第3話 ゴールデンウィーク

気付いたらいつの間にかホームルームは終わっていたみたいで、明日から始まるゴールデンウィークにクラスメイト達が楽し気に笑いあっているのが聞こえる。

毎日部活だと愚痴る声や、連休中にどこそこに行くとか、みんなそんな明るい空気感が名残惜しいのかいつになく教室に残ってる気がした。


「彩またホームルームの間ボーっとしてたでしょ」


あきれたような、少しからかうような声に振り向くと詩織がオレンジの明るいリュックとラクロスのラケットを背負って立っていた。


「ごめん、なんか考え事してたみたいで」


なんとなくバツが悪くなって私は机の中から教科書やらを引っ張り出しながら詩織に答えた。


詩織もまた少し名残惜しいのか空いた目の前の席に座る。


「詩織部活は?」

「うーん、今日は職員会議とかであまり早く行ってもどーせ自主練だし、まぁのんびりしてこうかなと。それにゴールデンウィークも毎日練習あるし。彩は?」

「美術部はゴールデンウィークは先生も休みだからなくて、その分今日行っとかないとね」


そう言いながらカバンのふたをパチンと閉めて立ち上がると、詩織も立ち上がった。


「さてさて、それではお互い参りましょうか」


詩織と別れて始まったゴールデンウィークは出不精な両親のおかげで特別なイベントもなく、近くの市立図書館に通った。

小学校の頃に母親に連れてきてもらって以来の図書館はお気に入りの場所で、時間を見つけてはよく通っていた。

連休3日目の今日も1日目に借りた本を返しがてら何か面白そうな本がないかと、木立のように立ち並ぶ本棚の間を後ろ手に腕を組みながら散歩するみたいに歩いていた。


「姫野さん?」


不意に声を掛けられてきょろきょろと周りを見渡すと、今通り過ぎたばかりの本棚の後ろから、人懐こいような、それでいて少しはにかんだような笑顔が顔を覗かせた。


「香月・・・くん?」


これまで何年間もこの場所に通ってきていて知り合いに会ったこともなく、その上自分にとって意外な人から声を掛けられてどぎまぎしていると、迷惑がっていると思ったのか彼は少し困ったように頭をかきながら


「ごめん、姫野さんの姿が見えた気がしたからつい声かけちゃって、迷惑だったかな」


っと申し訳なさそうに目を伏せた。


「あ、ごめん。迷惑とかじゃなくって、あの、ここで知ってる人に声かけられたの初めてで、それに香月くんとこんなところで会うなんて思ってなくて」


なんて言葉を続ければいいのか黙ってしまうと、一拍の沈黙の後彼は吹き出すように声を押し殺して笑いだした。


「確かに本読むようには見えないよね」


こういう時私はどうしていいのか判らなくなる。

肯定するのは失礼な気がするし、あんまり否定するのもその後どう話していいのか分からないし、それが普段話すこともない男子ならもう途方に暮れるしかない。



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