第5話 日常

玄関を開けると外はやはり雨で、梅雨だから仕方がないんだけどそんな日の朝はいつも憂鬱だった。


でも、今日は不思議と今朝の夢の余韻がまだ心のどこかにあって、あまり気にならない。


懐かしいような、少しくすぐったいような優しい感情のシルエット。


会社に向かう道すがら、時に満員電車に揺られながらもどこか気持ちが安らいでいるのが分かった。


不思議な夢。


目が覚めるまでは確実にあの時間の中にいるような、むしろ目覚めた今が高校時代の自分が見ている夢なんじゃないかと錯覚するぐらいの夢。

そこにはあの日の私がいて詩織がいて、香月澄がいる。

狭い世界の中で、でも目の前のことが自分の人生の全てみたいに思っていたあの頃の。


今の私はどうだろう?


気が付けば午後の曇り空をオフィスの窓越しに眺めていた。

今の私は何のために今ここでこうしているんだろう?


自分が何を考えているのかを振り払うように頭を振って、またキーボードの上に手を滑らせた。


窓をまた、生暖かい雨がパタパタと打つ音が聞こえた・・・

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