第28話「遺された言葉」
リィドは進展があったのでティタ姉に共有のためギルドに向かった。
「なるほど。まだ精霊王の居場所の方が収集はできるかもしれないわね」
「ありがとうございます」
「いいのよ。そういえば、先生の本て解読できた?このタイミングだから何か役立つものかもしれないでしょう?」
リィドより先生と付き合いの長いティタ姉だ。冗談ではなくけっこう本気で言っている。
「それが何か本に魔術がかけられていて、それを解除しないと正式な内容が読めないようです」
「なんですって?」
ティタ姉はしばし悩み切り出す。
「今から家に行っても大丈夫?」
「もちろんです」
分かっている。分かっている。けれど嬉しいのだから仕方ない。
この状況でロマンスな訳がない。魔術書の件なのは分かっている。
「そういえば、アイフォード王国跡地に行ったんでしょ?」
「はい。考えればあそこは悪魔や犯罪者にとって実に魅力的な場所ですよね」
「そうね……」
「俺は大丈夫ですよ。もう一人じゃないんで」
「……そっか。久しぶりにリィドのご飯でもご馳走になろうかな」
「お任せください」
談笑しながら家に戻った。
「これっすけど、かなり複雑っすよ?」
セツナは本を渡す。
「本当だ。相変わらずね先生も」
ティタ姉は目を瞑り、天上を見上げる。
「いじわるなんですよ、本当に」
ティタ姉は本にかけられた魔術式を弄る。
数秒。指はかろやかに動く。
「たぶん、これで解けたわ」
「嘘っ、ティタ姉さん、魔術師なんすか?」
「違うわよ。魔術に詳しいんじゃなくて、先生をよく知っているから解けただけ」
突如魔術書が喋った。
『あーおめでとう聞こえます?』
解除されることにより別の魔術発動し、記録された音声を再生しているのだろう。
『これを解いたのはお転婆娘かしら?それとも、名のある学者?あるいは力のある魔術師か。初めに言っておくけど、この本は残念ながら貴重な魔術書じゃないの。それが目当てだった人は今すぐ本閉じてちょうだい』
魔術書でないことは驚いたが、当然閉じるはずもない。
『この本は精霊と仲良くする方法をまとめた本よ。精霊といっても火、水、風の精霊だけなんだけどね。他の子たちとはまだご縁がなくてね。詳しく知りたい人は本を読んでちょうだい。これから話すことはざっくりしたものよ』
皆お互いの顔を見る。
精霊についての情報。
『まず火の精霊は裂けた歴史の針の都の近くにいるわ。好きな食べ物は甘いお菓子よ。意外でしょ?』
音声はマイペースに再生される。
『水の精霊は月が三回欠けた湖の底にいるわ。好きな食べ物は味の濃いもの。特に辛いものが好評だったわ』
場所の説明が実に曖昧で知識がなければ特定できない。やっかいである。
『風の精霊は死者が溺れる遺跡近くの湖付近にいるわ。好きな食べ物は私の手料理』
特定不能。リィドにはさっぱり分からない。
『手料理というか家庭の味?作ってあげたらなんでも美味しい美味しいって食べてくれてね。後すっごい量を食べるの。共同生活なんてしたら食費がすいことになりそうなくらい』
一同うなづく。
『簡単な説明でした。後は本を読んでちょうだい』
最低限の手がかりは入手できた。
『最後に、自分で決めたのだから頑張んなさい』
本は沈黙した。
最後の言葉は誰に向けてだろうか。
「明快なご婦人だったようだな」
「かなりのマイペースな人みたいっすね」
「まぁな。誰か場所特定できるやついるか?」
「……」
ティタ姉は沈黙、ミケは首を横に振る。
「はぁ……ほっんとうにあの人は……」
ティタ姉は呆れた顔してリィドを見る。
「リィド、一日時間を頂戴。死者が溺れる遺跡、これ私知っているわ」
「本当ですか?」
「ええ。昔先生と一緒に行ったことのある遺跡でそれらしき遺跡があったわ」
「うむ、リィドの師はやはり稀代の魔術師なのだろうな」
