目覚める物語
『まもなく、理を識る者が目覚める』
『彼の者、その力で理を破り、世界の壁は崩壊する。交錯する世界は――』
「交錯する世界は……王墓にて交わる」
「エストレイラ!? 起きたのか!」
「……ちょっと、下ろしてもらっていい?」
「え? でも、まだ疲れてんだろ。外出るまでは……」
「ううん、今ここで下ろして」
妙に冷静なモニカをレオノールは言われるがままゆっくりと下ろす。
「『心と体を繋ぐもの。鍵は悠久に宿る。其の魂は巡りて――』」
「お、おい。エストレイラ?」
誰かの言葉をなぞるようにモニカは続ける。まるで感情の起伏を感じない言葉からは恐怖さえ感じられた。
「『力は闇の子に……意思は尾を持つ者に……』」
モニカの身体から力が抜け、抜け殻のように倒れ込む。その姿にモニカの面影は既に無く、ただ言葉を紡ぐだけの道具になったかのようだ。
「なぁ! 大丈夫かよ!」
「『彼の者の使命は――焔と星に分かたれる』」
そう言い切ると、プツリと電源が切れたようにモニカは目を閉じた。表情筋は役目を忘れてしまったみたいに動かず、死んでしまったのかと勘違いをするほどだ。だが、かすかに聞こえてくる呼吸の音がそれを否定する。
「あぁもう……自分勝手なやつだな」
レオノールがため息をつき、駆け足でモニカに近づこうとした瞬間だった。
「や……くめを、果たせ……七曜の…」
「……っ!?」
全身血まみれでボロボロの男が、レオノールの背後を取る。レオノールの身体が一瞬強ばる。背筋を伝う確かな殺気。魔女マーリンにやられたはずの
何故、なんて考えはレオノールにはなかった。レオノールの思考を支配していたのは、どうやってこの場を切り抜けるか、という問題だけだ。
背にしただけで分かる手練の雰囲気。ポタポタと垂れる血の音。
(一か八か……! 全速力で突っ切れば……)
「動けば殺す。お前が走り出すよりも早く、私はその女を殺せる」
「……っ」
視線は見えないが感じられる。アリシアを見ている。レオノールが担いでいるアリシアは起き上がる素振りも見せず、手足をぶらんとさせている。
選択肢は残されていない。レオノールは、このまま1歩も動かず、死を待つことしかできない。動くな、と言われずとも、レオノールの身体は殺気に当てられて動かなくなっていた。
「先に女だ。まずお前の抱えてる女。次にそっちで倒れてる女だ」
「……あぁ、分かった」
きっと、国綱や旭だったら、何度も思考を巡らせてこの場を切り抜けるのだろうと、レオノールは思った。きっと、2人なら何とかしてしまうという確信がレオノールにはあった。だが、ここでアリシアとモニカを守るのがその2人ではこの場面を切り抜けることはできなかっただろう。これは、レオノールにしか取れない行動だ。
「欲しけりゃくれてやるよ!」
レオノールは振り返ると同時に、腕に抱えたアリシアを背後の
「なっ!」
「”
雪に視界を潰され、
冷や汗でびっしょり濡れた服。走っていても尚追ってくる死の感覚から逃げるように、レオノールは無心で道の続くまま走り続けた。
夢中になって走っていると、レオノールは入口付近までたどり着いた。そこには既にクラス・アステシアのものたちが何人か集まっている。
「ブラックハウンド遅い! ていうか、なんで手ぶらなの!」
「悪い……お前の雪の身代わり、結構役に……」
「そうじゃなくて!」
過呼吸になりつつあるレオノールの言葉を遮り、アリシアが声を荒らげる。その瞬間、冷静になったレオノールも異変に気がついた。
「エストレイラはどこ!?」
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