第8話「遺跡へ」

 翌日、ギルドへ報告と街で買い物に行くために出かけた。


「へーモテモテね、リィド」

「まだ部屋空いているんでどうですか?」

「遠慮します。というか、セツナさん次はないですからね」


 リィドは思わず身が竦む。ティタ姉が本気で怒っている。


「ごめんなさいっす。お偉いさんからの極秘任務だったすから。もうしないっす」

「違うわよ」

「え?」

「ギルドのメンバーの情報勝手に覗いたでしょ?」

「な。バレ……何のことっすかねー」

「……こちらも犯罪の捜査なら協力はします。なので勝手に情報を持っていくことは絶対しないでくださいね」

「肝に命じるっす」

「今回は私で止めたのであれですが、ギルドの上の人たちに発覚したら処罰行為ですからね」


 ギルドから出るとセツナは恐る恐るリィドに切り出した。


「ティタ姉さん怖いっすねー」

「てか、セツナ情報盗んだってどういうことだ?」

「いや、犯人特定に使っただけっすよ。でも痕跡は消したはずなんすけどねー。命拾いしたっす」

「かんかんだった」

「だよな。セツナ何かお詫びの品でも贈っとけ?」

「そうしますかね。長いお付き合いになるわけですしね」


 セツナの日用品などを買った。

 明日は依頼を受ける予定なので備えて早めに寝ることにした。


「こちらの依頼をお願いします」


 ティタ姉が出してきた依頼は見覚えのある場所のものだった。


「魔獣が最近多く出没するようで駆除をお願いします」


 それは前回任務が途中で終わった遺跡だった。


「注意事項として、最近盗賊の目撃情報があるので注意してください」

「分かりました」


 遺跡に再度足を運ぶ。


「確かに小物がたくさんっすね。どうします?うち真ん中にいましょうか?」

「いや、後ろで頼む。外ならそれでいいけど、中だと俺の攻撃が怖い」

「了解っす」


 前回は護衛を考慮しての陣形だが、今回も同じで行く。

 リィドはセツナを避けつつ相手に当てる必要があり、室内だと誤射が怖い。なので、同じ陣形を選んだ。

 室内なので、挟み撃ちされたら危険度が一気にあがる。それも含めてだ。

 前に来たときより魔獣の数が増えているようだ。

 しかし、小型なので大した脅威でもなく順調に奥へと進んでいく。


「やっぱりだれか来ているな。フェイシス罠があるかもしれないから十分気をつけてくれ」

「わかった」


 魔獣の死骸が通路に転がっている。誰かが入った証拠だ。


「あ、ここ落とし穴」


 前回フェイシスが罠にかかった箇所だ。


「そうだな。問題はどこまで続いてるかだな」


 リィドは矢をいくつか射る。落とし穴は三つほどある。


「……」


 リィドは悩む。この落とし穴の幅ならフェイシスなら飛び越えられるだろう。

 しかし、罠は落とし穴だけとは限らない。


「……セツナ。俺は落とし穴だけだと思うがどうかな?」

「根拠は?」

「壁や床に血痕がない」

「うちも同意見っすね。魔術的な罠もなさそうですし、フェイちゃんの機動力なら引き返すのも余裕かと」

「ごめん、フェイシス任せてもいいか?」

「うん」


 フェイシスは軽やかに落とし穴を飛び越える。


「……なんもなかったよ」

「よし、行くか」


 リィドはフェイシスのように連続ではく、一つ一つためて飛び越えて進んだ。


「ここが最奥部入口みたいだな」

「……誰かいる」

「フェイシス!」


 リィドは剣を取り出すと、フェイシスに襲い掛かる凶刃をはじいた。


「なんだお前たちは」

「男は殺せ。その女は上玉だ。生かして連れてく」

「了解」


 部屋の中にいたのは柄の悪そうな男が二人。恐らく盗賊だ。

 部屋の奥で何か物色しているのがリーダーで、剣で襲いかかってきたのが部下だろう。


「フェイシス後ろに下がってくれ。セツナ、あっち頼めるか?」

「了解っす」


 フェイシスは前衛だが、人間相手と戦ったことがない。

 リィドが目の前の男を受け持ち、セツナは奥の男の奇襲に備える。


「お前ら、残念だったな。こいつは渡さねー」


 男は笑いながら、懐から何かを取り出す。奥の壁が共鳴し、振動を始める。


「おし、情報は正解だったようだな」

「なにしてんすか?」

