魔法使い ―3―
どこかですすり泣く声が聞こえる。薄暗く、空気が凍ってしまいそうなほど静かな自然の中で、星と月明かりがモニカを導く。きっと、この声は誰にも聞こえていないだろう。本来は誰に気づかれることも無く、彼女は泣きながら朝を迎えるのだろう。でも、今は違う。月が昇っていく。風そよぐ黄昏時は終わりを告げる。ここから先は、2人だけの時間だ。
「……ここにいるんでしょ」
沈黙が夜を泳ぐ。姿も声も聞こえない。黒によく映える彼女の白い毛色はどこにも見えない。それでも、モニカには分かる。今のモニカは、彼女と切っても切れないもので繋がれている。
脳が焼き切れるほど疲弊している。身体は悲鳴をあげて、今すぐにでも倒れてしまいたいほど苦痛を訴える。心が、言わば
「あなたに……どんな名前が相応しいかなんて、分かんなかったけど……私なりにちゃんと考えたから」
もう辺りはすっかり暗くなってしまい、無数の星が姿を見せる。
「ソラ。ソラ・エストレイラ……」
恐る恐る、小狐が茂みから顔を出す。涙で顔がぐちゃぐちゃになってしまっている。けれど、今も溢れて止まらないのは、涙だけではなかった。小狐から溢れ出る妖気が止めなく周囲に撒き散らされる。草木は枯れ、光を失わせる。いっそう身体が重くなる。まるでパーシーの魔法を受けたみたいに、ベッタリと地面にへたり込む。
「モニカ!」
「……やっと、出てきた……」
もう、モニカに小狐の姿はまるで見えていない。ただうっすらと白い影と声が聞こえるだけだった。
「モニカ! モニカ……ごめんなさい……私は」
「いいよ……大丈夫……なんの問題も……ないから」
「でも、もう……!」
手遅れだ。既にモニカの
これが、妖だ。そこに悪意の有無は関係なく、ただ触れるもの全てを災い、呪う。希望には絶望を、光には闇を、期待には失望を、救いあるものには死を。ただ、そう生きるしかないものだ。決して、この妖の運命を覆すことはできない。
モニカの身体から熱が失われていく。指先から、腕へ、やがて身体の芯まで凍てつくような、抗いようのない悪寒がモニカを襲う。必死に手を握り声をかける小狐の足掻きも虚しく、モニカの意識は消滅しようとしていた。
「…………大丈夫…………魔法使いは…………奇跡を起こせるんだから…………」
「モニカ!」
満月と共に、星が煌めく。円を描きながら、流星が
「……星?」
奇跡が起こる。なんの意味もない、1人の名を持つ小狐の祈りは、理想は、星に導かれる。
その祈りを乗せた星は
現実を突き破り
奇跡へと至った
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