焔の印 ―3―
八重の呪いによって旭に刻まれた『焔の印』。その能力は3つに分けられている。
1つは旭の生命の具現。身体に現れた焔の傷跡が旭の命を示している。焔の魔法を使う度に広がっていく焔の傷跡は、やがて旭の心臓を食らう。八重が旭を生かすためにに残した呪いであり、旭の命に手をかけている呪い。
2つ目は、旭への妖気の供給。殺生石に宿った八重は『焔の印』を介して旭に妖気を供給する。だが、現在八重は殺生石から離れ単独で行動していないため、この妖気の供給は今はできない。
そして3つ目の能力が、旭の力の抑制だった。自身の身を滅ぼすほどの強大な力を旭は制御しきれていない。だから旭は焔の魔法によって自身の魂すらも傷つけてしまう。それを防ぐために『焔の印』に統合された能力が、力の抑制だった。
だが――
(なんだ……”焔”がおかしい! 何が起きてる!?)
焔の魔法を使って『焔の印』が広がったことにより、抑制の力は弱まっている。それをなしにしても、八重の『焔の印』でさえ抑えきれない旭の力が、暴走を始めた。
「熱っ……!」
旭の意思に反して”焔”が暴れ始める。”焔”は旭の身体を焼き焦がし、『焔の印』の傷跡を進行させて周囲のすべてを燃やす勢いで燃え盛っていた。
「『救世』……ヲ……世界ハ、オマエがイテハ……救ワレナイ!!」
「そこを退け!」
言葉を発する未知の
「”
襲い来る
「……後悔するなよ」
目の前に立つ親友の目を見て、旭は力強く拳を握りしめる。そして、ポケットに入れられた小瓶を国綱に投げつける。手のひらで握り込めるほど小さな小瓶の中には、白い錠剤が3粒入っていた。
「これは?……」
「アージェント印の即効薬だ。疲れが取れるわけじゃない。ただ、疲労も痛みも忘れるほどハイになる。副作用は聞くな」
「充分さ。けど、お前に手を貸すのはこれで最後だ」
国綱は躊躇いもなく薬を1粒口の中に投げ入れ、奥歯で噛み砕く。即効薬というだけあるようで、錠剤を飲み込み消化した瞬間、今までの疲れが嘘のように身体が軽くなった。カフェインなどとは比べ物にならないほどの効力に国綱は高揚していた。
「その代わり、次はお前の番だ」
「生きて帰れたらな」
国綱が刀を握る。腰に携えた2本の刀。魔具と偽って極東から持ち込んだ国綱の本家に伝わる名刀。かつての大剣豪が最も愛した、最上の一振。
「僕がお前を助ける。そうしたら、今度はお前が僕たちを助けるんだ」
名を、『
生涯無敗の大剣豪が愛用した刀には、名前が刻まれていなかった。歴史に名を残し、英雄として語り継がれるほどの人物の一刀。なぜ、それほどの名刀に名が付けられなかったのかと、人々は言う。
答えは否。名前はそこに刻まれている。名前がないのではない。この刀には、『無銘』という名がしっかりと刻まれているのだ。
「
構えは上段。国綱は『無銘』を振りかぶった状態で迫り来る
国綱の間合いの外から真っ直ぐに走ってくる
「”
国綱の間合いに1歩踏み込んだその瞬間、
上段の構えは、最速の振り下ろし。刀の
「逃がさない!」
斬り落とされた左腕に構わず逃げようとする
血飛沫を上げる
そして、無慈悲に振り下ろされる最後の一振は、確実に
「ミロ、『キュウエン』! オレはオマエを越エタゾ!」
「……くっ!」
「…………再生……した?」
確かに斬り落としたはずの左腕と左脚が、より強靭な肉体となって再生していた。アンバランスな形をした
そこには、技も心もない。あるのは理不尽なまでの力の差だけだ。振り下ろされた左腕は地面を抉り、吹き飛ばされてしまいそうは爆風を巻き起こした。
「きゃっ!」
「ヴェローニカ!」
咄嗟に国綱はヴェローニカの手を取る。愛するものに向けられた視線は、国綱の想像をはるかに超えるほど致命的な隙になった。
背中越しに伝わってくる死の気配。再び振り上げられた左腕は影を落とす。国綱に狙いを定めた
「国綱!」
だからこそ――
「”
騎獅道旭は、
「これでさっきの話はチャラだ」
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