第13話「一期一会」

 翌日リィド達は警備局へ向かうと丁重な対応で局長室に通された。


「初めまして、シェラザード王国騎士団団長アンザスと申します」

「リィドです」


 騎士団団長は騎士団のトップの人物だ。


「急ですみませんが、本題に入らせてもらいます」


 エリルの調査依頼中に襲撃した盗賊と警備局のこと、副局長が魔獣を出し、逃亡したことなど改めて説明した。


「下部組織とはいえ、国民の皆様には多大な迷惑をかけました。騎士団長として謝罪致します」


 アンザスは頭を下げた。併せえてエリルも頭を下げる。


「それと、これから証拠を集め、裁判になるのですが彼らの全容を掴む必要があり、刑が言い渡されるのはしばらく時間がかかりそうで、そこは容赦願います」

「騎士団長、発言よろしいでしょうか?」

「エリル警備局局長、発言を許可しましょう」

「この事件の発端の一つに私の存在があります。私は責任を取り警備局局長の職、及び騎士団員の任を辞したいと思います」

「……本気かい?」

「はい」

「はっきり言おう、今回の件に関して君に責任はない。就任してすぐに局員の不正行為を暴き、暴動を速やかに鎮圧した。称賛すべきことだ」

「……ありがとうございます。では、どうして若輩者の私を局長に任命なさったのですか?」

「不満だったかい?」

「いえ、むしろ光栄に思いました」

「ましたか……」

「私が騎士に任命されたのは、騎士団長の指導のおかげだと思っています。指導のおかげで実績を残すことができた。しかし、局長という肩書には少々物足りないと思います」

「……君への局長任命は何かの意図があると?」

「意図かははかりかねますが、母が影響しているのではないでしょうか?」

「そういうことか……」


 騎士団長は天井を仰ぐ。数秒考え言葉を紡ぐ。


「彼に妬みを言われたのか。いいかい、私は君の実力を、人柄を知っている。君が誰の子供であっても今回局長に任命しただろう」

「……ありがたきお言葉です」

「それでも辞めるというのかい?局長という役職はともかく騎士までもかい?」

「はい。私は、私が……原因で争いになることが……弱い私をお許しください……」


 意外だった。エリルは強く芯の通った人物だと思っていたからだ。


「……それは決して弱さではないよ。騎士団長としては受け入れ任を解くべきだろう、しかし、私個人としては君に騎士でいてもらいたい」

「……」


 エリルは真っ直ぐ騎士団長を見つめる。


「……分かった。非常に残念だが君の退任を受理しよう」

「本当に申し訳ありません」

「いいさ。しかし、これからどうやって生きていくんだい?」

「いえ、まだそれは……」

「だったら、俺のチーム入りませんか?」


 怒涛の展開で見守ることしかできなかったがリィドが勧誘する。


「へ?」

「えりちゃん仲間?」

「まじっすか」

「おやおや、スカウトとはお盛んですね」

「あ、もちろんエリルが良ければですけど」

「何故私にスカウトを?魔獣駆除の依頼がメインだと聞いているが、近、中、遠距離とバランスが良く素晴らしいチームだと思う。私は不要なのでは?」


 エリルの疑問は最もだがリィドはそれなりの理由がある。


「まずは騎士団員としての基礎的な実力。そして、対人能力の高さ。これは俺たちはあまり得意ではないですからね。魔獣がメインとはいえ、違う種類のを受ける時もあるし、今回みたいな不測の事態もあるかもしれない」


 ここは勝負所だとリィドは畳みかける。


「そして、あのダニーグリーに風穴を開けた瞬間最大火力。同じ近接でもフェイシスは基本素手で、一撃一撃の基本の威力は高いけど、ああいった一撃はないから決め手に欠ける場合は不利です」

「なるほど」

「なにより、一緒に任務したり共闘したりしてエリルの人柄が良いなって思いました」

「な、……」

「ひゅー」

「えりちゃん宜しくね」


 フェイシスは勝手に加入したかのように挨拶をする。


「……そうだな、宜しくお願いする」

「本当ですか?」


 ダメ元で誘ってみたが、まさかの承諾に思わず驚く。


「でも一つだけ条件がある」

「なんですか?」

「同じチームとして、そして私は一番の後輩になるわけだ。……その」

「その?」

「フェイシスやセツナと同じように接して欲しい。年上だから、元騎士だからと固くなるのは分かるが、同じように接してくれ。それが条件だ」

「そんなのお安い御用です……御用だ」

「はぁ、実に複雑ですね。退任の寂しさと希望に満ちた君の姿を見ることができる喜びとで。何にせよ新しい旅立ち、君の道に幸あらんことを」

「ありがとうございます。こちらをお返しします」


 エリルは槍を差し出す。


「これは餞別として差し上げます」

「しかし、騎士を退任する身ですよ?」

「ええ。君にこの槍を渡した時から決めていました。いえ、君が騎士になりたいと言った時どんな道を選ぼうとも、君に最もふさわしいと思える槍を選んだつもりです」

「なぜそこまで私に?」

「……退任する身ならば話しても良いでしょう。隠してた訳ではないですが、私は君の母に感謝しています」

「母を直接ご存じだったのですね」

「ええ。ご存じどころではありません。今日の私が在るのはあの人のおかげです。騎士になりたいと思ったのもあの人と出会ったから。そして、この剣を授けてくれたも君の母なのです」

