第32話「泡沫の未来」

「先生おはようございます」

「ああ、おはよう」 


 元気な幼女のあいさつに、老人が笑いながら挨拶を返す。


「クチナシ君は本当に魔術が好きなんだね」

「はい、本を読むとワクワクします」

「そうか。精一杯励みなさい」

「はい」


 老人は図書室から出て行った、

 ここは老人が私的な財産で経営している孤児施設だ。

 そして、老人はそれなり名のある魔術師であった。

 拾ってきた子供たちに魔術を教えていた。


「クチナシちゃん。どうやったら火をつける魔術で爆発させることができるの?」


 老人と入れ替わりでクチナシと同じく拾われた子供がやってきた。


「シグレちゃん、それは……」


 火を灯す魔術の練習をしていた時だ。周囲の子供が火を一瞬つけるのに成功し喜んでいたなか、一人だけ灯すのではなく爆発が起こった。


「あれは、みんなと同じ魔術だよ」

「でも、火の魔術であんなになる?」

「私どうやら魔術の力がちょっと強いんだって。だから、私は制御できるように勉強する予定」

「へー。そうなんだ。いいなー」


 この施設におてい、魔術の力量が存在価値に直結する。


「先生は強いだけじゃだめっていつも言ってるでしょ?」

「確かに。強くて制御できないもの大変かもね。頑張ってねクチナシちゃん」

「うん」


 クチナシという子供は親を知らない。

 生まれた直後に捨てられていたらしい。

 クチナシは絵本の代わりに魔術書を読むのが好きな子供だった。

 施設では小さい子供は魔術を使用するにはそれなりの勉強をし、先生から許可がないとできないことになっている。

 クチナシも最近許可がおり、ようやく魔術を使用し始めた。

 そして、クチナシは魔術の威力がとてつもなく強いことが判明した。

 なので、まずは制御できるようにと勉強を始めた。


「クチナシさん、またお勉強っすか?」


 クチナシは突然背後から声に動じず挨拶を返す。


「セツナさんおはようございます」

「おはようっす」


 背後から現れたのは、この施設の用心棒セツナだ。

 施設は人里離れた森の中に建てられている。

 魔術教育を行っていて魔術書や、魔術具などが豊富だ。

 侵入するには大変だが、金目的でやってくる人間は少なからずいる。

 他には森の中なので魔獣が襲ってくる時もある。

 それらから守るために雇われているのがセツナだ。


「そうだ、セツナさん今度またそのワイヤー?を教えてよ」

「別にいいっすけど魔術に必要なんすか?」

「今後のためにも、森にいる魔獣を倒せるようにはなりたいんです」

「ああ。それくらいならいいっすよ」


 セツナに森で魔獣に襲われたところを救われた。

 魔術が使えれば、あの程度の魔獣は問題ないはずだった。

 しかし、クチナシは重要なことを理解していなかった。

 魔獣は魔術を行使する間大人しく待つなどありえないということに。

 クチナシは魔術師の卵で初歩的な魔術を使うにもそれなりに時間がかかる。


「じゃ、昼過ぎ当たりから練習しますか?」

「よろしくお願いします」


 セツナはあくまで用心棒であって教師ではない。

 教える義務はないが、荒事が起きない限りは基本暇なので時間潰しとして教えることにした。

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