第17話「蓼食う虫も好き好き」
翌日、都に向かった。転移門は騎士団によって厳重に警護されている。
事前に転移門の使用申請をしていたので受付に行くと待つことなく転移門の所までやってきた。
「門がたくさん」
フェイシスは辺りを見渡す。
一定間隔で魔術式が描かれた大きな門が並んでる。誘導され、目的の門でリィド達は移動した。
さっそくラズベルに向かう。小一時間程度の距離とのことなので徒歩で行くことにした。
「フェイシス体調悪くなってないか?」
リィドは過去移動魔術による移動を経験したことがある。人によっては気分が悪くなったりすることがあるらしい。
セツナとエリルも同様に経験したことがあるそうだ。なので、初めてはフェイシスだけだ。
「大丈夫。びゅーんって気持ちよかった」
「それはすごいな」
エリルが朗らかに笑う。
「私は吐いたぞ。慣れたら何ともなくなったのだがな」
二時間ほどかけてラズベルに到着した。
指定された住所まで行くと農場のような場所に辿り着いた。
「広いね」
「うむ、確かに研究所というより農場のようだな」
「あー地方の研究所あるあるっすね。というか、魔獣の研究のために育てたりもするので土地広かったりするっすよー」
「確かにな。熱心な研究者は生態を知るためとかで、魔獣と同じ暮らししたりするらしいしな」
「なるほど、勉強になった」
「あら、いらっしゃい。もしかして、ティターニアの?」
「は、はい。初めましてリィドと申します。美しいお姉さんが?」
「ふふ、ありがとう。私はレイロ。残念ながら私じゃないの。最初は私がやるつもりだったのだけれど、ちょっと専門外の箇所が多くてね」
「なるほど」
実に美人な女性だったのでリィドのテンションが思わず上がる。
「どうぞ、お入りください」
「……」
「すごいね。わけわかんないものがたくさんある」
リィド達は中に入ると一人の中年男性が待っていた。
「……」
「失礼します」
「……きたか。ほらよ」
雑に箱を渡された。
リィドが何かを言う前に男性は先に進める。
「結論からいうとそれはダニーグリーの心臓ではない。悪魔の物だ」
「ということはあれは悪魔だった?」
何のために悪魔が魔獣のフリをしていのか。
「否。ダニーグリーだ。期待して損をした」
返答に理解が一切追いつかない。
「……何者か、もしくは何かしらの現象がダニーグリーの心臓を悪魔化させた可能性が一番高い」
「悪魔化?」
エリルは首をかしげる。初めて聞く単語だ。
「悪魔化……誰かが実験したということですか?」
リィドの問いにセツナが割って入る。
「どういうことっすか?そもそも魔獣のダニーグリーの心臓程度が耐えられるものじゃないでしょ」
「一つ目はその可能性が一番高い。そっちのは前者は知らん。後者はそうだ。俺は魔獣専門だからこっちは断言できる」
「もう、その言い方じゃ分からないでしょ。アナタの言い方は同じ専門家でも伝わりにくいんだから」
レイロが間に入る。
「そっちのお二人さんは何か知っているのかもだけどね。一応改めて説明すると、誰かがダニーグリーの心臓に魔術を行使して、結果的に心臓は悪魔の性質に近い物になった。彼は魔獣以外興味がない人でね、珍しいダニーグリーの心臓に期待したけど、結果的には魔術での可能性が高いことが分かった途端興味がなくなってしまったのよ」
「ところで、お前は悪魔化について知ってるんじゃないのか?悪魔化は俺が便宜的につけた名前だ。原因が実験と推察するのは何も知らなければ突拍子もない」
「……いえ、初耳です。ただ、この間とある魔術師……犯罪者がが子供たち攫って良からぬ研究をしていた現場に遭遇して、つい実験と言葉が出ただけです」
「……」
フェイシスはリィドを見つめる。
