第18話「アクマで幼女」

 傷心を癒す間もなく目的地付近に到着した。


「誰か来る……」


 フェイシスは耳を澄ます。


「行商人か?」


 周囲を警戒する。しばらくすると、大柄で、かなりの兵装をした男がやってきた。


「おい、お前ら何しにきた?」


 敵意がひしひしと伝わる。盗賊かもしれないとセツナは待機する。


「私たちは……」


 エリルが正直に答えよとしたのをリィドがさえぎる。


「俺たちはギルドメンバーでこの近くの水質調査のために水を取りに来たんだ」

「な、リィド?」


 突然の口からでまかせに戸惑うエリル。


「エリちゃん、任せましょう。こういうの得意っすから先輩は」 

「水質調査?その装備でか?」

「報告によると、悪魔が近くにいて魔獣たちのテリトリーが変わっている恐れがあるってことで魔獣用ですね」

「確かに、その貧弱そうな装備だと魔獣が限界か。いいか?俺は今からその悪魔をぶち殺しに行く。邪魔すんじゃねーぞ」

「それは、すごいですね。もしかして担いでるのは銃ですかね?」

「ああ。金はかかるが、それだけ報酬額がでかいからな」

「なるほど、頑張ってください」

 男はすたすたと洞窟の方に歩いていった。


 リィドからすれば銃ほど非効率の武器でしかない。銃はもっぱら金属で作られ、金属製の弾を発射する。

 そう、金属を使うのだ。とてつもなく費用が高い消耗品だ。魔獣相手ならば当たれば命を奪うのはたやすい。

 しかし、人間相手だととたんに変わる。強化魔術をかけた鎧に、身体強化魔術をかけた相手ならば銃で倒すのは大変だ。

 なので銃の開発はあまりされていないし、使う人間もかなり少ない。


「リィド。どうしてあの御仁に虚偽を伝えたのだ?協力すれば解決する確率も上がったろうに」


 厄介事は避けたい。嘘も方便である。リィドとセツナは比較的同じ性質なのでいたって普通の行為だが、エリルは違う。


「無理だな。邪魔するなって言ってただろ?ああいうタイプは手柄を独り占めしたがる。きっと最後は後ろから強襲されてとか裏切る。それに銃を持っていた。弾丸が飛び交う中で連携なんてできないと思うぞ」

「そうか……」

「別にあの人を騙して陥れようとかしてるわけじゃないっすよ?あくまで、トラブル回避の策っすね。それにうちらが駆けつけて悪魔を倒してるなら、こっそり帰る。逆だったら救助すればいいっす」

