旭と愉快な仲間たち
古書館の出来事があってから数日。慌ただしい雰囲気が耐えなかったバウディアムスもいつも通りの平穏を取り戻した。しばらくの間、アステシアは事件の調査に協力したりして、授業が自習になることもしばしばあった。
そんなある日、旭は冒険者ギルドからとある依頼を受けた。予想もしていなかった、ギルドマスターからの直々の依頼。しかも、「旭君にしかお願いできん」と頭を下げられてしまった。
冒険者として活動する気はサラサラなかった旭だったが、宿を貸してもらい、食べ物まで無償で提供してもらっている恩人の依頼でもある。旭は断ることができず、仕方なく依頼を引き受けた。
だが、この依頼には重大な問題があった。
「1人じゃ無理!?」
「危険度が高い討伐任務なんだ……ソロでは危なすぎる。せめて5人くらいのパーティじゃねぇと……」
「……2人までは当てがある。残り2人はそっちで何とかならねぇか?」
冒険者ギルドはパーティメンバーが足りない場合には冒険者の紹介をする。ほとんどの場合には依頼の難易度にあった冒険者が紹介されるのだが、今回の依頼はそうはいかないようで、ギルドマスターも難しそうな顔をしている。
「いるにはいるんだが……よりにもよって長期依頼に手を出しててな……いつ帰ってくるか分からん」
「……まぁ、何とかするわ。任せてくれよ」
「本当かい、旭くん!」
「その代わり、そんだけの難易度なんだ。報酬は弾ませてくれよ?」
「うっ……ぜ、善処するよ」
それが、前日の出来事だ。旭はなんとか5人を集めることに成功し、即席のパーティを結成させた。しかし、そのメンバーに現役冒険者は1人としていない。
「じゃ、よろしくな」
「……よろしく」
「任せろ! 儂が居れば万事解決じゃ!」
旭、レオノール、国綱のいつものメンバーに加わったのは、同じくクラス・アステシアの男子たち。「ヴェーノス・ウミストラ」と「ウェールズ・ダモクレス」の2人だ。
「なんで僕がこんなこと」
「良いではないか! 何事も経験であろう!」
「声大きい……」
「すまんな! 直す気はない!」
小顔美形に、気の小さそうに見える薄浅葱色の髪をした男がヴェーノス・ウミストラ。細い体つきのヴェーノスとは対照的に、がっしりとした筋肉質なガタイのいい男がウェールズ・ダモクレスだ。
「なんかあったら責任は俺がとる。よろしくな、ウミストラ、ダモクレス」
「おうよ! 今日は頼むぞ旭!」
「まぁ、ほどほどに頑張るよ」
5人パーティ、全員魔法使いという前代未聞の後世。ギルドマスターも心配そうに5人を見ている。だが、自身も認める実力者である旭が連れてきたということもあり、ギルドマスターは指摘しようにもできない状況にあった。
「ウミストラ、お前得意な魔法は?」
「『水』だよ。もちろん魔力の性質も『水』だ」
「あちゃ〜それじゃ俺と相性悪ぃな」
「レオノール君……だよね。相性悪いってことは『土』か『火』?」
「『火』だよ。でも魔法は雷が得意なんだ。戦ってみたらどうなるかな」
「やめてくれよ……君強いだろ」
社交的なレオノールは早速ヴェーノスと仲良くなったようで、半ば無理やり肩を組んで一方的に楽しそうに会話をしている。旭がギルドマスターと依頼についての話をしている間、残された4人は少しでも相手のことを知ろうと自身についてのことと、相手のことを話したりしている。
「ダモクレス、だっけ。聞いたことあるよ。『鍵』を守護している有名な家系だろう?」
「むっ? 儂のことを知っているのか? お前は東から来たのだろう」
「それくらい名が知られてるってことさ。それに、君はそれがなくとも有名人だしね」
「何故だ?」
「実技試験の最優秀者だろ、君。レオノールが悔しいって喚いてたよ」
「喚いてねぇよ!」
悪口にだけは敏感なレオノールが大声で反論するが、2人は構わず会話を続ける。大柄で声が大きく、どちらかというと野性的な印象を受けるダモクレスは、実際に話してみるとそんなことはなかった。むしろ国綱と同じくらい理性的で、少なくともレオノールのようなバカではないことが分かる。
「ダモクレスは何の魔法を?」
「残念だが、儂は攻撃魔法が得意ではないのだ! 得意魔法などない!」
「……というと、僕みたいに近接戦を?」
「あぁ! だが、魔法も使うぞ! でなくては魔法使いを名乗れんからな!」
「? それは一体どういう……」
国綱が詳細を聞こうとした瞬間、ギルドマスターとの確認を終えた旭が4人に声をかけた。心做しかかげっそりとやせ細っているようにも見えた。
「どうかしたか?」
「いや、ほんとにこの5人でいいのかって言われ続けてな……」
「言えてんなぁ。それに、全員が魔法使いとくれば、ギルドマスターは心配するわ」
「ま、この5人なら大丈夫だろ。期待してるぜ、ダモクレス、ウミストラ」
「うん、頑張るよ」
「腕が鳴るわ!」
そうして、旭と愉快な仲間たち4人は依頼達成のため歩みを進め始めた。そして数分後、旭たちは理解することになる。この討伐依頼の難易度が高い理由、そして、ギルドマスターの懸念の理由を。
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