「さぁな?過去のお宝が眠る部屋だ。魔術師に鍵を渡され、隠し部屋があるのを聞いた時は眉唾だったがな」


 そして、壁がくずれ落ち、男はその先に進んでいった。


「嫌な感じ」


 フェイシスが奥の部屋を警戒する。


「先輩ってあれ?先輩やるっすね」


 リィドはリーダーとセツナが会話している間に下っ端を無力化し、拘束していた。


「まぁ、下っ端の下っ端なんだろ。壁の崩れで気取られて隙だらけになったし」

「なるほど、どうします?追います?」

「追うしかないだろな」


 三人は進むと異様に広い空間に出た。あの中庭の倍ほどの広さはあるだろうか。

 中央にはなにやら意味深な椅子があり、椅子の上には箱が置いてある。椅子の後ろには木が生えており、長い間人が入っていないことが一目で分かった。


「ち、使い物にならねーな」


 リィド達を見ると吐き捨てた。

 男は椅子の上の箱に手をかけていた。


「だめ」


 フェイシスが止めるが、当然止めるはずもない。


「は?空だと?」


 箱を開けて男はそう呟いた。


『にゅる』

「なんだよ、これ……た、たすけ……」 

「なんだあれは」


 リィドは信じられない光景に声を上げる。

 男の体に椅子の後ろに生えている、木が突如動き出し、枝が突き刺さった。

 串刺しだ。素人が見てもこれは確実に致命傷だと分かる。

 しかし、異様なのは血だ。血が一滴も流れていないように見える。


「リィド見てあの人からから」


 男の体はみるみるしぼんでいき、変色していた。


「吸血したのか。……二人とも行けるか?」

「がんばる」

「まぁ、あんな不気味なの野放しにしてたらまずいっすからね」


 木は男の体を抜き取り、捨てリィド達を目標に定める。

 これは確実に意思、知能があるは間違いない。


「知らない魔獣……。もしかしたら、悪魔かもしれない、二人とも援護頼む」


 魔獣と悪魔の違い。それは体の構成物質の差だ。

 構成物質が有機物が主の場合魔獣と定義される。

 悪魔は魔力が主な場合だ。

 魔獣は体が消滅すれば生命活動は完全に停止する。しかし、悪魔の場合は肉体が消滅しても生存している場合が多い。

 なので、魔獣と悪魔では倒し方が大きく異なる。

 リィドは矢を射る。矢は枝も刺さるがたいしてダメージを与えるようには見えない。

 フェイシスとセツナは襲い掛かってくる枝を殴って破壊、ワイヤーで切断して対処する。


「にょきにょきしてる」

「再生能力えげつないっすね。このままじゃジリ貧っすよ?」


 枝を切断しても、また枝が生えてくる。


「ワイヤーで本体斬れるか?」

「今の枝切断で精一杯なんで、これより硬い場合は多分ムリっす」


 リィドもただ矢を射っていたわけではない。

 矢先に火をつけて火矢を当ててみたりした。

 火自体は表面を焦がす程度で、あの木全体を燃やすほどの威力にはならない。


「……円状に矢を打ち出す罠を仕掛ける。二十個だ。さすがに、隙ができるはずだ。本体をセツナとフェイシスで同時攻撃。これならどうだ?」

「確かに本体叩かないと、これ無限っすね。了解っす。うちが少し近づいて注意引きつけるんで先輩は罠設置フェイちゃんは先輩への攻撃対処でどうっすか?」

「分かった」

「頼んだ」


 無尽蔵に伸び襲いかかってくる枝をやりすごし、罠を設置していく。


「よし、終わった。セツナの位置まで戻ろう」


 急いでセツナの元へ。


「三、二、一、発動!」


 罠が起動し矢が一斉に木本体にめがけて放たれる。

 セツナはまっすぐ進む。


『きゅあー』


 矢が刺さり、木の悲鳴だろうか。甲高い音がなり響く。


「セツナ待った!」

「っと」


 攻撃する瞬間だったがセツナは静止の声で攻撃を止め下がる。


「見ろ、本体の右のとこ」


 人間に例えるなら右胸だろうか。

 他の箇所は矢が刺さっても無反応だが、そこの箇所は枝を器用に使い矢を引き抜いている。


「まさかこいつの急所っすかね?」 

「恐らくだ」

「あそこ攻撃するといいの?」

「そうだ。作戦変更だ。セツナ、まずセツナ接近周囲を攻撃しつつ経路を確保。いけるなら、本体に攻撃。フェイシスがセツナの作った道であいつに最接近して、急所を思いっきり攻撃。最後に俺が火矢で射貫く」

