第12話「繋がる糸」

「こっちのローベイドを名乗る男ですが、この人警備局の人間っすね。この間襲撃の時のメンバーの一人っす」


 セツナは顔を覚えていた。職業柄間違えることはそうそうないだろうから信頼できる。


 ランディアはギルドメンバーだ。つまり、ギルドと警備局は繋がっている。


「残念ながら実行役の下っ端なんでそこまで情報持ってなかったんですが、どうやら盗賊と警備局とギルドで連携して、情報を売買してたぽいっす」


 実に分かりやすい癒着。


「俺たちを狙った理由は?」

「それは分らないっす。ギルドメンバーなら誰でも良かったんじゃないっすかね?とりあえず、ギルドメンバーを利用して騒ぎを作ろうとしたっぽいっすね」


 警備局と盗賊が繋がる理由は簡単に想像できる。

 警備局側の人間に賄賂でも渡し逮捕を免れる。

 ギルドも同じだろう。手配された人間を見逃し金を得る。

 しかし、ギルドと警備局が手を組む理由が謎だ。そもそも、表向きはお互い協力関係なのだ。

 街に戻り警備局に辿りつくと、何やら物々しい雰囲気だった。

 負傷した警備局員がどこかに運ばれていく。


「何があったんですか?」

「新人の警備局長がご乱心なんだ。副局長が鎮圧の指揮をとっているんだが、さすがは騎士でまだまだ時間かかりそうな感じだ。用件は後で聞くから、離れていてくれ」


 警備局員が教えてくれた。

 一体何が起きているのか。


「どうするの?エリル逮捕されちゃう?」

「なんか派閥闘争っぽくないっすかね?どうします?」


 エリルは確かに魅力的な女性だが、加勢する義理はない。


「……助ける。というか、こいつらと副局長が繋がってるだろ」


 エリルは襲撃の実情を知らなかった。ならば対立している副局長が黒幕だろう。


「なるほど。副局長が勝つと、癒着知らないまっとうなギルドメンバーには不利益を被る可能性が出る。それに、襲ってきたのはあっちっすからね」


 こちらに危害を加えてきて、撃退したが情報を掴んだ。排除の動きを取る未来が容易に見える。

 エリルは警備局の中央広場という場所にいることを知り、向かう。

 現場は壮絶だった。エリル対警備局の構図だった。


「エリル!大丈夫か?」

「リィド、何故貴殿たちがここに?」

「なんだ君は、我々は重要犯罪人の対応中だ。邪魔するなら逮捕するぞ」


 後方で指揮を取っている人物が副局長だろう。


「何があったんだ?」

「あちらの言い分では私が盗賊と結託して何か良からぬことを企てていると。言葉でならともかく、いきなり実力行使をしてきたのでな」


 全ては繋がった。


「俺はギルドの所属のリィドだ。さきほど、警備局の人間と盗賊に襲われた」


 リィドはその場の警備局員全員に伝わるように大きな声で大げさに語りかける。

 リィドは拘束した人物を見せつける。


「拘束しているのが襲撃してきた犯人達だ。いきなり襲ってきた。問い詰めたら、あの副局長に指示されたと白状した。実行役で理由はまでは知らされてないみたいで分かるのはここまでだが」

「な、何を」


 警備局員の中でざわざわと疑念が浸食を始める。

 反対にセツナは目を丸くし、その後笑うのを我慢する。


「ど、どういうことですか?副局長、話が違いますが」

「嘘に決まってるだろう」


 この様子から、全員が副局長に加担しているわけではなさそうだ。


「もう一度言う、俺はギルドの所属だ。警備局なんて関わりたくないが、警備局の人間と盗賊が結託して襲いかかってきた。しかも、こいつは盗賊に商人や旅人への護衛等の情報を売ってたそうだ」


 セツナは深呼吸して呼吸を整える。笑いだしたらだいなしだ。

 リィドはわざと警備局と仲が良くないギルドメンバーだと強く主張した。そして、決定的なのが護衛の情報が漏れているという発言。

 警備局員も疑念を抱いていた。

 その犯人が局長だという副局長。部外者で情報漏洩の件を知らないリィドは副局長が犯人だという。

 全てが嘘でできた話より、一つだけでも真実が入っている嘘のほうが信憑性が高くなる。

 リィドが嘘をつく意味がないと警備局の人間は判断する。もちろんエリルから聞き知っているが、そのことを警備局員はそれを知らない。リィドが護衛の件を犯人である盗賊たちから得た情報だと警備局員達は判断した。

