雪のような貴女
授業が終わり、生徒たちがそれぞれ帰路に着く。バウディアムスに来て2週間が経った頃、モニカたちは学園生活にもようやく慣れてきたようで、まだ真新しく感じられる帰路に着く。自宅へ帰るパーシーを見送り、少し寂しい気分になってしまったモニカは、1人盤星寮へ向かう。だが、それに連なるようにゾロゾロとモニカの周りに人が集まってくる。
「やほやほ! モニカちゃん!」
「あ、ソフィアちゃん。今帰り?」
「そーだよ! 一緒に帰ろ?」
「うん!」
後ろからソフィアがモニカの背に抱きつく。1人、また1人と、輪を広げて繋がっていく。
「モニカさん、奇遇ですね」
「ヨナちゃん、ヴェローニカちゃん!」
「あ、ヴァンちゃんもいるじゃん。隠れてないで出てきてよ」
前を歩いていたヨナたちと合流し、いつの間にかいつものメンバーが揃った。だが、みんなが団欒として笑う中に、一つだけ空白があるような感覚が、モニカを襲う。何かを忘れているような、大切な事が、喉につっかえて出てこれなくなっているような、そんな感覚。
少なくともそれは、モニカの大切な親友の存在ではなかった。モニカは、パーシーを信頼している。いつどこにいても、パーシーは無事だと心の底から思っている。モニカの心に空いた空白は、そんなものではなかった。
「アリシアさん……?」
モニカたちの前を早歩きで進む銀髪の女に、ヴェローニカが声をかける。その瞬間、モニカは身体をビクンと跳ねさせて、ピッタリとハマったピースの存在を再確認する。
「そうだ! トルリーンさん!」
「……なに?」
アリシア・トルリーン。女子会があったあの日、唯一参加していなかったモニカのクラスメイトの1人だ。モニカよりも少し小さい可愛らしい背丈と、キラキラと雪のように輝く銀髪が特徴的な子。
「い、一緒に帰らない!?」
「……このままだと門限に遅れる」
「早く歩くから!」
「…………やだ」
アリシアの口調からは、微かながら幼さのようなものが感じられる。どうにも身長が悪さをしているようで、少しムスッとした顔も相まって、モニカにはアリシアが幼い子供にしか見えていなかった。
「じゃ、じゃあ! 1個だけ!」
「はぁ……今度は何?」
「な、撫でさせてくれない……?」
「……いやよ。いきなり何言ってるの?」
やや荒くなった呼吸はアリシアにも伝わっているようで、徐々に後ずさりしていく。モニカの後ろでは若干引き気味のソフィアたちがコソコソと耳打ちしている。
「やっぱ、モニカちゃんってあんな感じの子が好きなの……? そういう趣向があったり?」
「あるでしょうね……パーシーさんにもそういう節があります……」
「ちょっと! あんた達こそこそ喋ってないで助けてよ!」
「え? 無理無理。モニカちゃんって意外と力あるから、押し倒されちゃったら抵抗できないよ」
ソフィアは丁寧に説明してくれたが、それは明らかに押し倒された経験のある人間からしか出ないような警告だった。
ソフィアたちの想像の通り、モニカは子供っぽい可愛いものに異常なまでの執着を持っている。例えば、現在寮で過ごしているモニカの部屋は大量のぬいぐるみで満たされているし、常に一緒にいるパーシーも条件をクリアしている。
「まぁ、目付けられちゃったら諦めるしかないね」
「な、なでなでがダメならポンポンはどうですか!」
「どっちも最悪……」
モニカが狼狽えた一瞬の隙をついて、アリシアは逃走を試みて急いで走り出す。
「あーあ。モニカのせいだよ」
「そんなぁ……私は仲良くしたかっただけなのに」
「距離の詰め方バグってるでしょ……」
少し先にアリシアが走っている姿が確認できる。やはり、アリシアの立ち振る舞いや身のこなしからは幼さが滲み出ており、子供っぽい走り方をしている。
「ま、そんな急がなくてもいいんじゃない?」
「うん。またチャンスはあるよ」
ソフィアとヨナに慰められながらゆっくりとモニカは先に進む。いつもよりも遅いスピードで歩いていたモニカたちは門限ギリギリのところで寮に帰ることになった。
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