第5話「後輩」

 リィドとフェイシスは数回魔獣駆除の依頼を受けこなし、コンビネーションなどだいぶよく円滑になり、依頼をこなせるようになってきた。


「こちらは普段の魔獣駆除じゃないですが、おすすめです。どうでしょうか?」


 ティタ姉が紹介したのは警護依頼だった。内容は学者が遺跡の研究を安全に行えるように警護するもの。想定される危険は魔獣との遭遇。

 警護しながらの魔獣駆除。二人だったら恐らく問題はないだろう。


「待ってください、この額ってなんですか?」


 報酬金とは別でギルドから何故か特別報酬金が入っているのだ。


「えっとね。リィド君にお願いがあるの」


 ティタ姉のお願いならば聞いて当然だが、恐ろしい。


「今って二人でチーム組んでるでしょ?」


 フェイシスのおかげでだいぶ楽に依頼を達成できるようになった。それにフェイシスが近接戦闘メインなので、経費がだいぶ抑えられている。


「三人で依頼やって欲しいのよ」

「へ?」

「私も詳しい所は知らないんだけど、ギルドで面倒見て欲しい子がいるんだって。で、この街ってギルドメンバーなんてそうそう変わったりしないでしょ?リィド君のとこは新生チームだから、入りやすいかなって」


