第18話 小さな紙片

「彩怒んないでよ~」


役割分担が決まり、それぞれの分担ごとに皆が移動を始めると詩織が声を掛けてきた。


「もうやめてよ!恥ずかしいんだから!」


少しすねたように抗議するが詩織には通じない。


「いや、実際似合うと思ったんだよ?かぐや姫。それにそう思ったのは私だけじゃなかったみたいだしさ」


そう言うと詩織は「これで機嫌直して!」とふたつの小さな紙切れをわたしの手に押し付けて自分の分担のグループへ戻っていった。


何かと手元のそれに目を落とそうとした時


「姫野さんがかぐや姫やるなら、おれ帝役でもよかったなー」


びくっとして振り返ると、そこにはいたずらっぽく笑う香月君がいた。

慌てながらなんとなく気まずくて、詩織に渡された紙切れをスカートのポケットに入れる。


「わたしに主役なんて無理だよ!それに香月君も家の用事があるんでしょ?」


そう言いながら彼の顔を見上げると、何故か少し悲しそうに「あぁ、そうだね」と彼は笑ったのだった。


投票の結果、かぐや姫は予想通り茶道部部長の女の子に決まり、帝役も投票で香月君に決まるはずだった。

けど、彼はそれを断った。

本来なら投票で選ばれた役を断るなんてありえない気もするし、事実かぐや姫役の女の子は傷ついたような顔をしていた。

ただそれを見かねてか、それまで教室の隅に立っていた先生が


「香月は家庭の用事があってなかなか準備にも参加できないかも知れないんだ。許してやれ」


っと言ったことで場を持ち直した。

香月君も「みんなごめん」と困ったような顔で謝り、最終的に帝役は次点の得票数だった学級委員長の男の子に決まったのだった。


その後はその他の端役を決めたり、大道具や調達、会計などの必要な役割分担を決め、それぞれの分担に立候補やジャンケンで分かれて行き、詩織は嫗役、香月君は大道具、わたしは小道具になった。


少し間が空いてから香月君は気を取り直すように「だから俺、出来るときにしっかり働かないとね」とまたいたずらっぽく笑いながら大道具の輪に入っていく。


みんなの輪の中でいつものように屈託なく笑う彼の姿を見ながら、なぜか少し胸が苦しいような気がした。


そして、自分の名前を呼ばれていることに気付き、わたしもまた小道具の輪に入ってゆく。

ポケットに手を入れると、指先に乾いた紙の感触がした。



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