#044 プラスエス④
「お待たせえ。ローゲ、ウォールナット」
「ボス!」
つまり、この一件はそれ程までに重大な案件だという事を示してる。
後ろには二名程の部下も連れている。
それから、すぐにボスと見つけた資料ファイルの内容を共有した。
ボスは資料に目を通しながら、何を思ったか一度ちらりと俺の方を見て、それから口を開いた。
「――ふぅん、なるほどねえ。子供たちの気持ちを私利私欲の為に利用するっていうのは、さすがに穏やかじゃないねえ」
いつもの口調で冷静に話している様だが、その声の裏には怒りの色が見え隠れしていた。
「それで、ボス。ナンバーツーの行方に心当たりは無い? 確か、プラスエス解体にボスも関わっていたわよね」
「もちろん、その辺は任せてくれよ。第一非検体を連れて向かうとしたら、おそらくプラスエス研究施設跡地だ。奴が元研究員だというのなら、ウイルス薬を作るのには打って付け。何より、おあつらえ向きにここの近くだ」
なるほど。解放戦線本部をこの廃墟に選んだのも、自分がプラスエス研究施設跡地に足を運びやすいからなのかもしれない。
ともかく、場所が分かったのなら急いで向かわねばならない。
「なら、すぐにその施設跡へ!」
「ああ。君たち二人は先に向かっていてくれるかい? 残念ながらおじさんは普通のおじさんだ、スキルホルダーの戦いに一人付いて行っても足手まといだろうからさ。僕は部下たちとこの解放戦線本部をもう少し調べてみるよ」
「そんな事――」
「いんや、いいさ。大将としてやるべき事をやるだけだ。大丈夫、もう少しすれば、さっきまで別任務に当たっていたうちのエージェントたちが遅れて駆け付ける。そっちはスキルホルダーも擁した戦闘班だ。彼らも揃えば戦力差は圧倒的――チェックメイトだ」
そして、ボスは居住まいを正し、真剣な低い声色で言葉を続ける。
「改めて、君たちの任務は“アルファの保護”と“ナンバーツーらプラスエスの制圧”だ。捕縛出来れば御の字だが、被害者と君たちの命が最優先だ。いざとなれば犯人の生死は問わない。以上」
目的地であるプラスエス研究施設跡は俺たちの居た廃ビルから車に乗って二十分もかからないくらいの距離。山間部に隠れ潜む様に在った。
俺たちは再び真白先生のオープンカーに乗って、現場へと向かう。
車内には俺と来海、真白先生以外にも、二人の男。
アルファブラザーズの金髪と茶髪、名を
大切なリーダーを救う為に着いて来た、愚直で勇敢なスキルホルダーたちだ。
その所為で後部座席は窮屈で、助手席にゆったりと座っている来海が少し羨ましい。
しばらくすると、金髪の方、煙が口を開く。
「……なあ、
「なんだ? 狭いんだからあまりもぞもぞ動くなよ」
すると、煙は懐から何かを取り出し、手渡してきた。
「これ、やるよ」
「何だこれ。ゴーグルと……耳栓?」
「多分、役に立つと思うぜ」
と、来海の方にも手を伸ばして、同じ物を手渡した。
そして道中、通信越しにボスが当時のプラスエスについて、話をしてくれた。
『プラスエス解体に当たったのは、ボクとオーガ、そして今は
「その時、アルファたちについては?」
『いんや。僕らが解体に当たった際持ち出せた資料の中にはその三名の非検体のデータは無かった。資料の殆どが燃えてしまったから――と思っていたけど、ナンバーツーたち残党が大事な研究データは持ち去っていたんだねえ』
「脱出の際ベータが暴れた所為で、それがカモフラージュになってしまっていたんですね……」
『今回判明した情報と照らし合わせれば、そうなるねえ。ボヤが原因で隠匿されていた研究施設の場所を特定、それを証拠として職員を検挙、そのまま芋ずる式に本部まで摘発していって、無事プラスエスは解体――と、思っていたんだけどねえ』
苦渋の表情で唸るボスに、来海が口を開く。
「大丈夫よ、ボス。後は私たちスキルホルダーに任せてちょうだい」
俺もその言葉に頷く。
『頼もしいねえ。勿論僕らもバックアップはするよお、
八年前――どういう因果か、それは丁度俺が家族を失い、六専特区に入ったのと同じ頃だった。
やがて、目的の地点。山の麓へと到着。
そこにはナンバーツーが乗り捨てたと思しき車も見つかった。
俺たちは車を降りる。
「真白先生、ありがとうございました! ここまでで大丈夫です!」
「分かりました。わたしはここで待っていても、大丈夫ですか?」
もうすぐS⁶の戦闘班も到着する。
スキルホルダー同士の先頭になった場合、真白先生はここに居ては危険だ。
「いいえ。危ないので、これ以上は」
真白先生は、優しく微笑む。
「では、特区で帰りを待っていますね。もちろん、シロちゃんの好きなお菓子も用意して」
――ああ、本当に、なんて良い先生なんだ。
来海とアルファブラザーズと共に、山道へ。
その一歩を踏み出す前に、俺は振り返って――、
「――真白先生! 先生が、先生で良かったです!」
真白先生はオープンカーに体重を預けたまま小さく手を振って、俺たちの姿が見えなくなるまで、その場で見守ってくれていた。
登って行けば、山の中にひっそりと隠れる様に、蔦や草葉に覆われた人工物の建物が在った。
ここが、プラスエスの研究施設跡地だ。
「封鎖されていたはずだけれど、開いているわね」
真新しい靴の後と共に、立ち入り禁止の札と千切られた鎖が入口の傍に転がっていた。
俺はその鎖を拾い上げ、確認する。
「切り口が錆びている……」
「つまり、ナンバーツーは今回突発的にここに逃げ込んだ訳では無く、前からここに出入りしていたって訳ね」
ともかく、ここで間違いなない。
突入開始だ。
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