 リィドの思惑通り、警備局員の分断に成功した。


「くそ。まぁいい、お前たちの口を塞げばどうとでもなる」


 残るは副局長と手駒のみ。


「その話本当か?」

「ああ。さっき俺も死にかけた」

「……すまない。そして感謝する」


 エリルは頭を下げる。


「ファイダ!現時刻を持って貴殿を逮捕する。貴殿は言葉ではなく、力を選んだ。ならば私も力で応える!」

「逮捕だ?状況も分らないとは愚かな」


 リィドは絶対エリルを怒らせちゃだめだと心に決める。さすがの気迫だ。

 複数人の警備局員がエリルに襲いかかったが、槍に阻まれ、傷一つつけることが叶わず地に伏した。

 これが騎士団員の実力か。


「部下はもういない。騙していた局員は誰も貴殿を助けないぞ。もう終わりだ」

「……」

「貴殿はいったいどういう理由で悪事に手を染めた?貴殿は長年警備局に尽力したというのに」

「どの口がいうか!」


 服局長は激高する。


「そうだ。俺はこの街に配属されて二十七年だ。その間ずっと懸命に働いてきた。そして、副局長になった。前局長は俺に次はお前が局長だと言ってくれていた。実際局長が引退してどうだ?騎士団から出向してきた小娘がいきなり局長だ?ふざけるな。局長の理由は肩書で箔をつけ騎士団に戻って出世のためだろ?肩書がなければ限界があるからな」


 実情はともかく確かにエリルは若い。若いゆえに経験は足りない。


「どうせ、体で上官へ取り入って手に入れた地位だろ!それに貴様が騎士団に入れたのだってコネなんだろ?母親が騎士団員だって聞いたぞ。実力も経験もないやつが局長だ?冗談ではない」

