れればいいんだぁ!」

「日本はブラック企業ばかりではないぞ、たぶん」

 牛丼さんの言葉は説得力にとぼしい。田中さんが日本に帰ったとして、ブラックではない企業に転職できるかどうかはわからない。能力と運によるか。俺は警察に入れてマシだったな。贅沢言えば、もっと楽しくて給料がよくて、仕事がキツくなくて、休みがとれる職場がよかったけど。

「あの、田中さん。待遇面はどうなんですか」

「ふぉっふぉっふぉ。ワシが答えよう。王宮に家賃なしで住めるぞい。通勤ゼロ分。生活費は保証、メイドは専属、週休2日、祝日はもちろん休みじゃ。9時5時の残業なし、ホワイト中のホワイト。王のワシが直接雇用するんじゃからな。のう、田中さん。ふぉー、ふぉっふぉふぉ」

 田中さんはにまにま笑っている。好待遇らしい。

「くっ、面接受けさせてくれ」

「どうした、一緒に警視総監になるんじゃなかったのか」

 そうだった。俺には警視総監になる夢があったんだ。牛丼さんのおかげで目が覚めたぜ。ポストはひとつだから、俺が警視総監だけどなっ。

 夢のために。夢か。俺はなぜ警視総監になりたいんだ? 王宮で快適な暮らしができるならそれでよいのでは? やっぱわからねえ。俺はどうしたらいいんだ。

「田中さんが日本に帰りたくないなら、それでいいんじゃ」

「バカ野郎、逮捕監禁罪は親告罪じゃねえんだ。本人がどう言おうと関係ねえ。日本から市民が連れ去られたら、俺たち警察がとっ捕まえて裁判にかけるんだよ!」

 でも、そんなことよりこの世界で魔王を倒すほうが大事な仕事なんでは。日本に帰ったって、組織の歯車どころか、コピー用紙くらいの扱いしか受けないんだったら、帰っても意味はない。

「よく考えろ、日本で役立たずだった人間が異世界にきたからってなにができるんだ」

 え? チート能力で異世界最強じゃないの?

「こっちでも使い捨てだぞ。魔王を倒せなければつぎの人間を転移させるんだ」

 そんなあ。異世界ひどい。

「チート能力で無双は?」

「そんなおとぎ話、現実にあるわけねえだろ」

 たしかに。あれは作り話、小説を盛り上げるための嘘だったんだ。だまされたー!

「じゃあ、田中さん撃ってみていいですか」

「いいわけねえだろ。殺人未遂で逮捕だ」

「ですよねえ」

 となると、やっぱり王様を逮捕して田中さんを無理にでも連れて帰るしかないのか。警視総監賞もらえればいいや。

「よおし、わかりました。田中さん、あなたはダマされている。日本に帰りましょう」

「嫌だあ! 働いたら負け!」

 どぉん!

 ぐはぁっ。俺は吹き飛ばされた。なにが起きたんだ。牛丼さんとアガサさんは顔を腕でかばいながら踏ん張っている。

「すごい魔力だよ、あの田中ってやつ」

「そうみたいだな」

「チートなんてあるわけないって言いましたよね」

「たまにはあるみたいだな」

 なんじゃそりゃ! ということは、異世界最強。俺たちに勝ち目はないってことかよ。

「いや、待てよ? 俺だって日本からやってきたんだ。条件は同じ。はあぁっ!」

「なにやってんだ?」

「いや、俺も魔力開放を」

「うん、お前はただのひとだ、魔力ゼロ。あきらめろ」

 そんなあ。スーパー・サイヤ人くらいにはなれてもよさそうだと思ったのにぃ。

「くるよっ」

 田中さんの魔法で王宮は吹き飛んだ。

 俺は牛丼さんに抱えられ、牛丼さんはアガサさんの腰につかまっていた。アガサさんは浮遊魔法で浮いている。宙に浮いてるぅ!

