第21話 砂時計

「肝臓の癌だったんだって」


不意に詩織が呟いた言葉にハッとした。


12月の始めに電話をもらって以来、久しぶりに会った彼女は、夢の中と変わらない笑顔で明るく一通りお互いの近況を飲んだりしながら話し合った後、不意に呟いた。


柄にもなくわたしから「金曜日の夜、久しぶりに会わない?」とメッセージが来た理由を詩織は察していたんだと思う。


「この前電話した時、なんかあんまり話せる雰囲気じゃなかったから、この話かなって…違った?」


「ううん、ごめん急に」


詩織は昔から鋭い。

わたしが気付いていないようなわたしの気持ちも見抜くような、そんな事が時々あった。

そしていつもそんな時、彼女は何気ない会話の中で不意に核心を突く、だからわたしはどうしても本心を隠せなくなるんだ。

そんな詩織の目を懐かしいような気持ちで見返しながらわたしもひとつひとつ確認するように話し出した。


「香月君の事、詩織から聞いてからなんか気になって、もちろん、詩織とも久しぶりに話したかったんだけど」


要領を得ないわたしに少し苦笑いして詩織が教えてくれたのは次のような話だった。


高校2年の9月に入って直ぐ、身体の違和感を感じていた彼が病院にかかった事がきっかけで癌が発覚した。

それから色々な検査を繰り返して、文化祭の翌日、手術の為に入院。

その時の手術は成功して、その後は高校にも戻り、大学にも進学していたが、まもなく再発、しばらくして転移が判り、治療の為に大学を休学、休学期限が切れて除籍になった後も闘病を続けていたが、12月1日、息を引き取ったと言うことだった。


「1月にね、高校の時の部活の子達で集まろうって話があって、その時声を掛けてたら、たまたま看護師になってた友だちが教えてくれて。その子も直接の担当とかってワケじゃなかったみたいなんだけど、香月君の入院してる病院だったみたいで、「香月君って詩織のクラスじゃなかったっけ?」って」


そこまで言うと詩織は汗をかいたグラスから一口お酒を飲んだ。

その姿がどうしようもなく、彼とわたしが別々に過ごした時間の長さを思い出させた。


昨日見た夢の中の彼はまだ高校生で、もちろんお酒なんて飲めるわけもなく、それでも生きて笑っていて、それなのに、今日こうして詩織とお酒を飲んでいる今、この世にはもう彼は居ない。


それからどうやって家に帰ったのかは思い出せなかった。


ただ別れ際に詩織が言った


「大丈夫?」


と言う言葉だけが、やけに心に残った。


それは酔った友人が家に無事帰れるかを心配する以上に、わたしの心の深いところを、また突こうとして躊躇った言葉だったように、わたしには思えた。



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