「実に明快な動機だな。後は司法の場で話すがいい」

「調子にのるな!」

「嫌な感じ」

「先輩、やべーっすあれ」


 副局長は懐からなにか取り出し辺り一面にばらまき、走りだす。

 魔術式が発動し、辺り一面多種多様な魔獣が大量に出現した。


「な」

「いっぱい出てきた」

「ただ働きの極みっすよ?」


 しかし、素直に餌になるつもりもない。


「セツナとフェイシスは飛行してるやつを頼む」


 矢には限りがある。この状況なら二人で協力した方が確率は高い。


「分かった」

「了解っす。先輩は?」

「俺はあの大物だ」


 リィドはダニーグリーを指さす。

 以前倒したものより十倍以上の大きさだ。


「市民の被害を及ばぬよう、絶対魔獣をここから出すな!」


 エリルの指示で警備局員も魔獣と戦闘を始めた。

 さすがにこの状況で傍観はしていられない。


「手伝います」

「助かる。私は初めて見る大きさだがどうだ?」

「俺も初めてです。俺は遠距離なんで、後ろから矢で狙います」

「分かった」


 あの大きさでもエリルの腕ならば行けると判断し協力を申し出た。

 ダニーグリーが腕を振るうだけで風を感じる。

 当たればもちろん一撃で死ぬだろう。

 しかし、エリルはその重たい攻撃を槍で弾き返す。

 リィドはダニーグリーの顔を目掛けて矢を射る。

 矢が刺さっても皮膚で止まっているようだ。大したダメージにはならない。

 エリルの槍での攻撃もかすり傷止まりだ。筋肉の発達が尋常じゃないのかもしれない。

 エリルの槍でダニーグリーを受け止め、攻撃も繰り返す。しかし、どれもが変わらず大きなダメージにはならない。


「リィド、無茶なお願いだが一ついいか?」

「なんですか?」

「一分だけでいい時間を稼いでくれないか?」

「……大技ですか?」

「まぁ、そんなところだ。当てれば確実に倒せると思う。信じてくれるか?」

「……分かりました」


 あの大穴だろう。

 リィドは前に出た。

 土を掴み、塊を投げつける。塊は空中で粉々になる。

 土が目に入り、ダニーグリーは苦痛の声をあげる。いくら筋力が発達しても眼球は鍛えようがない。

 ダニーグリーは一瞬リィドの姿を見失う。

 リィドはすかさずダニーグリーの背後に回り込む。


「食らえ」


 火矢を射る。ダニーグリー視界が回復し、リィドを襲う。

 二発目の土の塊を投げる。

 しかし、今度は腕で防がれた。すかさず足と目掛けて矢を連続で射る。

 ダニーグリーは気にもせずリィドに迫り腕を振るう。

 ぎりぎりのところで回避。


「やっぱりか」


 リィドは罠を発動させた。地面からワイヤーが足を絡めとる。が、ワイヤーが引き千切られた。


「これでも食らえ」


 二重罠を発動させた。ワイヤーが引っ張られると同時に魔術式により、土が隆起しダニーグリーに突き刺さる。

 土の方が負け針はパラパラと砕け散るが足元の土が変動したため、バランスを崩す。

 驚異の身体能力により、転んだりはしないが一瞬の隙ができた。


「待たせた!よくやってくれた!」


 エリルの槍が風を切りながらとてもつもない速度で放たれダニーグリーの胸部を貫いた。

 衝突の勢いでダニーグリーの巨体は地面に倒れる。


「あれを一撃か……」


 予想通りであるが、実際見るととてつもな威力だ。

 ひとまず一番大きい魔獣を倒すことができた。

 エリルは槍を引き抜き、絶命を確認する。


「リィド、こっち片付いたよ」

「お待たせしまたっす。もういらないかもっすけど」


 フェイシスとセツナが加勢にやってきた。


「ここは俺たちに任せて消えた副局長を追ってください」

「しかし、いいのか?」

「魔獣は本業なんで」


 残りの小物の魔獣は三人いればどうにでもなる。それに警備局員もいるのだ何の問題もない。


「リィドあれ!」


 フェイシスが臨戦態勢に入る。


「な……こいつもか」


 ダニーグリーは死んでいるはずだが、再び起き上がった。


「な、体を貫いたのに何故だ」


 エリルの反応は当然のものだ。

 確かに絶命を確認したはずなのに。


「行ってください!逃げられちゃいますよ」

「この得体の知れないのを置いてか?」

「一度俺たちはこれを倒しています。信じてください」

「……分かった。すまない」


 エリルは逃げた副局長を追い離脱した。


「先輩この化け物どう倒すんすか?」

「俺とフェイシスで時間を稼ぐ。だから、セツナの魔術を叩きこんでくれないか?」

「いいんすか?」

「ああ。あの大きさだそれに、ここは野外だからな。範囲大きくても問題ないだろ」

「分かったす」


 リィドはエリルの槍が穿った穴を狙い矢を射る。

 フェイスシはわざと接近し、攻撃を誘う。

 先ほどまでと違い無理に動いている感じのようで、攻撃に速さがない。

 リィドは改めて己の変化を実感していた。

 最初はフェイシスに当てないようにと内心緊張していた。

 今も、注意して射るが緊張などはなく自然体で矢を放っている。

 後ろに回り込み、魔術式の準備ができたセツナは合図を送る。


「フェイシス、下がってくれ」


 フェイシスが後退すると、リィドは効果があるかは不明だが、目くらましのため矢を複数放つ。


「食らうっす!」


 強大な火炎魔術がダニーグリーを襲う。

 その巨体を完全に包み込んだ。

 爆音、そして爆風。砂煙で当たりが一瞬見えなくなった。


「……」


 視界が晴れ、ダニーグリーの様子を確認する。


「まだ立っているのか」


 体はボロボロになっているがゆっくり、ゆっくりと前へ進む。


「くちゅん」


 爽やかな風が吹き抜けた。


「ですよねー」


 風の勢いでダニーグリーを燃えている炎が消え、巨体が倒れ込む。いそいそとリィドは服を着る。


