第21話「もふもふでかわいい」
初めての悪魔との共同生活。不安だらけだったが意外と何とかなっていた。
フェイシスのおかげでかなり適応能力が上がっていたのかもしれない。
しばらく日銭を稼ぐ日々を過ごしていた。ある日、リィドとエリル宛に依頼が入ったと連絡があった。聞くだけなのでひとまず二人でギルドに向かった。
個室に通され待っていたのは意外な人物だった。
「お久しぶりです、リィド殿。エリルも元気そうでよかった」
「お久しぶりです、アンザスさん」
「ご無沙汰しております。もしかして、依頼というのはアンザス騎士団長が?」
「そうです」
「なるほど。それはアンザスさん個人的な物ですか?それとも……」
国が公的に依頼を出すのは珍しくはない。
「難しい所ですね。今の所は個人での依頼という形を取らせて頂こうかと」
ややこしいことはリィドは遠慮したいが、知らない相手ではない。話を聞くことにした。
「半月後に国王がしばらく外遊を行います。これについてはかなり前から公開している情報なのでご存じかもしれません。なので、その間、国王が不在となります」
国王の護衛。断る一択である。
「昨今の事情を鑑みて王子の護衛を強化することになりまして。ここから本題ですが、複数人の影武者を用意し本物同様に護衛します。そこで、国政関係者と関係のない外部の人間も一部入れる方針になりまして」
「つまりクリス王子の影武者の護衛依頼ということでしょうか?」
エリルの表情がいつになく真剣なものになる。
「何故俺たちを指名に?ギルドに依頼するのは理解できます。ギルドには俺たちより実績も実力もある人間なんていくらでもいましすが、何故俺たちに?それに最初に個人的な依頼と言ってますが、国の依頼なのでは?」
「一つ目は、実力以上に口の堅さなど兼ね備えた人物であることが望ましいです」
確かにそれならばよく知っているエリルに、そしてその同じチームに依頼を出すのは納得できる。
「二つ目はお恥ずかしいお話ですが、内政が一枚岩ではないということです。外部に依頼の件は私含め少数の人間による協議の結果決定しました。一応警備においては私の一任で進めることができるのでこのような運びを取ることに」
「一応確認ですが、アンザスさんは王子の身を案じてる立場なんですよね?」
「リィド!失礼だぞ」
「エリルいいのです。公的な立場から私的に依頼なんて怪しいのですから疑うのは当然です」
アンザスは立ち上がる。
「我が剣に誓いましょう、今回の依頼に嘘偽り、計略など一切はありません。王子の身を護るための依頼です」
リィドは後悔した。影武者といはいえ、王族に関与するなんて面倒事このうえない。断るつもりでいたが、ここまでされるとさすがのリィドも断りずらかった。
しかし、リィドもお人よしではない。ここはトラブル回避のためにも心を鬼にする。
「ちなみに報酬金はこれくらいでいかがでしょうか?」
「という訳で護衛依頼を受けることにした」
リィドは自宅にて依頼を受けた旨を説明した。
「王子様って何歳なの?」
「今年で十五歳になられた。例え影武者とはいえこのような光栄なことは滅多にあることじゃないぞ」
エリルは興奮気味だ。
「ならば吾はパスだな。いらぬ姦計に巻き込まれるのはごめんだな」
「そしたらうちも遠慮するっす」
ミケは悪魔なので可能性は十分あるだろう。しかしセツナはどうしてだろうか。
「うち一応前職は暗殺者なんで。経歴的にまずいと思うんすよね」
「……確かにな」
影武者とはいえ暗殺者を引き連れていくなんて危険すぎる。
「そうだな。そしたら、俺とフェイシスとエリルの三人で行こう」
「にしても、さすが騎士団のトップっすね。額がとんでもないっすね」
アンザスから提示された金額は五人が一か月は依頼をせずに過ごせる程の金額だった。
「護衛って何をするの?襲ってきた悪い人から王子様を守るの?」
「それはもちろんだが、今回は移動警護ではなく、宮殿内での警護だからな。その前に別の者が止めるだろう。可能性としては、従者に紛れ込んで暗殺を企てる者を止めるとかの方だろうか」
「俺が聞くのもあれだが、この国の王子様を狙って得することってあるのか?」
幸いこのシェラザード王国では長年他国と戦争をしておらず、治安も比較的安定している。
「アイフォード王国が滅んだからな。備えあればという感じだな」
「アイフォード王国って?」
フェイシスの疑問にリィドが答える。
「六年前までアイフォード王国ていう大国があってな。当時は現存する最古の王国で歴史があり人口もこのシェラザードの二倍以上。けれど、圧政に国民の反乱が起き王家を殺害。結果的に周辺国に取り込まれて王国は消滅した」
「なるほど」
「周辺国では当然戦乱になり、治安が悪化した。その時既に私は騎士団に入っていてな、警備が強化されたのを覚えている。まぁ、結果的に我が国とは距離が遠かったおかげで直接的な影響は出なかったがな」
「そういえば、王子様には妹さんがいて病で亡くなったんですっけ?」
