第11話「差し込む光」
ワイルドボンア討伐から数日後、ギルドに依頼を受けにいくと何やらギルド内が騒がしかった。
「あ、リィドちょうど良いとこに来た」
「な、なんでしょうか?」
ティタ姉がリィドをご指名のようで気分が高まる。
「すごい緊急の依頼なのですが受けてもらえますか?」
「内容はなんですか?」
「魔獣駆除と人命救助です」
それだけで察した。
「うちのギルドメンバーがダニーグリーの駆除依頼を受けたんだけど、負傷してしまいまして」
チームは二人組。一人が重症を負い、近くの洞窟に避難した。もう一人が何とか対処しようとしたが、負傷しこのままでは倒せないと判断し、帰還し救助を要請した。
「リィドか、確かに魔獣ばっかりのお前なら適任だな」
「えっと……お、おおう」
リィドは返答に困った。
「さすがのリィドだな。男の名前なんて一切覚えてない」
「そ、そんなことないぞ。えっと……」
「ランディアだ。連れはローベイド」
リィド達はランディアの案内され問題の森に向かった。
「リィド、すまない相棒はあの洞窟の中だ。来てくれ」
「分かった」
洞窟を発見した。
『がぉん!』
恐らくこれはダニーグリーの声だ。
「リィド行ってくれ。ここは三人でなんとかするから」
まっとうな提案だ。フェイシスは救助なんてしたことないので難しい。
セツナも相手は男性だ。かついで運ぶことは体格的に厳しい。ならばリィドが行くべきだろう。
「いいのか?」
「ああ。元は俺たちの不始末だ。足手まといかもしれんがけじめはつけたい」
「分かった、フェイシス、セツナ任せられるか?」
「大丈夫」
「問題ないっす」
フェイシスもダニーグリーとの戦闘経験がある。怪我人のランディアを頭数に入れなくても二人なら問題ないだろう。
二人に任せるとリィドは洞窟内に入っていった。
しばらく進むと人が壁に寄りかかっていた。
「だ、大丈夫か?助けにきたぞ」
「……ありがとう」
「掴まれ」
リィドが肩を貸す。
「え?」
肩を貸したはずだ。しかし、リィドは軽い衝撃を体に受け、一瞬で視線が暗闇に染まる。
そして、何故か重力を感じていた。
「うわ」
ようやくリィドは理解した。
自分が落下しているのだと。
「ぐっ!」
しばらくして地面に叩きつけられた。ぎりぎり体に強化魔術を使用したのでなんとか無事だった。
リィドは息を整え状況を整理する。
洞窟の地面が崩落し、落ちたわけではない。最初から穴があったわけだ。
助けた相手がふらついてリィドをつい押してしまったのか。
もしくは故意に突き飛ばしたのかどうか。
「……戻れそうにないな」
登って戻れる高さではなさそうなので、目の前の道を進む。
故意に落とされた場合、フェイシスとセツナも危ない。
何か意図があって自分たちは分断されたのだから。
洞窟は人が頻繁に出入りしているような感じだった。人が歩きやすいように手を加えている箇所もある。
しばらく歩き、リィドは身を隠そうとしたが一足遅かった。
盗賊とばったり出会ってしまったのだ。
恐らくここは盗賊の隠れ家の一つなのかもしれない。
「な、お前、こんなところまでくそ。あいつ殺し損ねやがったな」
男はナイフを持ちリィドに突っ込んできた。
「!がっ!ああああ」
男は苦痛で顔の筋肉を盛大に暴走させながら地面に倒れこむ。
男のナイフがリィドに到達する前にリィドは右足を思い切り踏み込みけり上げた。
男の股間に吸い込まれるかのように綺麗な一撃を決め、男は転がっている。
命の危険に綺麗も卑怯もない。
リィドは武器を奪い、ワイヤーで身体を拘束し先を急ぐ。
目的を聞き出すことも考えたが、拷問などしたことはない。正確な情報を短時間で聞き出せる自信はなかった。
洞窟が有人ということは出口が複数あることは分かった。
盗賊がアジトにしているのだ。逃走経路を用意していないわけがない。
他の盗賊と出会う可能性もある。急ぎつつ慎重に進まねばならない。
「くそ」
リィドは焦りだしていた。進んではいるが、果たして出口へ向かっているかは分らない。そして、既に二人の盗賊と遭遇した。
これは確実に罠だろう。ギルドの人間がどうして同じ自分たちを襲うのか。
ダニーグリーと対峙中、背後から味方だと思っていた人間に襲われたら?
嫌な想像ばかりが頭に浮かんできて、足は早まる。
「な、しまった!」
完全に油断した。盗賊と遭遇さえしなければ大丈夫。その思考は甘かった。
魔術式が起動するのが分かった。その瞬間通路が爆発した。
「……」
リィド生きていた。
恐らく、侵入者を直接殺すような罠ではなく、爆発で通路を塞ぎ閉じ込めるのが目的だろう。
そのおかげで怪我はしていない。が、通路は完全に封鎖されてしまった。
脱出手段のないリィドは窒息か、餓死するだろう。
「はぁ……」
臆すれば得れず、焦れば失う。
さんざん教わった言葉だ。
完全な闇の中でリィドは思考する事以外できなくなっていた。
リィドは短いながら人生を振り返った。
先生と過ごした日々、フェイシス、セツナと過ごした日々。
どれくらいの時間が過ぎただろうか。もはや、リィドにはそれすらもわかない。ついには幻聴までも聞こえだした。
「リィド避けて」
塞がれ壁となった向こうから声が聞こえた。
幻聴とはいえ、反射的に身をかがめ低くする。
振動、がらがらと世界が崩れていく音。
リィドの暗闇は一瞬にして無になり、それが光だと気づく。
差し込む光。まぶしくて目がおかしくなりそうだ。
「リィド大丈夫?」
少しだけ見えるようになる。恐らくそれは差し出された手。
「……フェイシス?」
視界が完全に晴れリィドの目の前には少し汚れたフェイシスがいた。
「よかった。心配した」
フェイシスはリィドに飛びついた。
そして、温もりを感じ改めこれは幻覚ではなく現実だとリィドは認識した。
「……ありがとな」
「フェイちゃんお手柄っす。まさか、本当に見つけるとは」
「二人とも無事だったか」
「案内しただろ。は、早く解毒剤をくれ」
ローベイドが拘束されている。
「状況報告としては、うちらダニーグリーを仕留めようとしたら、いきなり後ろから襲ってきたので無効化して拘束したっす。あ、ダニーグリーは駆除済みっす。なんで急いでこの洞窟に案内してもらったす」
「案内って脅しだろ」
「やかましいっすね」
「うっ」
セツナが手刀を繰り出すとローベイドは気絶した。
「毒は嘘なんで安心してください先輩。うちが調合した毒で解毒剤はうちしか持ってないって言ってあるっす」
「本当か?」
暗殺者ならばそれくらい容易いはずだ。
「使いもしない毒は持ち歩かないっす。それに急いでるときに悠長な毒なんて使わないっす。本当だったらうち流で吐かせてもよかったんですが、それは先輩がよく思わないかなーと思ったんで」
「ありがとな」
「怪我はない?」
「なんとかな」
「それと、急いで街に帰ったほうがいいっす」
洞窟を脱出し、フェイシスに手伝ってもらいローベイドとランディアを抱え、急いで町に戻りながらセツナの話を聞く。
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