魔術に詳しくないエリルでも理解できる。ここまで的確な布石を講じておくことができるのはよほどのことだ。
「稀代か……。奇妙というかな……」
実に説明が難しい人だからだ。
「そうね。強大なのは間違いないわ」
「そうっすよね。独自の魔術こうも多様に作れるんすからね」
「あら、セツナさん魔術の知識かなりあるのね」
「そんなことないっす。仕事柄得たのがほとんどなんで」
「そう。リィド、すまないけど明日はあなたにお願いしたいことがあるの」
それは携帯できる軽食を大量に作ってほしいとのこと。
先生がわざわざ音声で食べ物の好みを言及するということは食べ物を持っていけと言っているようなものだ。とティタ姉は推測した。
ティタ姉が帰り、明日に備えて食事を済ませ寝ることになった。
「……セツナか?」
夜部屋のドアが開けれらた。いつもならフェイシスが入り込んでくるが今回はセツナだろう。
「先輩すみません、ちょっとだけいいですか?」
「なんだ?」
リィドは起き上がる。
「これ先輩が持っていた方がいいかなと思いまして」
それは魔術書だ。
「ああそれか。セツナが持っていていいぞ。読める可能性があるのはセツナだけだからな」
「……了解っす」
「セツナ」
「はい?」
「ありがとな」
セツナも気を使ってくれてのことだろう。
しかし、強がりでも何でもなく純粋にリィドには不要なのだ。
「その感謝は一緒に寝るのを期待してっすか?」
「違います」
「またまたー特別に今回は無料で一緒に寝てあげるっすよ」
「けっこうだ。てか金をとるな」
「ちぇやっぱりエリちゃんじゃないとだめっすかね?」
「なんの話をしている」
実に何の話だ。
「普段鎧なんであれですが、エリちゃんあるんすよ」
「だからなんの話だ」
下手に言及すればやれ変態だと言われるのがおちだ。
「あ、さんざん一糸纏わぬ姿見てるから熟知っすね」
「明日に備えて寝てくれ」
「はーい。じゃ、この本一階の棚に置いておきますね」
「ああ」
翌日、セツナとエリルに食材を買いに行ってもらい、リィドは料理に専念していた。
「のぅリィド焦らすでないぞ」
「っつ待て待て。こういうのは準備が大事なんだって」
「んぬぬ、こんなに固いとか聞いてないぞ!」
リィドは炒め物を作りつつ、野菜を切るミケをサポートする。
「手の持ち方が違うから。ほら、こうすれば切れるだろ?」
ミケは人間の作る料理は好きだが、作ったことはない。
普段の料理は基本的にリィドが担当だ。フェイシスがお手伝いに参加すする。
セツナも最低限の物なら作れる。エリルは少々、リィド達と比べると苦手なため調理はしない。
ミケは人間の調理をしたことがない。仲間になってから極まれに手伝いに参加する程度だ。
リィドの努力という忍耐力の賜物により、ミケは食材を切ることができるレベルにはなったのだ。
「これはこんな感じでよいかの?」
「ああ。助かる」
「ずいぶんと豪快な量だが、こんなに必要か?」
それが困り所だ。予算と持ち運びのことを考えて、三十人前を作っている。
フェイシスレベルが複数人いると仮定したら、これでも少ないかもしれないくらいだ。
「余ってもフェイシスが食ってくれるだろう」
「……そうさな。うむ」
「なんで頭を撫でる?」
見た目幼女に頭を撫でられる光景は誤解を招きかねない。
「なんじゃ、もっと大人的な対応がお望みかの?」
「本当にやめてください、捕まってしまいます」
「だから、吾の方が年上のお姉さんなのだぞ!」
ミケは悪魔なので所々言葉が怪しい。
「証拠を見せてやる」
ミケは服を脱ぎ始める。
「だから、今は料理中です。そういうのやめてください」
「……まぁ、一理あるの」
セツナとエリルが戻り、追加で料理作る。
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