「そうだ。なのでその話題は出さないように頼みたい」
「はーい」
当日、リィド達は北部奥地の離宮に案内された。当然と言えば当然だろう。
本物は恐らく王宮にいるだろう。
「大きいねー」
フェイシスが辺りを見渡す。
「いいか、くれぐれも無礼のないようにな」
「失礼します。本日より警護の任を任され……」
「お話は伺ってます、入ってください」
「ありがとうございます。俺はギルド所属のリィドと申します。こちらはフェイシス。彼女は病で最近までの記憶が一切ないためご無礼なことがあるかもしれませんが、ご容赦頂ければと思います」
リィドは恭しく頭を下げる。それに習いフェイシスもひょこっと頭を下げる。
「はい。騎士団長殿から伺っております。そしてエリル殿、アナタのことはそもそも知っていましたしね」
「私のことをですか?」
「はい。騎士団員として、騎士団長からお話を。珍しい女性団員で若くして地方の警備局長に抜擢されすぐさま辞任。しかし腕は確かなもの。弛まぬ努力尊敬に値します」
「も、もったいないお言葉……ありがとうございます」
「あ、エリル殿来てもらって早々申し訳ないですが、執事長と打ち合わせして欲しくて行ってもらえますか?」
「承知しました」
「俺たちはどうしますか?」
「そうですね……お話でも聞かせてもらえますか?公務以外で王宮の外に出ることがないので大変興味があります」
「いいかリィド。くれぐれも変なことを教えるんじゃないぞ」
エリルはリィドに念を押し退室した。
「……では、ここで話すのもなんなので外にでも行きましょうか。あ、外と言っても庭ですが」
湖があり、管理された木々……もはや森がある庭だ。
歓談用の机と椅子が置かれたスペースにリィド達は行き、そこに座り当たり障りのない話を王子に話した。
「リィド、あれ?」
唐突にフェイシスが森の方を指差した。
四足歩行で、背中に羽の生えた魔獣が歩いていた。
「あれはシュリギンだな」
シュリギンは温厚で見た目とは裏腹に草食性である。知能が高く、調教が可能で移動手段として用いられることもある。国によってはシュリギンを使った競技などが存在する。
「はい。あれは国で管理しているシュリギンですね」
「もふもふでかわいい」
「リィド殿、乗ったことはありますか?」
「人に飼われたのに数回ほど」
「えーずるい」
「いい記憶じゃないぞ」
『ヒュー』
王子が指笛を鳴らす。
「すごーい」
シュリギン二頭が空を翔けリィド達の目の前にやってきて停止した。
「試しに乗ってみてはいかがです?」
「いいんですか?」
「はい。もちろんです」
「わざわざありがとうございます」
王子は颯爽とシュリギンに乗った、
「……」
「どうしました?」
「いえ、やはり王族の所有だけあってかなり綺麗だなと」
「離宮のシュリギンとはいえ、世話はきちんと行われていますからね」
「フェイシス、ほら」
フェイシスはシュリギンに乗り、その後ろにリィドが乗る。
「歩いたー」
リィドが腕を振ると、たシュリギンはゆっくりと歩きだした。
リィドはシュリギン掴んでる腕を強く振る
「飛んだー」
すると、シュリギン羽ばたき宙に浮いた。
「さすがですね。湖を一周しませんか?」
「分かりました」
王子が先行する形で少し後からリィドが進む。
一周したところ、着陸シュリギンから降りる。
「初めての空中散歩どうでした?」
「すっごい気持ちよかった。どうやって曲がったりしてるの?」
「掴んでいる手の引き具合、傾き具合で動いてくれるように調教しています」
「へーえらいね」
シュリギンの頭を撫でる。
「ここのシュリギン達は調教されているとはいえ、こうも正確に操るなんて。数回だけと仰ってましたが何かコツあるのですか?」
「いえ、ここのシュリギンが優秀だからですよ。自分が乗ったのは人を乗せたことがあるくらいの調教がそこまでされていなかったです」
「リィド今度乗り方教えてよ」
「シュリギンに乗る機会があればな。正直、最高速度だけならフェイシスの方が速いと思うぞ」
「私も是非にも教えていただけませんか?」
内心焦るリィド。自分が教えるなんて恐れ多いが、断るのも不敬だ。
身体能力が高すぎるフェイシスはすぐに一人で乗れるようになった。
「これはあくまでも個人的な感想に近いです。個人の感覚があるのでもし違和感を感じたら今のままで良いかと思います」
徹底的に予防線を張る。
「もう少しだけ尻を後方に、太ももをこれくらいつけた方が速度出せるかと思います」
「?!あ、ありがとうございます」
「あ……そ、そうですね。試しに見てください。フェイシスちょっといいか」
リィドは教える都合とはいえ気軽に王子の体を触った。誤魔化すために急いでフェイシスを呼びシュリギンを借りる。
「最初の王子の姿勢は安定するので普段はその乗り方で一切問題ないかと。でも、速度を出すと風圧でどうしても体が浮きがちになります。なので、これくらいくっつけないと速度は出せないですね」
リィドは腕を振る。シュリギンは羽ばたく。
