第29話「はじまり」
翌日ティタ姉が合流し、王都に向かう。
「申し訳ありませんが、私は一切戦闘できないので宜しくお願いします」
「ティタ姉には指一本触れさせないので安心してください」
リィドは全肯定だが、セツナは怪しんでいた。
事務姿しか見てないが、雰囲気的にかなりの手練れじゃないのかと思う。
スロアニス国に移動した。商人からキュリドーンを三頭借りた。
キュリドーンは草食で人類の移動手段として家畜化された魔獣である。
四足歩行で、足は鱗に覆われ岩よりかたい蹄を持ち、長距離の移動に適している。
エリルが一人、リィドとセツナ、ティタ姉とミケに分かれて乗る。
エリルは鎧を着ているためキュリドーンの負担を軽減するためだ。
「すさまじいな……」
エリルは驚いた。エリルはキュリドーンを乗る訓練を受けており、一般人よりは扱いが上手い。
が、リィドもティタ姉もエリルより巧みに乗りこなしている。追いつくのがやっとだ。
「ここで、待機させておきましょうか」
目の前に森が広がっている。キュリドーンから降り後は徒歩だ。
「この森の中の湖があってそれのことだと思うわ」
ティタ姉の案内の元歩き出す。
「一旦足を止めよ」
ミケが周囲を見渡しながら提案する。
「悪魔か?」
ティタ姉以外は戦闘態勢に入る。
「……違うようだな」
木々を風が揺らす。
「人間共何のようだ!」
突如現れた。人間ではないようだ。二十人近くはいるだろう。
「風の精霊ですか?」
ティタ姉は声をかけてきた人物にお辞儀をする。
「俺が風の精霊王だ」
「失礼しました。私はティターニア。こちらをどうぞ」
リィドは言われるがまま手料理をいくつか渡す。
「ふん、人間が作ったものなど手を付けると思うか?」
「風の精霊王は挨拶されも返さず、一方的に異種族だからと高圧的な態度取るお方なのですね」
「なんだと」
「私が耳にしていた王は前代のことのようね」
「……ち。俺は風の精霊王、インセンシスだ。そうだろうよ。俺はついこの間殺された前王から継ぎ王になった」
「王、これとても美味しいです!」
「ち、お前ら勝手に食いやがって。毒でも入っていたらどうする気だ!」
仲間の数人が恐る恐るリィドから料理を受け取り食べる。
「この味は毒なんて入ってません。親しい味ですから」
「……ち、王として感謝する」
「王もどうですか?」
「不要だ。そもそも、人間と同じ食べ物など接種せず生きている」
「知っています。あくまで嗜好だと。だからこそ、大切なのでは?」
「俺は不要だ。それより、何の用がありこの森に踏み入った。ここは人間共の勝手に決めた領土ではないはずだが?」
「フェイシスをご存じですか」
「何故人間がその名を!」
人間相手にあからさまに態度が悪かった精霊王だが、フェイシスの名を聞いたとたん激昂した。
「言の葉ではなく手が出るとは、風の精霊王の器が知れるのー」
「場違いな悪魔がいるようだな。まずお前から殺していいんだぞ」
精霊王がリィド目掛けて攻撃し、ミケが防いだ。
「王、おやめ下さい。敵となった時に皆殺せばよいではないですか。それは最終手段だと、敵でないのなら、まずは対話だと前王がよく仰られていたではありませんか」
「……人間話は聞いてやる」
リィドはフェイシスが来たこと。記憶を失ったこと、どうやら正体は風の精霊で受肉し人間の体を持ったことを包み隠さず話した。
「あの、くそ親父は……バカが。受肉させたから死んだんだろ。しかも、フェイシスを人間の体にしただと?親のすることか?」
「馬鹿ではありません!」
御付きであろう風の精霊が大きな声を出す。
「王は、王は何よりもインセンシス様と、フェイシス様のことを大切に思ってらしゃいました。例え受肉させえたとしてもフェイシス様が生き延びて欲しいからの選択です」
「お前に何がわかる!」
「分かります!分かりますよ……私が不甲斐ないばかりに……守れなかった私の責任です」
「ちっ。もう責任だの話は終わっただろう。蒸し返すな」