「えげつないこと思い付くっすね。了解っす」


 セツナは再度接近し、枝を削ぎ落していく。


「やっぱだめっす!」


 本体に近づき、ワイヤーで攻撃するが、想像通りワイヤーが負け切れた。


「とーりゃー」


 セツナの作った道をフェイシスが高速で走りぬけ、本体の懐に。そして、渾身のパンチを放つ。


『きーん』


 さらに甲高い音が鳴る。

 そして、本体の表面が破損し、中から赤い果実のようなものが再度露出する。


「食らえ!」 


 リィドの手元から矢が放たれる。

 皆時間が遅く感じた。


「よし」 


 矢は外れることなく果実目掛けて飛ぶ。


『きん』

「な」

「やばいっすね」


 狙撃は完璧だった。しかし、果実が想像以上に硬かったようで矢を弾いた。

 矢は弾かれ上に跳ね落下する。


「まだだよ」 


 フェイシスは落ちてきた矢の軸を掴み、果実に突き刺す。


『パリィン!』


 矢が深々と突き刺さり、果実は欠片になり、砕け散った。火が触れた欠片は灰になり見えなくなる。


「よくやったフェイシス!」

「疲れたっすね」


 果実が割れると、糸が切れた操り人形のように枝も動きを止め、地面に落下し反応がなくなる。


「いえーい」


 謎の生物に勝利した。

 今までで一番の死闘だった。


「いったい何なんすかね?この生物は」


 セツナは椅子に近づき木の根本を観察する。

 フェイシスはリィドの所まで戻り手を貸す。

 リィドは罠設置、火矢のための発火魔術を連続で使用したため、疲れと緊張の糸のほどけから膝をついていた。


「ありがとな」


 リィドは立ち上がる。


「あの心臓的な果実も割れた音的に木って感じじゃなさそうでしたし」

「せっちゃんだめ」

「な」


 リィドは恐ろしい光景を目の当たりにした。

 フェイシスの一撃でばらばらになった欠片。それが木の枝に刺さっていた。

 枝が震えだし、欠片を飲み込む。

 すると、枝同士が絡みあい、太い木になり、枝が生え再生した。


「分裂体っすか……先輩、これたぶん悪魔の類っすね」

「それよりセツナ、囲まれてるぞ早くこっちこい」


 同じように数十体木が生え、復活した。セツナは完全に囲まれてしまっている。


「そうしたいのはやまやまなんすけどね」

「ワイヤーか」


 リィドはセツナの手元を見る。

 先ほどの攻撃の時にワイヤーが切れた。 

 つまり、攻撃手段がない。


「待っててせっちゃん」

「フェイちゃんこそ止まるっす」

「でも」

「大丈夫っす。先輩、フェイちゃんと一緒に逃げてください」


 赤の他人のセリフならば素直に従っただろう。しかし、もうセツナは仲間だ。

 逃げるべきという脳内の警戒を感情が邪魔をする。


「だめだ。分裂ならさっきのに比べると一個体は弱いはずだ。まだ逃げるチャンスは作れる」


 身軽なセツナならわずかな隙があれば脱出することもできるはずだ。


「違うっす。うちはこんなキモイ謎悪魔と添い遂げるつもりはないっす。こいつに火が有効なのは分かったっす」

「何か手があるのか?」

「あるっす。だけど、先輩たちも確実に巻き込んじゃうっす。だから部屋の外まで退避して欲しいっす」

「……本当に大丈夫なのか」

「信じてくれないっすか?」


 知らないものを信じることは難しい。それに出会いが出会いだ。


「……分かった。フェイシス行こう」

「うん、頑張ってね」

「へーいっす」


 リィドは去り際に確認できたのはセツナが魔術式を書き始めた姿だ。

 二人は部屋の外まで戻ると、爆音と共に遺跡全体が揺れた。


「うわ」


 そして、爆風がリィド達を襲う。

 セツナが何かの魔術を使ったのだろう。


「ごほ、大丈夫かフェイシス」

「だ、大丈夫。でもじゃりじゃり」


 爆風と共に砂利や埃が舞い散った。視界が戻るとそこにはセツナがいた。


「うわ、セツナ」

「ひっどっすね。感動の再会だっていうのに」

「すごいねせっちゃん」

