第9話「迷子のお姉さん」

 新しい日常が過ぎていく。

 当たり前は当たり前でないと実感していた。

 リィドは久しぶりに一人で街を歩いていた。フェイシスは病院で定期検査、セツナは武器を購入しに王都まで出かけている。なので、今日は夜まで一人なのだ。

 買い物も済ませ、家に帰ろうか悩む。


「うーむ……おかしい」

「素敵なお姉さんお困りですか?」


 目の前に見知らぬ女性がきょろきょろ辺りを見回していた。

 困っている女性を放っておくなんてできない。


「すまない、道に迷ってしまってな」

「じゃ、案内しますよ」

「お」

「あ」


 私服で完全に気づかなかったがよく見たら見たことのある人物だった。


「確かリィド殿だったか」

「エリルさんでしたっけ?殿はいらないですいよ」

「では、リィド私もさんは不要だ。何よりプライベートなのだから」

「じゃ、エリルはどこに行きたいんですか?」

「この店がおすすめと紹介されてな」

「あ、そうか。赴任されたんですか?」

「一週間ほど前に」

「それはおめでとうございます」

「ありがとう。しかし、いい街だな」

「田舎で、事件なんて街の外で魔獣の害くらいですからね」

「最近盗賊被害が頻発してるからな。この街もいつ被害に合うか分らない。もちろん、全力で対処するが、リィドもギルドメンバーなのだろ?気を付けてくれ」

「ありがとうございます。エリルって優しい人なんですね」

「ひゃ」

「ん?」

「な、何でもない。君は良い奴だな」

「いきなりなんです?あ、ここ左曲がります」

「そうか。いや、騎士団とギルドは協力関係ではあるが、親密な関係ではないだろ?」

「そうですね」


 仕事上の付き合いのみで、できることなら関わりを避けたいそんな間柄だ。


「別に俺は騎士だから、ギルドだからとかは何も思わないっすね。だって人間良いやつも悪いやつもいる。良いやつにもだめとこはあるし、悪いやつにも良いとこだってある。だから、初対面の人には普通に接しますよ」

「なるほど、実に良い性分だな」

「それに、エリルは素敵な女性のようだし」

「!」

「あ、ここを右で角を左です」

「かなり複雑だな」

「ここの店は住宅地の中にありますからね」

「そういえば、あの時のお嬢さんは一緒じゃないのか?」

「ああ」


 リィドは返答に困った。詳しく説明する必要はないが、ここのお偉いさんになるわけだ。すぐ耳に入るだろし、最低限の事情は知っておいてもらっても損はしないと判断し、かいつまで説明する。


「うう」

「ちょ、泣かないでください」

「リィドみたいな善良な市民がいるなんて。感動して、うう」

「別にそんな泣くほどじゃないですって」


 かなり感情が豊かな人物のようだ。リィドとしてはもう少し落ち着いた女性の方がタイプなのだが。

 そうこうしているうちに店に着いた。


「どうだ?案内してくれたお礼にご馳走したいのだが」

「……よろこんで」


 今日はもしかしたら勝利の女神が微笑んででいるのかもしれないと、リィドはわくわくしながら着席する。

 エリルがスイーツを美味しそうに頬張る。


「……」

「どうかしたか?」

「いえ」


 談笑しながら、食べ終わり解散することになった。


「すみません、ご馳走になりました」

「いいさ。こちらこそ案内ありがとう。そっちの持ち帰り分も出したのに」

「いいえ、これは別ですから、払ってもらうのはだめですよ」

「そうか、ではさようならだ」

「はい」


 夜、家に帰り持ち帰ったスイーツを並べる。


「どうしちゃったんすか?」

「別に。文句あるなら食わなくていいぞ」

「ないっす。先輩大好きっす。だから、ね?」

「リィド食べていい?」

「……いいぞ」

「先輩はお菓子とかは作らないっすか?」

「あのな。何回も言うが、別に俺は料理が好きとか得意なわけじゃないぞ?ただ、一人で生活していたからやっていただけだ」

「でも、ギルド帰りに店とかで済ませる手段もありますよね?」

「金の無駄だろう」

「あーあー。なるっす」


 疲れ切った時は食べて帰る時もあったが基本は自宅で作るほうが安くすむし量も調整できる。

 こうして、新しい日常にリィドは溶け込んでいく。

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