第33話「伏せたままでいいのか」

「こちらが報酬になります」


 リィドはギルドの受付でお金を貰う。


「リィド」

「お、エリルも帰りか?」

「そうだ」


 帰り際に同じく依頼を終えて報告に来たエリルと遭遇した。

 エリルを待って一緒に帰る。


「アンザス騎士団長が話があるので王都にきてくれと言ってたぞ」

「なんだろ」

「はっきりと仰ってはいなかったが、恐らく副局長の件だろう」

「なるほどな。それはさすがに行かないとだめそうだな」


 エリルの警備局局長に就任したのを嫉妬し、エリルの失脚を画策を企てた副局長。

 事件の解決に不本意ながら関与したのがリィド達だ。


「な、リィド王都の騎士団は多忙なんだぞ?そして、そのトップである騎士団長はさらに多忙な身である。そんな人がわざわざ私用の時間を使って会うなんて滅多にないんだぞ」

「別に会って嬉しいって間柄でもないかならなー」


 綺麗なお姉さんならともかく、実力、権力のあるおっさんである。

 積極的に会いたいかと言われれば否である。


「まったくお前ときたら。そうだ、ふと思ったのだがフェイシスはあのままで大丈夫なのか?」

「?」


 リィドは首を傾げる。質問の意図が分からなかったからだ。


「ギルドへの経歴詐称にあたるだろ?」

「ティタ姉に頼んだから大丈夫だ」

「それがよくわからん」


 そもそも、ギルドに所属するというのは簡単ではない。

 その人物の経歴を調べ、犯罪歴等があれば事情がない限りは申請は却下される。

 国家間を跨いで存在する組織である。国からの介入の口実になる可能性もある。慎重に徹底して行われる。

 経歴に問題がなければ大半の人間は見習いとして扱われる。

 本人の希望によるが、魔獣や人物警護などの依頼では武力が求められる。

 死なないために、依頼をこなせる実力を育てるためにベテランのギルドメンバーのサポートとしてしばらく活動する。

 人によるが早くて、一年程度。時間がかかると、三、四年程度経験を積み問題ないと判断されると晴れてギルドメンバーとして活動できる。

 エリルの場合は騎士団としての実績や経歴が考慮され実力が十分と判断された。また、ギルド所属のリィドの紹介及びチームとしての活動希望という事情もあるため即ギルド所属が許可された。

 フェイシスの場合、当初は記憶の喪失のためこの時点では経歴詐称には当たらない。

 現在フェイシスの実情が判明したため、変更しないでいるのは立派な経歴詐称である。

 ティタ姉は事情の隠蔽に協力してくれいるが、それがどこまでできるかは分からない。

 なら、バレた時のことを考えるとどこかのタイミングでひそかに変更した方が良いのではないか。

 これがエリルの懸念である。


「見習いってなんだ?」


 リィドは懸念とは別のところに疑問を持った。


「ん?」


 今度はエリルが首を傾げる番であった。


「私や、フェイシスはともかくリィドがギルドに所属する時は調査や見習い期間があっただろ?」

「……」


 リィドは必死で過去の記憶をあさるが、一切の心あたりがない。

 そもそも、リィドがギルドの職員で知っている人物はかなり少ない。

 リィドは別にギルドに所属するのはどうでもよかった。

 先生が所属してた方が何かと都合がいいからと勝手に手続きしてくれた。

 リィドが許可された時先生、ティタ姉、ギルドの職員の男性と四人でティタ姉から注意事項など説明受けただけだった。


「不安だ、リィド。ティターニア殿に聞きに行くぞ」

「え、ちょい」


 エリルはリィドの腕を引きギルドに戻る。


「あら?どうしました?」

「ティターニア殿少し込み入った相談があるのだが今お時間はあるだろうか?」

「はい、分かりました。では個室に行きましょう」


すぐに個室に案内された。


「あーなるほどですね」


 エリルはリィドが何も知らないことを伝えた。


「まぁ、エリルさんに改めて言うことは必要ないけど念のため。これからお話することは口外しないようにお願いしますね」

「もちろんです」

「まず、実は私このギルドでけっこう偉かったりするんです」

「でしょうね」


 エリルは頷く。受付の職員を見ていればわかる。

 職員はティタ姉に確認をとったり、許可を求めたりしている。


「一応ギルド長代理でしてね、権限で言うとギルド長と同じなのよ」

「な、まさかそこまでとは」


 ギルド長はそのギルド内での責任者だ。

 フェイシス達が異例の処置で問題が出ないの納得できた。


「しかし、リィドの時も代理だったのですか?」

「いいえ。その時はまだ一般の職員でした」


 ならば、何故。


「実はですね、私の恩人、リィドの育て親の先生はここのギルド長と知り合いだったの」

「まさか」

「そうなの。言い方を悪くすれば。コネですね。まぁ、ギルド長がリィドを直接見て許可を出してはいるので実力不足なのを無理やりって訳ではないです」

「なるほど、だったらリィドが何も知らないのも納得しました」

「まさか、あのおっさんがギルド長?」


 ティタ姉の話からすれば、あの時に会った男性がギルド長で間違いない。


「ええ。そうよ。あのおっさん……ゴホン、ギルド長は書類や事務作業が嫌いでしょうがないんですが、実力でギルド長までになった人なので見る目に関しては間違ってはないかなと」


 エリルもリィドの実力自体には疑問はない。


「というか、ティタ姉いつのまにそんな権力者に……」


 リィドも縁でいろいろ融通を効かせてもらっていたが、まさか実質のトップに頼んでいたとは。


「リィドやめてちょうだい。無責任のおっさんの尻ぬぐいしてるだけ」

「……ギルド長代理のために依頼頑張りますね」

「自分たちのために頑張ってくれればいいわよ」

「ありがとうございました。疑問が解けました」

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