第25話「覚悟」

 ギルドに報告しに戻ると大騒ぎになった。


「今すぐギルドにて情報提供を求めます。あ、精霊のあたりは省略してね。あくまでギルドメンバーが悪魔に誘拐されたと」


 ティタ姉は即いろいろと支援してくれた。その日にエリル、二日後にセツナが戻って来た。

 二人には事の顛末と情報の収集中なことは伝えた。


「では、知っていると思うが。人間と精霊は根幹から違う」


 魔獣と悪魔と似たようなものだ。人間と精霊に同一なものはない。

 無理やりあげるとすれば魔力を持っている点だけだろう。

 では、神や天使、精霊、悪魔違いは何か。

 明確な違いは不明だ。それは単純で解明した者がいないからだ。

 あえてつけるとしたら生物の種族の違いのようなものだろう。

 神族、天使族、精霊族といったように。


「精霊は姿形はあるが人間のような肉体はない」

「フェイシスは病院で検査しているが、確実に人間の体だ」

「つまり、肉体に憑依したのか?」

「エリちゃん、憑依で体を操っても肉体は強化されないっすよ」

「正式名称があるが知らんが、フェイシスは受肉したんだろう」

『じゅにく?』


 全員の疑問だ。皆初めて聞く単語だ。


「天使が悪魔へと。悪魔が人間なったケースを吾は知ってる。何故そうなったかは知らんがな」

「天使から悪魔はまだ、ありえそうっすけど。悪魔から人って体どうやって作ってんすか?」

「それは知らんと言うとる。ただそうなった奴を見たことがあるだけだ」

「てことは精霊だけど、人間になったはありえない話ではないんだな?」

「そうじゃ」

「……」

「どうした、怖気づいたか?」


 仲間の正体が実は人間ではなかったのだ。


「いや、一番最初の目標だったんだよ」


 フェイシスの素性を明らかにする。


「なるほどな」

「フェイちゃんの記憶喪失は副作用っすかね?」

「可能性はあるだろうな。というかぬしらは本当にお人よしだな」


 ミケは笑う。


「実は記憶喪失は嘘で、正体を隠すための演技だとしたら?」

『……』

「ありえないな。フェイシスが人を騙すなど。子供の方がまだ嘘をつくぞ」

「ないっすねー」


 沈黙を続けるリィドを一同は注目する。


「ないだろう。例え演技だとしても、別にフェイシスはフェイシスだからな」

 今さらだ。そして、人間は誰しもが場面で演じ分けるものだ。

「フェイシスが貴重な人間なのは分かった。だったら何故連れて行った?」


 そもそも、低級悪魔は人間を操り何をしていた?

 そして、何故高位悪魔は突如現れた?

 口ぶりからして、そもそも精霊状態のフェイシスを探しておりあの戦闘でフェイシスを見つけ攫ったようだが。


「悪魔が精霊を攫うメリットってなんすか?」

「さあな。吾も特に思いあたる節はない。が、考えるとしたら胸糞悪い理由じゃろうがな」

「……」

「誰かに雇われてとかはないのか?」

「誰かのためはありえるが、雇われは低いじゃろうな」


 直接見たリィドも同じ感想だ。


「あのレベルの悪魔が人間に使われるとは思えん。自分で言うのはあれだが、吾みたいなのが希少だぞ」


 ミケの言う通りである。


「先輩の先生さんから何か聞いたり、貰ってないんすか?」

「ない」

 あの先生が安易に解決策を渡すわけがない。せめて突破口のヒントくらいだ。

「あ」


 否定してふと思う。


「これがその依頼品で、報酬なんだが実は先生が書いた書物なんだ」


 魔術書を取り出す。


「な、そんな貴重なものが」


 机の上で開いて皆で覗き込む。


「セツナ、何か分かるか?」


 リィドとエリルは見ただけで分からないことを理解した。


「さっぱりっすね。一部分が分かりそうではありますが、意味不明っす。それにこれ自体に魔術がかけれらてて、これを解除しない限り正しい中身は見れないようです」

「これがこの家の主の著だと?」


 ミケは笑う。


「分かるのか?」

「分からん。セツナの言った通りまずはこの、謎を解かんと無理だ。が、これに使われてる魔術だが……本当に人間か?」

「どういう意味だ?」


 人間だと肯定しずらいのが本音だ。

 リィドがフェイシスに驚くもすぐに応対できるのは非常識に足が生えた先生との生活があったからだ。


「恐らくじゃが、使われてる文字からして理解不能だ。過去、現在、恐らく未来の文字を複合して生み出した文字じゃ」

「はい?」

「創作文字っすか?」


 セツナは何か知っているのだろうか。


「過去、現在にて使用されたことのない文字を指すのであればそうかもな。ま、吾は人間の使う文字なんぞ多岐すぎて知らんから、どこかの文字かもしれんが」

 国が違えば文字が違うのだから。

「じゃが、一部は吾も知っていそうな文字もある。人間が知らんはずの文字じゃな」

 俗に古代文字と呼ばれる類の物だろう。時の砂粒に埋もれてきえた歴史、文字、文化。

「知識に技術、吾が知っている人間全て霞なほど、傑物だぞ」

「てことは実際無理だと思っていいかもっすね」


 セツナがそういうならあきらめるしかない。


「……なぁ、人間よ。吾を信じるか?」


 ミケは芝居がかったように問う。


「信じるもなにもな……今のところ疑ったことはないぞ」


 フェイシスと同じく信じれるか。それは否である。

 ミケは仲間になってから日が浅いので仕方ないことだ。

 しかし、契約を反故するなど疑ったりしない程度には信頼している。


「くふ、疑わないか。実に正直だな。吾に数日くれないか?」

「……それはフェイシスの捜索のためにか?」

「ああ。攫った相手が悪魔だからな。吾にも悪魔の伝はあるからな」


 ただし、人間が一緒だといろいろ不都合だ。

 今は情報が欲しい。可能性があるのならとミケに任すことにした。 


「二人にはいくつか言っておきたいことがある」


 聞くまでもないことが、何事も言質取っておくことは重要だからだ。


「まず、聞くまでもないと思うがフェイシスを助けるのに協力してくれるか?」


 二人は頷く。


「敵の規模が分からない。悪魔だけが相手じゃない可能性がある」


 それは二人も想定できるし、承知もしている。


「相手側に人間がいた場合、私情で殺すことになるけどいいか?」

「何言ってるんすか?うちは元暗殺者っすよ」


 知っている。どちらかといえばエリルに対してだ。エリルは気高く、正々堂々とあれの騎士団で生きてきた。


「……」

「エリル?」


 エリルは目に涙を浮かべる。


「気遣い感謝する。私は大丈夫だ、騎士団の道を選んだのだ。気にすることはない」

「でも何でエリちゃん泣きそうなんすか」

「べ、別にな、泣いてなんかないぞ!」 


 顔を赤くする。


「この状況で不謹慎で申し訳ないが、改めて私は幸せだなと」


 騎士団は個ではなく、集団が求められる。

 エリル一個人に気を使ってくれる仲間。同じように笑い、同じことで怒れる大切な仲間。

 かけがえのない場所だ。皆のためなら、当然自身なんて即賭けることができる。

 セツナに買い物を頼んだ。悪魔を相手に道具等足りないなんてことはない。

 エリルは騎士団の伝手を使い悪魔の被害等の情報収集。

 リィドは自宅にていつでも出発できるように荷物の整理。

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