「込み入った事情がおありのようですね。事情をお聞きしても?」
ティタ姉はなるべく丁寧に質問する。
「フェイシス様をお救いしていただきありがとうございます」
御付きが経緯を話す。
前王は老齢で、インセンシスに王を継がせることが決定していた。
インセンシス含め大人数の風の精霊はその日水の精霊の元へ訪れていた。
残ったのは前王やフェイシス、護衛の精霊少人数。
そこへ突如として三体の悪魔が襲撃してきた。
もちろん、激しい戦闘になり二体の悪魔を撃退したが最後の一人に勝てなかった。
前王はフェイシスを受肉させ、どこかに転移させ逃がした。
皆にここから逃げ、インセンシスと合流するよう命令を出し絶命するまで戦った。
つまり、前王に受肉され人の身になり逃がした先がたまたまリィドの家だったのだ。
「フェイちゃん王族とかびっくりっすね」
「どうするリィド、セツナ。知らなかったとはいえ普通に接してしまっていたぞ」
元精霊というだけで驚きだったがまさか、王族だったとは。
「安心?してください。私達には人間のような血族で王を継ぐシステムではないです」
「俺が王になったのは実力だ。王にはその時の中で一番強い精霊がなる」
だが、元王の娘。現在の王の妹であることは変わりない。
「理解した。フェイシスの保護に関しては精霊王として感謝する」
以外にも素直に王は頭を下げた。
「貴様らはもう帰れ。後はこちらの問題だ」
「帰りません。俺らも助けます」
「助けてどうする?あれは我々一族だ。貴様らに渡すとでも?」
エリルがとっさに言い換えそうとするがセツナが止める。
エリルは腕は立つが舌戦はてんでだめだ。
「フェイシスさんは受肉され人間の肉体を持っています。資料お渡ししますね」
ティタ姉が口を開いた。
「もちろん、記憶がなくてもフェイシスさんのご家族なのですから再開を邪魔するつもりは毛頭ありません」
「だったら……」
「しかし、肉体はもう人間です。精霊と同じ生活環境で生存できるとお思いですか?」
「な……」
「一番尊重すべきはフェイシスさんの意見です。あなた方との生活を希望するなら、寂しいですが応援します」
「……人間に何のメリットがある?」
「メリット、デメリットではありません。感情です。人間は愚かだと思うかもしれませんが、今回は偏に皆がフェイシスさんと共にありたいと思っているから行動してます」
「王、フェイシス様については解決してから決めたらよろしいかと。今はフェイシス様の救助が先かと」
「……いくぞ!」
リィド達を無視して、精霊は森を移動し始めた。
「皆さん、申し訳ありません。王は別に貴方たちを嫌ってるわけではありません」
御付きが小声で話す。
「ただ人間とあまり接したことがないのでどう接すればいいか分からないのであんな感じなのです」
御付き深々と頭を下げる。
「フェイシス様をお救いしていただき本当にありがとうございました」
リィド達は精霊の後を追う。湖に到達すると悪魔と精霊王が対峙していた。
魔術によって拘束されたフェイシスの姿も確認できた。
「卑怯な悪魔がやってくれる」
「ほう、風の精霊王自らやって来てくれるとは実にありがたい」
「この間の襲撃が上手くいって勘違いしていうるのか?」
精霊の数が違う。
「捨駒はあるのでな」
突如数多の魔獣が召喚され精霊たちを襲う。
「……セツナ、エリル」
「準備できてるっすよ」
「私もだいつでも言ってくれ」
「悪い」
セツナとエリルが前衛として悪魔と対峙。中距離からリィドとミケが攻撃と支援。
前衛は危険度が高い。
「いつもの陣形っすからね。それに、不埒な悪魔に一発入れたい気分なので」
リィドが悪魔に向けて矢を放つ。
「ん?人間か?……あの時のやつか。どうしてどうして、ここによくこれたな。執念は認めてやろう」
「精霊王さん、うちらが相手しとくんで先お仲間と強力してくれないですかね?」
「……ち。我々の邪魔だけはするなよ」