「母が……騎士団長と……」

「だから、その槍は騎士団長ではなく私個人としての贈り物として渡したのです。受け取ってくれますか?」

「……ありがとうございます!」


 今まで過ごした思いがエリルの頬を伝う。


「今でありがとうございました!この御恩は一生忘れません」

「……リィド殿この度の逮捕、証言のご協力騎士団団長とし感謝します」


 アンザスはリィドの耳元で他の皆には聞こえないように言う。


「あの子を宜しく頼みました。もし、あの子を不幸にしたら……」

「わ、分かりました」


 圧に思わず死を覚悟する。どう考えても本気だ。


「では、これにて解散でよろしいでしょうか?」


 リィド達は家に戻ることにした。


「そういえば、エリル荷物とかはどうする?」

「まず住居だな。今は警備局の寮だから退去しなくてはいけない」

「あれ?うちこないの?」

「またの美味しい展開っすか」

「な、それはリィドの自宅ということか?」

「まぁ、後二部屋空いてるか問題はないけど」

「ど、同棲だと?フェイシスは事情が事情だから仕方ないとして、セツナはどうしてるんだ?」

「もち先輩の囲われっすよ」

「な、一つ屋根の下だと!」

「セツナは勝手に住むとか言い出しただけで、別に強制じゃないぞ」

「てか騎士団の寮とかって女性だけとかあったんすか?」

「確かに、寮と大差ないか。リィド達がよければだが、その……住まわせてもらわないだろうか?」


 居住空間は区切りはあったが共用スペースは男女関係なかった。


「もちろん」


 この際一人も二人も変わらない。


「でもめっちゃルールあるっすよ?」

「もちろん従おう」

「おい、誤解招く発言はするな」


 リィドはセツナにした説明をエリルにした。

 エリルは目を丸く、そして笑いだす。


「もちろん遵守しよう」


 警備局を出て、家に戻る。エリルはセツナの横、フェイシスの向かい側の部屋に住むことが決まった。

 エリルは私物は鞄一つで収まる量だとのことで寮に取りに戻った。

 小さいながら歓迎会をすることにした。

 リィドはギルドに報告、フェイシスとセツナは買い出しに行くことにした。


「フェイシス、おやつは三つまでだからな」

「分かった」

「かーフェイちゃんかわいいっすね」

「頼んだからな」

「了解っす。てかフェイちゃん人気っすから大丈夫っすよ」

「確かにな」


 フェイシスは愛されキャラだ。よくおまけしてもらったりしている。

 リィドはギルドで手続きを取る。


「あ、ティタ姉お疲れ様です」

「お疲れ様です。すみません、先ほどまで休憩を戴いてました。残りは私が対応しますね」

「お願いします」

「それにしても、本気?」

「まぁ、冗談では誘わないですよ」


 騎士団長の言葉が頭をよぎる。


「あっという間に大所帯ね」

「フェイシスと出会ってから怒涛の日々です」

「きっと幸福の女神なんじゃない?」

「……」

「でも良かった」

「え?」

「実はね、先生が前に悩んでたの」


 ティタ姉はリィドの知らない先生の一面を語りだした。


「先生はリィドと暮らして、二つだけ後悔していたことがあったそうよ」


 一つは自分の死期が近いことを知っていながら、リィドを育てそれを隠したこと。

 二つ目は一人でも生きる術は教えたが、他人と助け合って生きていくことを教えれなかったこと。


「……やっぱり肝心なとこで抜けてる先生ですよ」


 リィドは先生に恨みなど一欠片もない。あるのはただただ感謝のみだ。後悔などする必要がないのに。


「肝心なとこ以外もあるけどね」

「はい、ティタ姉には申し訳ないですが、遠出だったりもっと強い魔獣の依頼あったら紹介してください」

「もちろんです。戦力でいったらたぶんこの街一番のチームですからね」

「ありがとうございます」


 家に帰る途中、エリルの姿を見かけた。


「どうしたんだ?」

「ひゃ!な、なんだリィドか」

「家はそっちじゃないぞ?」

「そ、そうか」

「もしかしてエリルって方向音痴?」

「な、まさかそ、そんな訳ないじゃないか」

「ふーん」


 思い返すと最初に町中であった時も迷っていた。


「ほら、帰ろう」

「……」

「どうした?」

「いや、いいものだなって」

「そうか」


 若くして騎士になったのだ。過酷な人生なのは容易に想像がつく。

 家に戻るとエリルは驚愕した。


「逃げるように辞任した私をこうも温かく迎えてくれるとはリィド、フェイシス、セツナー」


 豪快に涙を流しながらみんなを抱きしめる。


「は、は、くちゅん」


 爽やかな風が吹き抜けた。


「な、フェイシス!こんな時にエリルすまない」

「ごめんなさい」

「お約束っすね」

「な、な、な、な!」

「え、エリル?」


 とっさに顔そむけながら着衣していたリィドはエリルが倒れこむ音が聞こえたので一瞬遠目で確認する。

 フェイシスが受け止めていた。


「……気絶してるだけみたいっす」

「服を着させてやってくれ」

「分かった」

「覗いちゃだめっすよ?」

「だから頼んでるんだろ」

「まぁ、覗くも裸を見てるので手遅れな気はするっすけど」

「な、なるべく見ないようにした」


 エリルの着衣が完了し、リィドは料理の準備を始めた。しばらくして、エリルは目を覚ました。

 顔の色がアートスワイダーのようにころころと変わっていたが、料理を見て事件の衝撃が薄まったのか元に戻った。

 こうして新しい仲間、かつ同居人が増えた。

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