第22話 文化祭前日
舞台リハーサルも終わり、すっかり秋になった今は、18時にもなるとずいぶん暗くなって、さっきまでバタバタと翌日の文化祭に向けての最終確認のためにみんなが走り回っていたのが嘘のように、なんとなく「やることはやった」という気持ちと共に、わたしは静かに帰路についていた。
横には詩織が居て、珍しく考え事をするようにカバンを持った両手を、肩越しに後ろでぶらんぶらんと揺らしながら歩いている。
「明日は文化祭だね」
ぼんやりと詩織とペースを合わせて歩いているとポツリ声がした。
横を歩いている詩織が足元を見ながら続ける。
「気付いたらあっという間だったよね。クラスでの出し物どうするかとか、劇って言っても何するか、誰がどの役やるかとか。途中こんなのできるのか、間に合わないんじゃないのとか色々あったけど、気付いたらもうこんなところまで来てる。」
そこまで言うと彼女は立ち止まって笑いながら言う。
「なんかさ、明日劇がどうなるかとかわかんないけど、それでもこうしてここまでこれて、なんかそれだけでも将来いい思い出になりそうじゃない?」
「なーんてね」と笑いながら詩織がまた歩き出す。
わたしはそんな彼女の何気ない一言にドキリとした。
詩織には別に深い意味があったわけではないんだと思う。
ただほんの青春の1ページみたいな、そんなセリフのつもりだったんだと思う。
でもそれがなぜか、とても大切なことを言われたような気がして立ち止まってしまった。
わたしがこの夢を見る意味は何なんだろう?
そもそもこれは夢なのだろうか?
わたしが今まで経験してこなかった、もうひとつの選択肢の先を歩き続けるこの世界は一体何なんだろう?
気付いたら少し先の横断歩道まで進んでいる詩織の背中を見ながら考える。
「わたしはこの世界で何をすればいいんだろう?」
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