悪魔を倒すこと、フェイシスを助けること、王として同族守ること。どれも果たさなければならない。
精霊王はまずは魔獣を倒しに向かった。
「人間風情がいつまでもつかな?」
「複数人で申し訳ないが、事情も事情なのでな許せ」
エリルが槍で突く。
悪魔は身を躱す。
セツナはワイヤーで悪魔を切断する。
「ぬるい」
悪魔は腕を振るうとワイヤーが容易く切断された。
「そして後悔しろ」
悪魔はにやりと意味あり気に笑う。
「それは自戒かの?」
セツナの目の前で見えない何か同士が衝突し、セツナの髪が靡く。
「使役されているレベルかと思ったがお前フェイクか?」
「おぬしが使役される悪魔以下なだけじゃろ?」
ミケが攻撃を防いだようだ。
エリルの槍は止まらない。直撃は困るのだろう、悪魔は槍をよけエリルの反撃する。
「やはり悪魔は強いな」
魔力で強化しているのだろう。
エリルは悪魔の腕を槍受け止める。
その隙に背後からセツナがナイフを首元に突き立てる。
「見えてるぞ」
悪魔は振り返り?もせずにセツナを蹴り飛ばす。
「ぐっ」
セツナは足で受け止め腹への一撃は避ける。が、ふっ飛ばされる。
「大丈夫か」
「エリちゃん、気にしないでくださいっす」
セツナは仕掛けたワイヤーを足場にして衝撃を和らげる。
「悪くない」
勝率が一切不明だったが何とか互角に戦えている。
ミケのおかげで魔法攻撃を相打ちにできるのが大きい。
リィドはその時が来るのをひたすら待つ。
「調子に乗るな人間が」
悪魔はエリルを蹴り飛ばす。
「げふっ」
エリルは確かに槍で攻撃を受け止めて防いだ。が、悪魔の足から突如足が生えその足がエリルを蹴り飛ばした。
悪魔はエリルを追撃する。
「エリちゃん!」
手から触手のように腕が無数に生え、体を貫く。
「まったく。お互い悪手だの」
「ミケ!何故」
ミケが悪魔とエリルの間に割って入り、触手はミケの体を貫いていた。
「悪魔は膨大な魔力に頼りきりで、いざ封じられたとたん肉弾戦で押し負ける。エリル、ぬしは武の型に己を当てはめすぎている。人型だからと人の動きをすると思うな」
「すまない、ミケ今助ける」
「否、吾ごと貫け。今なら気持ちよく通るだろう」
「そんなことしたらミケが」
「忘れたか吾を」
ミケは不死身だ。確かにエリルの攻撃を受けたところで死ぬことはないだろう。
しかし、味方ごとを即決できるかと言えばエリルも躊躇う。
「離せ、よく考えろ。お前の行為は悪魔全体への不利益だぞ」
悪魔は触手を抜こうとするもミケの方が上なのか抜けずにいる。
「三下だの。力で敵わぬならば、言葉で懐柔か?実につまらぬ。ならば、おぬしに付き合う気は起きん」
「ここまで来て失敗するわけにはいかないのだ!」
悪魔の腕からさらに腕が生える。
そして、ミケを襲う。
「エリちゃん、ここは覚悟決めてやるっす」
セツナのワイヤーが腕を拘束する。
「……」
エリルは目を瞑る。全神経を集中させる。
「っと往生際の悪い悪魔はモテないっすよ」
さらに生えた腕をナイフとワイヤーを使い切り落とす。
「セツナ離れてくれ!」
エリルの掛け声でセツナは距離を取る。
槍は高速で悪魔に向かう。
「見事だな」
ミケの体に穴を開け、悪魔の体に突き刺さる。
当然、悪魔も抵抗するが槍先は止まらず体に突き刺さった。
「今だ!」
リィドは矢を放つ。
放たれた矢は悪魔とは関係ない明後日の方向に飛ぶ。
普段ならばまず買うことは躊躇われる高額な矢。
矢先には魔術がかけれており、そは魔術を破壊する魔術。
そして、矢はフェイシスをの元へ。
矢はフェイシスを拘束している魔術にぶつかり、赤白い光を放ち魔術を破壊した。
リィドはひたすら待っていた。
悪魔が確実に阻止できない状態になるのを。
「フェイシス、大丈夫か」
リィドは急いでフェイシスのところまで向かい、担ぎ離脱する。
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