「確かにだな。すまない。そういう交渉事に疎くて」

「まっすぐ正直なところがエリルの良い所だと思うぞ」

「そ、そうか」

「俺たちも急ごう」

「……変なかんじー」


 洞窟はいたって静かだった。


「フェイシス頼めるか?」

「うん」


 先頭にフェイシス。そして、リィド、エリル一番後ろにセツナの順で進む。

 やはり悪魔が棲んでいるのだろう。生き物の気配がしない。

 しばらくすると光が差し込む広い空間出た。


「今日はどうした?」

「!」


 臨戦態勢に入る。しかし、事前に聞いていたので攻撃することはしない。


「うむ。何のようだ?」

「……子供?」

「フェイシス、見た目なんて自由に変えることができるからな」


 そこに鎮座していたのは一人の可憐な少女。


「もう一度問おう、何のようだ?」

「可能ならなここから、立ち去って欲しい」

「ほぅ、立ち去って欲しいか。それだけか?」

「ああ。別に争いにきたわけじゃない」

「ふ、よかろう」


 少女は立ち上がる。


「吾とゲームして勝てれば考えてやってもよい。どうする?」

「……ゲーム内容と、勝敗のルール、勝敗によるメリットデメリットを聞いた上で判断したいっす」


 セツナはこれでもかというくらい慎重に問う。


「ふ、安心せい。ある程度聞いておるのだろ?命は奪わん。奪おうとせん限りな。あくまで余興だ。おぬしらは四人。……そうさなー」


 にこやかに少女は笑う。何も知らなければ純粋無垢な少女だと思うだろう。


「ぬしらは四回ゲームにクリアしたらおぬしらの勝ち。四回失敗したら負け。負けた場合は金品でも良い、何か四つ置いていけ」

「本当か?」

「おぬしらはギルドの者だろ?なら、聞いて来てるはずだが?」


 どうやらかなりの変わっている悪魔なのは本当のようだ。

 そして何故ギルドの人間だと分かったのか。


「まずは知恵試しだ。四問正解したら一つ目クリアだ」


 悪魔は歩きまるで机のような石の上に糸を三本並べる。


「この中でアートスワイダーの糸を当ててみろ」


 リィドは迷わず一つを選ぶ。その糸は色が混じっていた。


「正解じゃ。うむ、ノータイムとはやるな。なるほどなるほど、意外とそっち系なのか」


 悪魔は一枚の紙を取り出して置く。


「?」


 何やら文字が書いてあるが、リィドは解読できなかった。


「答えを示せ」


 悪魔はそういうと口を閉ざした。


「これは古語じゃないか?すまない。私に分かるのはそれくらいだ」


 古語。古語は主に二つの意味を指す。一つは使われなくなった、使うものがいなくなった言語。歴史の中で絶え言葉だけ残ったもの。

 もう一つは魔術に関連するもの。魔術は時代の流れと共に発展してきた。一部の魔術式は開発された当時の言語を用いられる場合もある。なので、魔術を詳しく学ぶ者は古語も学ぶ必要がある。なので、後者ならばまだ解読可能の確率はあるが、リィドもエリルもだめだ。


「先輩、その紙燃やせしてくださいっす」

「燃やせばいいのか?」

「はいっす」


 リィドはセツナを信じ紙を燃やす。


「くくく、正解」

「なんて書いてあったんだ?」

「端的に言うと紙を燃やせですね」

「おぬしら愉快だな。それなりにバランスが良いか……さて、次はこれだ」


 草の葉を三つ置く。


「この中で一つだけ薬草がある。当ててみろ」

「先輩分かります?うちはさっぱりっす」

「……全然わからん」


 多少野草の知識があるリィドも知らない種類だった。


「どれも草の匂い」


 リィド、セツナ、フェイシス共に敗北宣言。


「……エリル?」


 エリルは草をちぎる。断面から白い樹液がかすかに分泌される。


「ふん」


 エリルはそれを繰り返す。


「ぴかぴか」


 草の一つの樹液がきらきらと光だした。


「魔力で反応してるっぽいっすね」


「正解だ。それは炎症などに効能のあるヘルーニャ草という。効能自体は貴重でもなんでもないが、妖精の棲家の近くにしか生えないことから、別名妖精草と呼ばれる貴重な薬草として扱われておる」

「よくエリル分かったな」

「まぁな。少しは役に立ててほっとしている」


 悪魔は懐から四つの丸い鉱石を取り出す。


「最終問題、この中でセンリードから採れた鉱石を当ててみろ」


 センリードは全身が外骨格に覆われ。触手のような脚が二十から三十程度生えている魔獣である。

 洞窟や鉱山の土中に生息し主に岩や鉱物を食べる。体内で蓄積されそれがいつしか球体状になり、とてつもない強度になる。その球体は高値で取引される。


「……」


 リィドは思考する。


「センリードの鉱石は貴重だと聞いたが?」


 エリルは知っているがセンリードを討伐したことはない。生息地域や食性の都合人間を襲うことがほぼないためだ。


「先輩分かります?」

「特徴としてはかなり硬くなるくらいしか知らないぞ……」


 リィドもエリルとたいして変わらない。討伐した経験はあるが、採れるような個体は数十年と生きているものなので、遭遇したことはない。


「当然ながら、どれも硬いっすよ?」


 当然だ。どれも鉱石なのだから。


「これが最後だ、クリアしたいところだな。セツナは何か判別方法知らないだろうか?」

「うちも知らないっすねー。高値で取引されるってことくらいっすね」

「……」


 フェイシスはじーっと鉱石を見つめる。


「こりゃ運頼みっすかね?」

「フェイシス何か分かるのか?」


 凝視するフェイシスにリィドは気づいた。


「すごい硬いんだよね?」

「そうだな。それくらいしか情報はないな」

「ちょっとかして」


 フェイシスは鉱石を地面に置くと、拳を一振り。


「フェイシス!」


 フェイシスの拳により、鉱石が砕け散る。


「ん」


 二つは砕け細かくバラバラになったが、一つは二つに割れただけだった。


「これでしょ?」

「くはははは、知恵試しと言うたのに最後は力で解決とはな」

「だめ?」

「いんや、別に禁止してもおらんし、硬いという知識があってこそだ。クリアを認めよう」

「フェイシス、助かった」

「さすがっすね。素手で鉱石破壊は思いつかなかたっすね」

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