「警備局の敷地内で全裸になるなんて恐らくこれまでも、これからも先輩だけじゃないっすかね?」


 セツナは被害を受けてなかったようだ。


「これは事故だろ」

「ごめんね」


 フェイシスも服を着終わりやってきた。


「離れてたのが幸いだったっす。どうします?他の人の所加勢します?」

「いや、もう終わりそうだし、協力はここまででいいだろう」


 残り二体ほどでどちらの魔獣も絶命寸前のようだ。

 リィドはダニーグリーの死骸をつぶさに観察する。

 焦げているが、普通の死体と変わらないように見える。


「リィド?」


 リィドの突然の凶行にフェイシスは首をかしげる。

 剣を出し、穴の開いた胸部から心臓を抜き出した。


「先輩、その化け物知ってるようだっすけど何すか?」

「ひとまずここにいても意味ないし、ギルドに戻ろう。説明は歩きながらなでいいか?」


 警備局に直行したので、依頼を装った罠について報告がまだだからだ。

 リィドは過去同様に死骸が動き出した時のことを説明した。


「なるほどっすね。まぁ、副局長捕まえたら分かるんじゃないっすか?」

「かもな」


 ギルドは大騒ぎだった。警備局の混乱の知らせも多少は届いていたようだ。


「本当に申し訳ありませんでした」 

「ティタ姉が謝ることじゃないですよ」

「いえ。ギルド内に盗賊との内通者がいたうえに、他のギルドメンバーの抹殺計画。依頼内容を精査してれば発覚したかもしれないので」


 ティタ姉は頭を下げる。


「あいつらはどうなるんですか?」

「本来、国の法律違反での逮捕なので国の司法で裁かれますが今回の主犯は警備局の人間なので、共犯として騎士裁判にもかけられるかと」


 通常裁判は市民が犯した罪を国の司法機関が法律に基づき処理をする。

 騎士団には独自の軍規が定められており、騎士団関係者が法律を犯した場合、軍規に基づき騎士裁判が行われる。警備局は騎士団の下部組織だ。同様に裁かれるだろう。

 例えば、一般市民が酒を飲んで隣人に怪我を負わせた。この場合、罰金刑という判決が下る。

 騎士団の軍規では酒を飲んで周りに危害を加えた場合は、治療費などの支払いはもちろん、程度により禁固や降格処分もある。

 一般人の場合は罰金刑のみだが、騎士団員の場合は罰金刑に加えて、禁固、降格、奉仕作業の処分などの刑が増える。

 あくまでこれは軽微な犯罪の場合だ。

 国の裁判と騎士裁判で罪状が大きく異なる場合もある。それは背信行為や謀反の場合だ。

 軍規において、それらの行為は基本的に死刑である。もちろん、事情や背景によっては減刑されることはある。

 国の裁判で懲役刑、騎士裁判で死刑の判決が出た場合、より重い刑が優先される。

 ギルドメンバーの場合も同じだ。基本的には国の裁判を受ける。

 ギルドにももちろん独自の規約があり、犯せばその国の法律に則った罰を与える。


「ギルドとしては、お偉いさん達の判断待ちです。前例でいえばギルドの永久追放と今後ギルドと敵対した場合の即手配措置ですかね」


 あくまでこれはギルドの処遇であり、国の司法では当然重い処罰が下るだろう。


「敗残兵の末路は相場が決まってるっすからね」

「そうだな。あ、そうだティタ姉お願いがあるんですが」

「なんでしょうか?」


 リィドは心臓の件を伝えた。


「……わかりました。他の国になりますが、ギルドで魔獣研究しているのでそちらの機関に依頼してみます」

「お願いします」

「ティータニアさんちょといいですか?」


 別の受付がティタ姉に元へ急いでやってきて、何やら耳元でささやく。


「入れても大丈夫でしょう。大事になったりしないかと」


 急いでどこかにかけていく。


「お客様のようですね」


 すぐに答えたが分かった。エリルがやってきたのだ。ギルド内に警備局局長の来訪。

 ざわざわと憶測の声が広がる。


「リィド、フェイシス、セツナ。協力を心の底から感謝する。そして、騒動に巻き込んでしまい本当に申し訳ない」


 エリルは頭を深々と下げる。


「大丈夫ですって。副局長は捕まえたんですか?」

「おかげさまでな。気絶させて牢に入れてある」


 無事に捕まえたようだ。時間的に副局長を捕まえまっすぐこちら来たのだろう。


「明日、騎士団長がお見えになるそうだ。すまないが、一緒に来てくれないか?」

「どうして俺たちが?」

「重要参考人として話をしてもらいたい」

「先輩ちょっといいっすか」


 セツナに連られリィド声が聞かれないところまで移動する。


「どうすんすか?先輩の大見え切ったのあれ八割嘘じゃないすか」

「ああでもしないと、警備局員全員と戦う羽目になっただろ」


 副局長との繋がりを自白したち証言はリィドのはったりである。

 状況的に確実に副局長が関与していると判断した。結果も正しかった。


「まぁ結果的に大正解でしたけどねー」

「いいさ、ここは正直に言うさ」


 犯人がいるのだ。詳細は当然そちらに聞くだろう。


「エリル、一つだけいいですか?」

「なんだ?」

「すみませんでした」


 リィドは状況証拠から、あの場を解決するための方便であったと告白した。


「無駄な争いを回避できたのだから私は良かったと思う」


 ひとまず一時解散となった。


「お腹減ったー」

「そうだな。買って帰るか」

「お肉がいいー」

「好きなの選んでいいから」

「そうっすねー」

「セツナは値段を考えてください」

「先輩のけちー。てか支払い警備局宛にしても今日は許されるんじゃないっすか?」

「確かに多少の金は支払われるかもしれないが、却下。これ以上トラブルはごめんだ」


 ご飯を調達し、家に帰りすぐに眠りについた。

 嵐のような一日だった。

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