朧月
煙に紛れ、薄月のように霞む女が魔女マーリンを見下ろす。片手にはぐったりと力の抜けてしまっている旭を抱え、月の下で唯一輝く。
「ルナ・アステシア!」
アステシアは鋭い目つきで魔女マーリンを睨む。敵意を明らかにしたアステシアと対峙する魔女マーリンの頬に汗が伝う。一瞬の油断も許されない緊張が走る。ぴんと張り詰めた空気を破ったのは、魔女マーリンだった。
「”
だが――
「……っ!?」
「どうかしたか?」
(くそっ、いつの間に……!)
魔法は発動しない。煽るようなしたり顔で見下ろすアステシアは実に気分が良さそうに見える。予想外の展開に魔女マーリンは顔を歪ませる。アステシアと魔女マーリンの距離は縮まらない。
魔法使いの適切な間合いは20メートルと言われている。それ以上近づかれることがあれば接近戦を苦手とする魔法使いは為す術がない。それ以上の距離がある場合、大抵の魔法の出力は相手に届く前に落ちてしまう。魔法使いは、この20メートルという領域を守りつつ一定の距離を取って戦う。
だがそれは、普通の魔法使いの話だ。今対峙しているのは、魔法使いの頂点、「大魔法使い」の1人であるアステシア。そして、その大魔法使いと同等の実力を持つ「魔女」マーリンだ。
(……遠いな)
戦闘のペースは完全にアステシアが握っていた。魔女マーリンの魔法を受け付けない距離でかつ、自身の実力を最大限発揮できる距離。魔女マーリンはそれより先のアステシアの領域に近づくことはできない。
(これがルナ・アステシアの絶対領域か……!)
三日月が2人を照らす。差し込む光が円を作り出し、アステシアの領域を露わにする。
一瞬の静寂。その静寂を破ったのは、アステシアでも魔女マーリンでもなく――
「刻んで、屠る! ――この刃にかけて!」
アステシアの絶対領域を、
「”
凶刃が2人を襲う。ぷつんと切られた緊張の糸。あまりにも突然出現した
国綱の「”
(手ぶらでは帰らない! 大魔法使い、魔女。どちらか殺せればいい!)
何度も斬りつけ、刺突し、肉を裂く。しかし、たかが数秒だ。
「ここは、あたしの領域だ!」
(これなら、魔法は関係ない!)
たが
「ここへ来る前に、なぜ魔法が使えないのかくらいは調べておくべきだったな。『七曜』よ」
普通の魔法使いではない。
「”
バチりと、アステシアと
アステシアは
「目的は達した。私はこれで失礼する」
「おいおい、ここまで来て逃げるのかい?」
「……貴女の探し物はそこです」
アステシアが指を指す先には、白い服を着た師匠が横になっている。魔女マーリンが師匠に駆け寄り、アステシアから目を離した隙に、旭と
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