#053 友人②
次の休みの日、
「いやあ、来海殿も来てくれて良かったでござるよ!」
「まあ、丁度暇だったもの。林君、あれ以降スキルの調子はどう?」
「うむ! ご指導のおかげで、少しずつではあるが更に遠視距離が伸びているでござる!」
いや待て。
「これ以上距離を伸ばしてどうするんだよ」
「そう言われても、微調整はやっぱり難しいんでござるよ……」
つい突っ込んでしまったが、林殿が努力しているのは事実だ。
あまりにピーキーなスキル、酷い症状と言い換えても良い。そんな林殿は現状の学院のカリキュラムでカバーしきれない。
そこでスキルコントロールの名手、来海の出番だ。
「まあ、私たちは
「うむ。でござるな。でも、もう少しで何か掴めそうなのでござるよ! あと一押しというか、もう一歩と言うか……」
そんな話をしつつ、公共交通機関を乗り継いで目的地へと到着。
「着いたでござるよ! ここが我が家でござる!」
林家は普通の二階建て一軒家だった。
なんとなく、昔俺の住んでいた家を思い出させるような作りだ。
「ただいまでござる~! 友人たちを連れて帰ったでござるよ~!」
「あらあら、しげちゃん、おかえりなさい! お友達さんたちも遠い所からいらっしゃい!」
迎えてくれたのは林殿の母親だった。
息子に森森と書いてしげるというキラキラネームを名付ける親は一体どういう人物なのかと思っていたが、おおらかで優しそうなおばちゃんだった。
ややふっくらしていて、如何にも林殿の母親と言う感じでそっくりだ。
「
「
と、特区で買っておいたお土産を手渡す。
紙袋の中身は六専饅頭というよくわからないお饅頭だ。
「あら、ご丁寧にどうも。美人さんねえ、しげちゃんがこんな可愛いお友達を連れて来るなんて、びっくりだわぁ」
「あ、あはは……」
ぐいぐい来る林母に押され気味の来海。こんな来海を見るのは珍しい。
「ささ、母上も玄関で絡んでいないで、早く中へ入れてくだされ!」
「あら、そうねえ。お料理張り切って作ってるから、リビングでもうちょっと待っていて頂戴」
俺たちはリビングに通されて、ソファに腰掛ける。
リビングに隣接するキッチンでは、林母がせっせと料理をこしらえてくれている。
リビングのテーブルの上には林殿の好きなスナック菓子とジュースが用意されていた。
一口飲んで喉を潤わせつつ、談笑に興じる。
「お母さん、もうなんか見るからにいい人そうだな。林殿がそういう真っ直ぐな性格に育った理由が分かった気がする」
「む、そうでござるか? 拙者としては普通のつもりなのでござるが」
「いやいや、その普通なのが凄い事なんだって」
来海も俺の言葉に同意する。
「そうよ。スキルの発症が原因で捻くれたり、擦れたり、塞ぎ込んだり、学院にはそういう子だって多いでしょう?」
「まあ、そうでござるなあ。うちのクラスにも不良や不登校なんて者たちも居るでござる」
「特に林君なんて、大変なスキルを持っているもの。でも、その上でもそうやって明るく真っ直ぐに育ったのは、やっぱり親御さんのおかげなんだろうなって、わたしも見ていて思ったわ」
「いやあ、なんか照れるでござるなあ」
林殿は素直に照れ臭そうにくねくねとしていた。
「そうそう。それに、特区で暮らしている俺たちだと、友達の家に遊びに行くって経験は結構貴重だから、正直誘って貰って結構嬉しかったよ」
そもそも親が居なかったり、疎遠だったり、色々ある。
存命で、なおかつここまで仲が良いというのは珍しい事だ。
「いやあ、母上に友人が出来たと報告すると、顔を見せに来いとうるさかったものでござるから。でも、喜んで貰えたのなら拙者としても良かったでござる」
「折角だし後で定番イベントとして林殿の部屋物色しようぜ。ベッドの下とか、卒アルとか」
「実家にそういうのは無いでござるし、小等部から六専学院に通っている故、卒アルも無いでござるよ! あるのは幼少の頃の玩具や、趣味のグッズの山くらいで……」
なんて話していると、食卓に料理を並べ始めていた林母が話に割って入って来た。
山盛りの唐揚げが乗せられた大皿が見える。
「うふふ。それにしても、しげちゃんがお友達を連れて来るなんて久しぶりねえ。小学生の頃以来かしら?」