「何したんだ?」 


 あれだけ苦労した悪魔を一瞬で倒したのだ。


「あーあれっすか。火炎魔術っすね」

「……何で最初から使わなかった?」

「あのーっすね……」


 セツナは気まずそうに告白する。


「うち、天才魔術少女なんすよ。で、普通の人よりちょっとばかし魔力が多いんすよ」


 魔術師としては良いことである。


「一個だけ問題がありまして。威力がセーブできないんすよ」

「はい?」

「攻撃系の魔術は何故か威力セーブできなくて、うち的には先輩みたくちょっと火をつけるくらいがあの量になるっす」

「……なるほどな」

「暗殺にももちろん使えないんで、だから使わないじゃなくて、使えないが正解なんすよね。たぶん、うちが本気で魔術使えばこの遺跡くらいなら破壊できるっす」

「すごいね」


 皆無事に依頼を達成することができた。

 木の悪魔は完全に消滅していた。なので、椅子に置いてあった箱を持ち帰った。


「ご苦労様です。……なるほど、承知しました。この箱が何か判別がつかないため、報酬金のみとなりますね。鑑定して正体が分かりしだい、買い取りの場合は金額を振り込ませていただきます」

「宜しくお願いします」


 ティタ姉に報酬金を貰った。


「それにしても、正体不明の悪魔に対してよく皆無事で戻ってきたわね」

「悪魔かどうかは分らないですけどね。そうだ、この後食事なんてどうですか?」

「ごめんなさい。相変わらずね。いいの?リィドのご飯待ってる子がいるのに」


 二人は先に家に帰ってもらっている。女子はお風呂が長いと相場が決まっているからである。

 リィドが依頼の報告のためにギルドに寄っている間に入ってもらうためだ。

 決して食事のお誘いをするために一人できたわけじゃない。


「そしたら、俺の家で一緒にどうですか?」

「機会があったらね」


 任務失敗。


「そうそう、リィドどう?」

「どうとは?」

「フェイシスちゃんが来てからさ。気づけばさらに女の子が増えてさ」

「いや、でもティタ姉の方が魅力的です」

「こらこら。まったく。先生が亡くなってから、ずっと一人だったでしょ?まぁ、先生がリィドを拾った時からそうだったけど。、助け合って依頼こなすって初めてのことでしょ?」

「……」


 リィドはふと思い返す。


「悪くないです。後チームでのこなすって大変だなって思いました。考えること多くて」

「ふふ、悪くないなら良かった。まぁ、それはリーダー役の最初の壁だね。リィドならできるでしょ、先生の得意分野だったじゃない」

「あれは、指示を出すのが得意じゃなくて、人使いが荒いだけな気が……」

「ノーコメントで。あ、そういえばまだ風の噂で聞いたんだけどさ」


 ティタ姉は声を落とす。


「最近不審な事件が多いから魔獣駆除とはいえ気を付けてね。風の精霊王が襲われたとか、洞窟に悪魔が棲み付いたとか、普通なら生息地域じゃない地域に魔獣が現れたりとか」

「大変そうですね」


 精霊王や悪魔は正直関わることはないだろうが、魔獣に関しては気になるところだ。


「あと、遠いけどエンザス王国で神官がクーデター企てて国家転覆しようとしたり。これは失敗して関係者全員処刑されるらしいけど。人の流れも変わるかもしれないから、注意してね」

「ありがとうございます」


 リィドは家に帰った。

 まだ二人はお風呂に入っているようだ。

 リィドは食事の準備にかかる。

 しばらくすると二人とも出てきた。


「いい匂い」

「あ、先輩お疲れっす。料理見とくんで、お風呂どうぞ」

「助かる」


 しばらくして、セツナの助けを求める声が聞こえた。


「先輩ーやっと来た。つまみぐい犯がいるんすけど、なんとかしてくださいっす」

「フェイシス、つまみ食いした分減らすぞ」

「いやー。ごめんなさい」


 フェイシスの猛攻は停止した。


「さすがは保護者っすね」

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