第11話 あの日の言葉

体育館に入ると記憶とは違い既に試合が始まっていた。


決勝トーナメントに残るだけあって、これまで以上の接戦にいつもにこにこしている詩織も、珍しく余裕が無いように見える。


他のチームメイトとの連携も乱れてお互い声の掛け合いも少ない。

ひとつのミスがジワジワと試合を悪い方へ引っ張っているのが傍目にもよくわかった。


「詩織、どうしちゃったの・・・」


詩織がイライラしてる。

今ではチームメイトとろくに目も合わせてない。


あの時の試合ってこんな感じだったっけ?

確か詩織たちは優勝して、帰りにジュースおごってとかって詩織にねだられたんじゃなかったっけ?

こんなギスギスした感じで、今の感じで本当に優勝なんて出来るんだろうか?


まただ、味方チームがファウルを取られ一気に空気が沈んだのが分かった。


ダメだ、こんなんじゃダメだ!


「詩織!顔上げて!」


気付いたら大きな声を出していた。


隣にいる香月君や他のクラスメイト達が驚いた顔でこちらを見ているのを感じたけど、誰よりも詩織が目をまん丸にしてこっちを見ていた。

そしてフッと笑いを嚙み殺すようにした後、こっちにいつものようにニカっと歯を見せて親指を立てた。


その後相手のスローインから始まった試合の流れは、さっきまでとは別物だった。


詩織のパスカットからゴール前までボールを繋いでのスリーポイント。

湧き上がる歓声にハイタッチ、アイコンタクトから声を掛け合い、直前のギスギスした空気が嘘のように詩織たちの顔には楽しんでる表情が見えた。


そこからもミスもあったし得点も取られたけど、最終的には相手に2点差をつけた状態でホイッスルが鳴った。


イエーイと両手をぶんぶん振り回してる詩織に苦笑いしながら小さく手を振ってるふと、今まで横に立っていた香月君が不意に


「次の俺の試合も観に来てよ」


っと言った。


「え?」


呆気に取られて彼の顔を見上げると少し早口に


「いや、さっきみたいにさ、姫野さん俺がテンパってる時とか声かけてくれたら、なんか頑張れる気がするから」

そしてまた息を吸って

「ダメかな?」

っと呟くように言う。


あれ?こんなことあったっけ?

あの時は決勝まで詩織の応援についてたんじゃなかったっけ?


彼の少し赤くなった耳元を見ていたら、なんだかこっちまで顔が火照ってきて、気付いたら


「詩織の、次の試合までの間なら・・・」


っと答えていた。


バッと彼が顔を上げたのが分かったけど、わたしはなんだか顔を上げられなかった。

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