 元王宮は今浮いている場所のかなり下のほうに、空爆を受けたあとみたいになって残っている。

「すごい魔法でしたね」

「爆裂魔法だな」

「田中さん、大丈夫かな」

「魔法をぶっ放した張本人なんだから大丈夫だろ」

「ウシ、本部から通信だよ」

「ったく、なんだよ。こっちは手が離せないんだっての」

「証拠がそろっていない段階での王族との接触はひかえろってさ」

「もう遅せえっての」

「事件は会議室で起きてるんじゃない、異世界で起きてるんだっ」

「言いたかっただけだろ」

 満足です。牛丼さんに抱えられながらで、説得力ゼロだけど。

「いったん引くか。態勢を立て直す必要がある」

「まずは地面におろしてください」

「そうだな。本部にしたがおう」

「田中さん、ぜったい日本に連れ帰って、はたらかせてやるからなっ!」

 眼下の王宮に向かって中指を立てる。

「悪役のセリフになってるぞ」

 アガサさんがゆっくり近くの草原におりてくれた。足が地につかないってのは不安なものだな。人間は地べたにはいつくばって生きるのが性に合っているんだ。あとは温泉に入りたい。


「初の異世界お疲れさん」

 牛丼さんのいきつけのラーメン屋で、ラーメンと餃子の大宴会である。餃子をぶつけあう。なんじゃこれ。異世界行って帰ってきたのに、スケールちっさ。

 ずずっとな。もぐもぐ。

 ああ、昔ながらのシンプルな醤油ラーメン。うまい。しみる。

「温泉もいいけど、こういう昔ながらのラーメンもいいものですね」

「のんびりしてられねえぞ。帰ったら報告書が待ってるからな」

「えっ、明日でいいじゃないですか」

「ダメだ。明日こそ田中を連れて帰るんだ」

「えぇー、残業かよぉ。ブラック」

「そんなわけねえだろ。まだ昼過ぎだ。時間はたっぷるある」

「なんでそんなことに?」

「異世界転移は位置だけでなく時間も移動できるんだ。異世界行った10分後にもどってきた勘定だな」

「ぜんぜんホワイトじゃねえ」

「じゃあ行くか、班目まだらめ

「まだラーメン食いきってません」

「ぷぷっ」

「ダジャレじゃないのにー!」

 こうして俺はホワイトを標榜するブラック部署に配属になったのであった。田中さんだけいい暮らしさせてたまるかっ。ブラック企業に復帰させてやるからな!


🍜 🥟 🚓


 今回は、ツッコミどころについて書いていこうと思う。セルフツッコミ。


 一番大きいので、本部からの指令はいつ来たのか。異世界に行って戻るまで元の世界で10分しか経ってないとなると、謎である。

 わたくしの回答はこうじゃ。本部は会議室ごと異世界に接続したのだ。班目たちが異世界に転移する前後で異世界にいることになって、問題解決。会議室が元の世界に復帰するときも時間を選べるから、5時にもどってくればすぐに帰宅できてうれしい。以上!


 班目はガンバったら警視総監になれるか問題もあります。警視庁のトップが警視総監です。ということは、警視庁に入って出世していけば警視総監になれそうな気もしますけれど、じつはそうではない。

 警察庁という組織が国にあります。この人たちが警察を取りまとめていて力をもっている。そして、ポストがほしい。長く働いても偉くなれなかったらつまらないのですな。それで、警視総監のポストは警察庁に取られています。ひどい。

 でも待って、大逆転? タイトルを見ると

グンマ県警湾岸署とあります。グンマに湾岸ないだろ、海ないんだから。はい、別作品で関東平野のほとんどが海に没しグンマが独立した世界を書きました。あの世界での話です、これ。

 とはいえ、県警だからトップは県警本部長じゃない? となりますけれど、独立して首都になったグンマの県警は警視庁みたいなもので、トップは伝統を継いで警視総監としてもよいというもの。なんでもありやな。

 もしかしたら班目くん、魔王を倒しまくって警視総監になれるかもしれませんよ。

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