知りたい

 これは、旭がバウディアムスに来る数時間前のこと。



「え? 旭の家族?」


「うん。レオノール君、何か知ってたりしない?」



 モニカは旭の、騎獅道の秘密に迫るため、旭のことをよく知る人物たちを尋ねていた。モニカはホームルームを終え、珍しく1人で暇そうにしていたレオノールを捕まえて、旭の家族について質問をした。レオノールはどこか気まずそうな顔をして、熟考の末に答える。



「知ってるけど、言いたくねぇかな。あいつ、そういうの嫌いだし。知りたいなら、本人に直接聞いてみればいいんじゃねぇの?」


「……そっか。うん、そうだよね。ありがとう!」



 そう言うとモニカは、ホームルームに顔を出していなかった旭を探して教室を出る。だが、いくら探しても、旭の姿は見つからなかった。

 一限を開始を合図する鐘が鳴り、モニカは仕方なく教室に戻る。そこにもやはり旭の姿はなかった。どうにも授業にも集中できず、目の前で話しているアステシアの言葉も右から左へと流れていってしまう。



「おいエストレイラ、聞いているのか」


「ほぇっ? は、はい!」



 いきなり名前を呼ばれ、モニカは思わず立ち上がって返事をする。アステシアは眉間に皺を寄せて言った。



「では、火の性質を持つ魔法の相克は?」


「金です」



 けろりとした顔でモニカは平然と答えた。アステシアは責めるにも責められず、ただ一言「座れ」と言ってモニカを着席させる。

 アステシアは話を聞いていなかったモニカを指摘しようとしたのだろうが、方法と相手が悪かった。モニカは『全知』の力を持ち、それがなくとも筆記試験を満点で合格するような、はっきり言って異常者だ。そんなモニカにどんな問題を出したところで、何の気なしにさらっと答えられるのがオチだ。



「エストレイラさん。頭いいのね」


「ううん。そんなことないよ。まだまだ、私の知らないことはいっぱいあるはずだから」



 その言葉には、モニカの希望も含まれていた。『全知』を手に入れたモニカに、もはや理解できないことなどないのではないか。そう思うのは当然のことだ。だが、この時モニカは『全知』の力を使っていなかった。

 授業が終わり、生徒が各々次の準備を進める中、モニカは真っ先にアステシアのところへ向かった。



「アステシア先生、ありがとうございます! 授業中もまったく気になりませんでした!」


「礼はいい。というか……やはりあれを答えられたのはお前自身の知識だったか……」


「今度、私にも先生の魔法を教えてもらえませんか!」


「お前には無理だ」



 月詠の大魔法使い、ルナ‪・アステシア。バウディアムスの教員をしている彼女は、大魔法使いの中でも指折りの実力者だ。中でもアステシアは、獄蝶のジョカの並んでその魔法が特異だと名高い。

 魔法の不可視化、魔力の抹消、攻撃の無効化など、謎に包まれているアステシアの魔法は様々な議論がなされていたが、結局のところ結論は――



「『月の魔法』は魔法だ。お前のように魔力操作の苦手な者が使える魔法ではない」


「それですよ! やっぱり『月の魔法』はアステシア先生だから使いこなせる魔法なんですよね! かっこいいです!」



 アステシアは古書館で、木曜フエベスやマーリンなど、特定の人物にのみを対象に、正確に『月の魔法』を使っていた。古書館でタイミングよく木曜フエベス、マーリンが魔法が使えなかったのはアステシアが『月の魔法』を使ってサポートをしていたからだった。

 そして今日は、モニカに対してこの『月の魔法』を使い、『全知』の力を消し去っているのだ。



「そう何日もは継続できん。早めに解決策を見つけておけ」


「それは大丈夫です! 心当たりがあるので!」



 モニカは自信満々に胸を張って答えた。アステシアはまるで期待していないようで、肩を落として「何事も起きないといいが……」と呟いて次の授業の支度に移った。

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