第24話 願い

朝の通勤ラッシュ、間延びした朝礼、鳴りやまない電話。

そんな日常の中に、今日はどうしても自分の居場所が見当たらない。

同僚に誘われたランチも断って、気付けば12月のあの日、詩織からの電話を受けた休憩スペースまで来ていた。


自動販売機に今度は落とさず小銭を投入すると、取り出し口から温かいミルクティーを取り出して置いてあるベンチに座る。


わたしはどうしてこの世界に来てしまったんだろう?


半日考えても答えは出ないまま。


わかっているのは、この世界のわたしは高校時代からずっと香月澄に特別な感情を持っていて、そしてこの世界でも香月澄が亡くなっているということ。


そもそも元の世界のわたしは彼の事が好きだったんだろうか?

今この特殊な状況の中でこそ彼の存在は大きいけれど、彼の訃報を聞いたあの時まで日々を漫然と過ごしていたわたしは彼の事を特別に思ったことがあっただろうか?


違う。


答えは詩織がわざわざわたしに、あんな沈んだ声で電話をしてきた事からもわかってる。

わたしは元の世界でも香月澄の事が好きだったんだ。

そしてこの世界のわたしはほんの少しだけ彼に近づいたから「今」が違うんだ。

元の世界のわたしが踏み出せなかった一歩を、この世界のわたしは踏み越えてきたんだ。


でも、この世界にも彼はいない。


わたしに何が出来るだろう?


わたしは癌の権威でも、まして特殊能力を持ってるわけでもない。

未来が分かるからと言って夢の中でのわたしはただの17歳の女の子で、彼は事故や事件ではなく、既にかかっている癌で亡くなったんだ。


わたしには結局、何もできない。


ちいさな、今やぬるくなってしまったペットボトルと、それをぎゅっと握りしめる自分のちっぽけな両手を見つめながら、わたしにできることがないかを必死で考えた。


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