「む、そうでござったか?」
「そう、確か――“あいちゃん”って子! むかーし、連れて来てくれたじゃない」
「はて、そんな名前の友人、居たでござったかなあ……?」
「あら? あの子とはもう仲良くしてないの?」
「うぅむ……?」
と、そんな会話を聞いて、俺は思い出した事が有ったので、口を挟む。
「それ、あれじゃないのか? ほら、前に裏山の秘密基地を一緒に作ったって言っていた友達」
「確かに、前にそんな話していたわね。写真とかないのかしら? もしあったら、見たら思い出せるかもしれないわよ?」
しかし、いまいち林殿はピンと来ていない様で、唸りながらなんとか思い出そうと頭を捻らせている。
「はて、あの頃の秘密基地メンバーにあいちゃんという名の者は居たでござろうか……?」
「まあ、昔の事だと忘れちゃうのも仕方ない。じゃあ、何人居たのか分からないけど、一人ずつ思い出してみよう」
俺がそう提案してみると、林殿はさっそく指折り数え始めて――、
「ええと……あれ? 思い出せないで、ござる……」
早速一人目で躓いた。
「一人も?」
「一人も、でござる。顔も、名前も……。確か三人、いや四人? は居たはずなのでござるが……いや、もしかすると一人か二人だったかもしれないでござる」
「ええ……。深刻な記憶喪失じゃないか」
友人を大切にする林殿がここまで綺麗さっぱり忘れてしまっているというのは少し引っ掛かる。
母親の記憶違いと言う可能性も無くも無いが、しっかりとあだ名が出てきている事からその線は薄いだろう。
林母も少し呆れた様に眉を下げる。
「もう、しげちゃんったら、ちょっと疎遠になったからってすぐに忘れちゃったら、お友達がかわいそうよ?」
「うぅむ、面目ないでござる」
すると、それを聞いていた来海も流石にこの事態が気になったのか、こんな提案をしてきた。
「さっきの卒アルの話じゃないけれど、他にもアルバムみたいなものはないの? ほら、前にお家に連れて来てたっていうのなら、思い出の写真の一枚くらい、眠ってないかしら?」
「おお! それは名案でござる! 母上、写真を撮った記憶などはござらんか?」
すると、林母は少し天を仰ぎ考えた後、
「確か、一枚だけあたしが隠し撮りした気がするわ。あいちゃん、写真に写るの嫌そうだったから、こっそりね」
それから、林殿の部屋を色々と物色してみること十分ほど。
「む。きっと、これでござる!」
段ボール箱の中から、一冊のアルバムを見つけた。
「あら、本当に有ったのね」
「早速見てみようぜ」
あの林殿が忘れてしまった友人、あいちゃん。
果たしてどんな人物なのか、そもそも実在していたのか。
急かされるままに、林殿はページを捲って行く。
「おお、小っちゃくて可愛いな」
「この頃からあまり変わってないわね」
「ええい!恥ずかしいからあまりまじまじと見ないで欲しいでござるよ!」
そして、中ほどのページに、林殿ではない子供が写っている一枚の写真が有った。
そこで林殿の手は止まり、
「おっと。この写真、拙者は覚えていないでござる。もしや――」
林殿と一緒にアイスを食べている男の子。
カメラ目線ではなく、やや斜め方向から取られているというアングルからも、林母のこっそり隠し撮りしたという証言と一致している。
「この子が、例のあいちゃん?」
「と思う、でござる」
写っている男の子は整った顔立ちで、幼いというのも相まってか中性的にも見える。
髪色はくすんだ草色だ。
その少年の写真を見て、俺の頭はズキリと痛んだ。
「ぐっ……なんだ、これ……?」
「急にどうしたの、
頭の中に、沢山の記憶が流れ込んでくる。
いや、違う。これは元々そこに在った物だ。なのに、どうして忘れていたのだろうか。
俺には林殿の前に、もう一人の親友が居たじゃないか。
「
「え? 誰?」
「
知っている。知らないはずが無い。
幼い頃の写真だが、整った中性的な顔立ちの、くすんだ草色の髪の男、間違いない。
林殿が忘れてしまった友人、あいちゃんの正体は――、
「――
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