「どうでもいい。依頼だが、ここから北東に行ったヘルべべネという山脈地帯がある。そこは自然洞窟と人工洞窟が混在しているんだが、そこの洞窟に数か月前から悪魔が棲み付いたらしくてな」
「悪魔の討伐ですか?」
よりによって悪魔であった。
「ちょっと、依頼内容伝えてなかったの?」
「ギルドメンバーだろ?」
「そうだけど、もー絶対怒ってるわよティターニア」
「別に討伐するかは勝手にしろ。俺からの要望はあそこから悪魔が消えて研究を再開できるようになればそれでいい」
「ギルドや警備隊は何をしているのですか?」
エリルの疑問も尤もである。害なす悪魔がいるのなら国が動きそうなものだが。
それにまともな国なら名前は異なれど、治安維持のための武力組織があるはずだ。
「知るか」
「もう、言い方。えっとごめんなさいね。その悪魔は別に暴れたり人に害を加えたりしてないの」
「?」
「洞窟を拠点にしていて、、近くを通る人間にゲームをしないか?と持ち掛けるそうよ。で、しないと返答すればそのまま終わり。すると応えた人は負けたらお代として、何かしらを支払うそうよ。でも、今のところ装飾具や道具や稀に金銭で済んでるの」
それはまたかなり変わった悪魔だ。
「でも、最初から討伐目的で命を狙いに行った相手は容赦なくって感じ。国も最初警備隊が討伐に行き全滅。ギルドの方にも依頼が出てしばらく報酬目当てでメンバーが行ったけどこれも全滅。こちらから手を出さなければ無害なので放置されてるのよ」
「なるほど。では、追い出す必要はないのでは?」
「確かにエリちゃんの言う通りっすね。気まぐれ悪魔に関わらなければ済むなら無害っすからね」
「バカか。害しかないだろ。その悪魔におびえて魔獣の生態に大きく影響が出てるんだぞ」
「なるほど。確かにそれはそうですね。分かりました。……仮に失敗した場合は?」
「失敗しないようにしろ」
「個人的な依頼だから失敗しても特にないもないわ」
聖女だとリィドは拝む。
「いい?もし、彼らに万が一のことがあったらティターニアたぶん、怒るレベルじゃ済まないわよ?」
「……ちっ」
「じゃ、できる限りでいいから宜しくお願いね」
「分かりました」
即答だった。
早速問題の山脈地帯に向かう。
「あのおっさん実に感じ悪かったっすね」
「研究一筋なのだろうきっと」
「エリちゃんああいうのがタイプっすか?」
「いいや」
「あの二人すごい仲よし」
「はい?」
フェイシスの一言にリィドは過剰に反応した。
「それは確かに。研究者にも解明できない謎っすねきっと」
「?」
エリルは首を傾げる。
「えっとセツナさん?どういうことですかね?」
あの美貌に良い性格。特定の相手がいてもなんら不思議ではない。
しかし、何を基準にあの二人がそういう関係だと推察したのか。
リィドは言葉にできない敗北感に襲われていた。
「フェイちゃんはどして?」
「なんとなくー。レイロさんイガイガしてなかったし」
フェイシスの直感はけっこ鋭い。
「うちは単純な推察っすね。よく考えてください?」
セツナはもったいぶる。
「研究所っていっても個人宅じゃないっすか。二人で一緒に住むといことは……そういう関係ってことっすよね?」
「た、確かに。そう言われればたしかに、レイロ殿の苦言も口調は柔らかいものだったな」
エリルは頬を赤らめる。
「待て、俺たちだって一緒に暮らしてるけどそういうことはないだろ」
「つまり私たちも……」
エリルは己の世界に入りこんでしまったようだ。
「ま、白状するとあの二人が夫婦なのはティタ姉さんから聞いてるっす」
「そ、そうか……」
真実は時に人を傷つける。
よりによって夫婦とは。
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