第20話 秋の窓辺

バタバタと走り回るクラスメイトの足跡。

調達班の子たちは各班に必要なものも確認し、役者の子たちはうちのクラスが借りている音楽室での稽古の合間に教室に戻って来ては一人ずつ入れ替わりで衣装を合わせ、その横で大道具の男子たちが教室内で組み上げてしまった籠が出入り口から運び出せないことに気付き立ち尽くしていた。


気付けば季節は秋になり、日が早くなるのに比例するように日々はさらさらと過ぎていた。

わたしたちはそれに急き立てられるように一日一日と近づいてくる文化祭当日に向けてせわしなく準備を進める。


台本がなかなか出来上がらずに舞台の稽古が出来なかったり、会計班が文化祭予算の内訳を勘違いしていて各班が見積もっていた予算に足りないことが分かり、割り振りをめぐって口論が起こったり。

それでもその都度誰かが怒ったり泣いたりしながらどうにか少しずつ、わたしたちのクラスの出し物は形になってきていた。


なんだか恥ずかしがって真面目に準備に参加していなかった男子や、そんな男子に文句を言いながら女子同士で固まって怒っていた女子達も、気付いたらお互いに自然と役割分担を決めて時に話し合ったりしながら一生懸命に準備を進めている。


トラブルもまだまだあったけれど、以前のように誰かが誰かを責めるのではなく、純粋にどうしようかを話し合ったりして。


小道具のわたしは作りかけの「蓬莱の珠の枝」から顔を上げて周りを見渡した。


今ちょうど大道具班の一人が廊下側の窓を外して、籠の屋根を外せば外に出せるかもしれないと話しながら一つずつ窓を外し始めた。

苦笑いしながら見守るクラスメイトの前でゆっくりと籠が廊下に運び出される。

湧くような歓声にはしゃぐ大道具の男子の声が教室中に響いた。


わたしも思わず笑ってしまったが、その中に香月澄がいないことに気付き心が沈むのを感じた。


彼は文化祭が近づくにつれて少しずつ学校に来れる頻度が少なくなってきていた。

出し物が決まった頃は、たまに準備に参加できずに帰るといった感じだったのが、午後から登校してHR後には帰ったり、1日まるまる休みの日もあった。

そしてクラスの中から少しずつ彼の気配が薄れていくのがどうしても嫌だった。


教室の喧騒を背後にわたしのこころはぼんやりと、傾きかけた夕暮れの窓辺の外をさまよっていた。


廊下側から「わおっ」と声がしてまた男子たちのはしゃぐ声が聞こえた。

ふと視線を移すと、教室の窓からはみ出した籠に目を丸くする香月君の姿が目に入った。


「なにしてんの?これ?」


とまどいながら、それでもどこかおかしそうに彼が教室の後ろの戸から口早にまくしたてる男子たちに囲まれて入って来る。


不意に目が合うと、彼は屈託なくにっこり笑いかけてきた。

わたしは思わず手元の「蓬莱の珠の枝」に視線を落として、こころを無心にすべく筆を手に取った。


また明るい歓声が教室に響く。

くすくすと笑う女の子たちの声。


ああ、やっぱり日常の中には彼にいて欲しい。


彼の笑い声が自分の耳を熱くするのを感じながら、わたしは黙々と筆を動かした。

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