「おお」
「はやーい」
シュリギンは森の木々を避けながら高速で進み、途中で引き返しフェイシスと王子の元に戻る。
「こんな感じですね」
「感服しました。っとすみません。これから剣の修行なのですが……」
「あ、承知しました」
王子と共に室内の訓練場に入った。
「差支えなければ、私と一戦打ってくれませんか?」
「あーえー……」
どう断ろうかと悩む。王子の力量は一切不明だが、リィドとは恐らく剣の種類がそもそも違う。
リィドの振るう剣はあくまでも、身を守り相手を倒す剣だ。エリルのように剣を交え力量で倒す剣ではない。
「剣技はエリルから教わるのが一番かなと思います。フェイシスは剣を使いません。俺も剣を使うことはありますが、あくまで緊急時ですからね」
エリルなら騎士団仕込みで実力もある。
「それです。私も剣技を習っていますが相手は騎士団員のみ。もちろん、とても有難いことですが……いろいろな相手と剣を交えてみたいのです」
「……分かりました。一戦だけです」
「あ、ありがとうございます。生意気を言うようですが、手加減はしないでください」
リィドと王子は練習用の木剣を構える。
「はぁー」
王子は素直に正面から剣を振り下ろす。
「っと」
リィドは左足を後ろに下げ体の向きを変え避ける。
「はー」
王子は一度下がり、今度は下から上に斬り上げる。上半身を反らし避ける。
横払い、突き。お手本のようにまっすぐに王子はリィドに斬りかかる。
「はぁ!」
王子は下から上に斬り上げる。
『カンっ』
リィドは剣を受け止め弾き返す。
「え?」
王子はリィドの追撃に身を構えたがリィドは追撃をせず王子の動きを待つ。
「……はっ!」
王子は再び攻める。
『カコンッ』
胴体を狙った剣をリィドは上から下に思い切り振り下ろし、地面に叩きつけ無効化する。
「参りました」
王子は両手を上げる。リィドの手を借りて立ち上がる。
「流石ですね。いくつかお伺いしたことがあります」
「どうして攻撃を避けられるか?ですか」
「はい。私が未熟なものあると思いますが、こうも綺麗に避けられるのは初めてです」
リィドは言葉を慎重に選びながら丁寧に解説した。
近接戦闘で武器を避けるのは比較的容易だ。武器の範囲に入らなければ良い。
王子の攻撃はお手本のような真直ぐ綺麗なものだ。見てから回避が余裕だ。
「なによりも、相手が受け止める、やり返す前提で攻撃をされている」
なので空振りを誘うことが容易だ。空振りが一番体力の消耗が激しい。動きが鈍くなっていく相手の動きを読むのはさらに容易になる。
「逃げるのと避けるのは違います。まぁ、騎士達相手にその理屈は難しいかもですけどね」
自分は人間ではなく魔獣相手が主だからと付け加える。
「いえ、大変勉強になりました。確かに実践では相手を倒すより自身の身を守ることも重要ですからね」
夜の食事の時刻になり、一度王子と別れ広間に案内され、ちょうどエリルが戻ってきて三人で食べた。
「王子様は一緒じゃないの?」
「フェイシス、王族は基本誰かと一緒に食事をとられることはないんだぞ」
「えーかわいそう」
「幼少期はそうもかしれないな。しかし、完全に一人という訳ではないぞ。王、王妃とは一緒だそうだ」
エリル自身当然食事姿を見たことはない。あくまで伝聞だ。
「食事中に襲われるを防ぐもあるが、毒の検査とかもあるだろうからな。いろいろ大変なんだろうきっと」
「大変なんだね。そういえばえりちゃんは今日何してたの?」
「今日は当面の王子のスケジュール確認や、この離宮内要所のチェックなどだな。そちらはどうだ?」
「こっちは王子の付き添いで雑談した程度だ」
「王子がえりちゃんにも剣のお稽古して欲しいって」
「なんだと!」
エリルは思わず立ち上がる。
「嫌なのか?」
「逆だ。騎士団の中でも王子の訓練相手になれるのは数人だけだ。とても光栄なことだぞ」
そしてエリルは気づく。
「もということはまさか、王子の相手になったのかリィド?」
「俺は一応お断りしたぞ?騎士団でも何でもないからな。けど王子が承知で見てみたいって」
「なるほどな。卑怯な戦法は教えてないよな?王子には不要なものだからな」
「教えるもなにも、軽く剣の打ち合いして終わりだぞ」
食事が終わり、寝室に案内された。当然男女別だった。
朝リィドは目が覚めると、異変に気付いた。
「はぁ……夜間警護はどうなってるんだ?」
あくまで警護が厳しいのは外からの侵入者に対してなのだろう。
「あの、フェイシスさん?よく迷子にならずこっちの部屋これましたね」
懐にフェイシスが潜り込んでいたのだ。
数日が経過し、さしたる問題も起こらず過ぎていった。
王子が勉学をする時は隣室で待機。剣の稽古時、エリルが同席している場合はエリルが剣の稽古相手に。
エリルは不規則に離宮内の監視としてリィド達とは別行動する時があった。
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