麻婆豆腐・焼売・春巻き 前編


 ドラフェンクロエの出入り口が混み合うのは、決まって朝と夕方だ。


 

 多くの者達が入る時と、出る時が混雑する。その大半は冒険者であり、ソロであったり、パーティーであったり、クランであったりと人数はそれぞれだ。


 一休みしたり、成果を上げられず落ち込んでいたり、無事に帰還できたことを喜びあったり、分け前の話し合いをしたり、話している内容も個々によって違う。


 そんな大勢の中のパーティーの一つは、全く異なる話題の話をしていた。


「皆で行きたい店があるんだ」


 迷宮から出て早々に、ミシェルはパーティーのメンバーにそう言った。突然の提案に、呆気に取られる3人の仲間達。


「……それっていつもの酒場のことか?」


 ぶっきらぼうに質問したのは、このパーティーの人族の盾持ち『オグウェ』だ。


 黒髪の短髪、黒い眼、厚い唇、黒い肌、がっしりとした体型をした男性で、服装は金属製の鎧を着込んでいる。


 オグウェがこんな質問をするのは、大体ミシェルのとんでもない思い付きのことが多いからだ。それに何度も振り回され、それなりに酷い目に合っている。故に、この様な質問の仕方になっている。


 対して、ミシェルはとても何かを楽しみにしているといった表情だった。


「違う違う、全く別の場所だ。手ごろなお値段で腹一杯食える所だぞ」

「あの『煤色狼の家』よりも? 味は大丈夫?」


 矢継ぎ早に質問したのは、小人族ハーフリングの斥候『アティカス』である。


 赤茶色のボサボサ髪、緑色の目、誰よりも小柄な体型をした青年であり、身軽な革鎧を着ている。


 アティカスの慎重な所は、彼元来の性格であり、初めて行く場所にはかなり警戒するのだ。


 ミシェルはその性格をよく知っているので、


「大丈夫! 何回か食べに行ったが問題無い!」


 警戒を解くために、根拠のある安心を証言する。


「…………まあ、それなら大丈夫か」


 アティカスもミシェルの事は信頼しているので、その言葉を信じることにした。


「でも、私が食べれない料理もあるんじゃないの?」


 そう言って水を差して来たのは、猫人族ケット・フィアーの魔法使い『ノワール』だ。


 黒猫の頭、金色の目、スラリとした体をした女性で、黒いローブにトンガリ帽子を基調とした魔法使いらしい服装をしている。


 ノワールがそう言うのは、彼女の種族が関係しているのだ。猫人族は猫を祖先に持っているため、他の種族では無害でも、有害になる食物がある。それを彼女は危惧している。


「そんな所に行くの嫌よ、私」

「それもリサーチ済みだ。ちゃんとノワールが食べれるのもあるぞ」


 ミシェルはニコニコの笑顔で答えた。ここまで言い切るのは中々に珍しい。


 3人は顔を見合わせた後、


「そこまで言うなら、行くか」


 付いていくことを決めた。



 ◆◆◆



 4人は奥まった道を進み、福宝軒へと辿り着く。



 福宝軒は今日も開店しており、明かりが点いている。中からは人の話し声が聞こえてきた。


「着いたぞ、ここが福宝軒だ!」


 まるで宝を見せるかの様に紹介するミシェル。3人は見たことの無い出で立ちの福宝軒に、


「これが連れてきたい店? ずいぶんとこじんまりしてるな」

「この時点で見たことの無い物が多過ぎて怪しい」

「良い匂いのするお店ね」


 三者三様の反応を示している。


「外見よりも中を見てくれ。早速入ろう」


 ミシェルに連れられ中へ入る一行。


 福宝軒の中は相変わらず賑わっており、それぞれ食事を楽しんでいた。


「いらっしゃいませぇえ!!」


 元気過ぎる声でミシェル達を出迎えたのは、龍一だ。


「やあリュウ、今日も来たよ」

「ああ、ミシェルさん、いらっしゃい。今回はお連れ様も一緒ですか?」

「そうなんだ、4人なんだが、席はあるか?」

「テーブル席なら空いてますよ。こちらへどうぞ」


 龍一に案内された4人は、テーブル席に座る。


「こちらメニューになります。ご注文が決まりましたらお呼びください」


 そう言って龍一は、一度その場から離れた。


 ミシェルは龍一から手渡されたメニューを開き、3人に見せる。


「大体の料理は食べたから、何がどんな料理なのか知っているんだ。こんなのが食べたいとかあれば答えるぞ」


 グイグイ推してくるミシェルにちょっと引いてる面々だが、店に充満している匂いを嗅いで、推してくる理由は理解できた。


 それに答えるように、オグウェが控えめに挙手する。


「じゃあ、俺は辛い料理がいい。故郷ではよく食べていたんだ」

「俺はあまり量が無くても食べ応えのあるので。体重を増やしたくない」

「私はネギが入って無ければ何でもいいわ。でも多過ぎるのも嫌」


 それぞれ要望が出た所で、ミシェルはメニューを決めていく。


「よし分かった。早速注文しよう! すみません!」


 3人に合った料理を、店員である龍一に注文するのだった。



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