 新メンバーか。しかし、人が増えるとなると必要経費も増える訳だ。即決はできない。


「ちなみに可愛い女の子よ」

「分りました。困ってるときはお互い様なので」


 即決。

 そして、顔合わせが行われた。 

 小柄の少女で確かにかわいらしい。しかし、かわいさで依頼が達成される訳じゃない。


「セツナっす。よろしくお願いするっす先輩」

「俺はリィド。で、こっちはフェイシス」


 フェイシスの危険レーダーに反応があり。


「ここって遺跡のどのくらいなんですか?」

「まだ半分てところだな。この先に吹き抜けの空間があるはずだ。中庭的な場所だ」


 リィドは回答から気を引き締める。外部からも侵入が可能ということだ。

 リィドは自分達の戦い方、フェイシスが記憶を失っていることを軽く説明した。


「えっとセツナちゃんは今までこういったことは?」

「セツナでいいっすよ。先輩。うちは以前暗殺者やってました」

「はい?」

「暗殺者?」


 目を丸くするリィド、首をかしげるフェイシス。


「暗殺って人間の?」

「そうっす。基本はワイヤーで。後はナイフ、毒物が得意っすね」

「待ってくれ」


 いきなりとんでもない後輩ができたものだ。

 確かに荒事には慣れているので初心者よりは各段良い。

 しかし、暗殺とは。


「安心してくださいっす。私情での殺しはしてないんで。じゃないとギルドメンバーになれないでしょ?」

「犯罪じゃない殺しって?」


 フェイシスは当然詳しくはないが、人を殺してはいけないことは分かる。

 まさか、よの国では殺人は違法ではないのか。

 フェイシスの疑問も最もである。


「そうっすね。生死問わずの賞金首の殺害とかっすね」

「なるほど」


 国やギルドにより賞金をかけられた犯罪者を捕まえることは犯罪ではない。そして、凶悪な犯罪者には生死問わない場合が多い。


「なんで、暗殺が得意なんで逆に暗殺から防ぐのも得意っす」

「警護には向いてるか。でも、恐らく今回は魔獣だぞ?」

「だから、先輩達から学びたいっす」

「よろしくね」


 フェイシスはセツナに手を差し出した。


「よろしくっす」


 同年代の同性だろうか、すぐに打ち解けたようだ。

 こうして、三人で警護依頼に向かった。


「よろしく頼む。私は古代の人類の民俗学を研究している」


 学者と聞いて年配を想像していたが、かなり若い人だった。


「年配の教授は体力的に厳しいからね」


 確かにそうかもしれないとリィドは納得した。

 三人いるだけあってかなり楽であった。

 いつも通り、フェイシスが前衛、リィドが後方から攻撃。セツナは背後を警戒。セツナのおかげで依頼人に気を付ける必要がなく、リィドは前から来る魔獣だけに集中できる。

 遺跡攻略は順調に進んでいった。


「一旦昼食のための休憩しないかね?」


 学者が提案した。リィド達も一度休憩することにした。


「はい、せっちゃん」

「あざっす。これうちの分ですか?」


 フェイシスはお弁当をセツナに渡す。


「そう。すごい美味しい。リィドお手製弁当」

「へー先輩料理上手なんすね」

「一人で生活してたらな、自然と身につくだけだ」

「あ、うちお水出しますね。先生さんもはい、どうぞ」

「すまない」

「……いい香り」


 フェイシスが水の匂いをかぐ。


 ただの水だろ?……あれ?本当だ匂いするな」

「確かに。不思議と安らぐ匂いだな」

「これはカミール草の花のエキスを少しだけ入れたっす。リラックス効果があるっす」

「すごいねせっちゃん」


 フェイシスの言う通りだ。依頼の円滑な達成ために役立つかもしれない。

 休憩を終え、再び奥へと進む。


「何かいる……」


 フェイシスの危険レーダーに反応があり。


「ここって遺跡のどのくらいなんですか?」

「まだ半分てところだな。この先に吹き抜けの空間があるはずだ。中庭的な場所だ」


 リィドは回答から気を引き締める。外部からも侵入が可能ということだ。


「先生はここで待っていてくれ。セツナ頼めるか?」

「了解っす。やばそーだったら言ってください。応援入るんで」

「フェイシス行こうか」

「何もいない?」


 柱の陰にも何かいる気配がない。


「リィド上」

「な」


 遠方上空からこちらに向かって緑色の何かが接近してくる。


「グランモースだ!」


 一応大きな声で、グランモースがいることをセツナ聞こえるようにだ。


「フェイシス、剣を使ってくれ。こいつも毒持ってるから素手だと危ない」


 緑色した体毛に覆われ二枚の羽で飛行するグランモース。毛先には神経毒を有しており、これが体内に入ると硬直する。二本の触覚のうち片方から人間の体なんて簡単に溶かす溶解液を出し、溶けたところを片方の触覚が吸い込む。


「空飛んでるね。どうするの?」

「俺が矢で攻撃するから、隣で近づいたらはじいてくれ」

「わかった」


 フェイシスの身体能力が高くても空中を自由に移動することはできない。


「ち、矢が遅い」

「とーう」


 グランモースが近づくと剣を振る。グランモースは回避して距離を取る。

 ある程度動きを予測して矢を射ってもそれ以上の速度で飛んでいるので当たらない。

 飛行しているからもあるが、一番の苦戦理由は場所だ。

 これが単純な野外ならば地形を利用した罠などを駆使すればそれなりに攻撃を当てれるのだが、遺跡に下手に罠をしかけて壊せば最悪罪に問われる可能性もある。なのでジリ貧だ。

 仕方ないのでセツナを呼ぶ。


「なるほど。確かに国が手出してる遺跡を破壊とか、損害賠償とかやばそーっすからね」


 事情を説明するとセツナが一つ提案した。


「そーすね……。あ、うちが中央までいくので、近寄らないように矢射って援護してもらえるっすか?合図したら止めてもらって」

「分かった」


 言われた通り、矢を射って道を作る。


「ほらこっちっすよー」

「大丈夫なのか?」

「まぁ、ごらんあれっす」


 グランモースはセツナに襲撃をかける。


『ブチ』

「うわ」

「すごーい」


 フェイシスは目を丸くする。リィドも同様だ。


「ワイヤーか?」

「そうっす。ワイヤーで直接絡めとれば後は、あちらさんの慣性の勢いでばらばらっす」 


 セツナのワイヤーによってグランモースの体はばらばらに離散し、血を吹き出し体の破片がばらばらと落ちる。

 リィドもワイヤーは思考したが、リィドのできることはは罠として設置なので壁面に穴を開ける必要があるのでできなかった。

 いくら保護、発掘されている遺跡とはいえ放棄されて時間の経っているものだ。崩落の危険だったあるかもしれない。

 セツナはワイヤーを自在に手元で操れるようだ。


「せっちゃんすごいね」

「確かにな。細いから見にくいしな」


 グランモースを無事駆除し先に進む。特に手こずるよな魔獣は現れず順調に進んでいった。


「あ」

「な、フェイシス」

「待ったす。先輩も落ちたら危ないっす」

「フェイシス大丈夫か!」

「……大丈夫ー」

「待ってろ今助けるからな」


 遺跡に仕掛けられた罠だろう。いきなり地面に穴が空き先行していたフェイシスが落ちた。

 どうやら怪我はなさそうだが、深いようで自力で上がってはこれない。


「セツナ、悪い紐見ててくれるか?」


 リィドは鞄から紐を取り出す。それを自分に括り付け、紐を地面に固定する。


「……」

「セツナ?……がっ」


 セツナに声をかけても返事がないので振り替えろとした瞬間、体が動かなった。

 そして、息がつまりむせる。


「さてと。先輩、大きい声だしたら痛くなりますよ。従うならはいって言ってください」

「いきなりなっ」


 痛みで声を失う。

 リィドはワイヤーで縛られているようだ。


「はいっす。いいっすか?」

「……はい」

「安心してくださいっす。うちの任務は生きたまま連行なんで、先輩が大人しくしてくれてれば危害は加えないっすよ」

「いったい何が目的だ?」


 冗談やお遊びでやっているようには見えない。ならば、何か目的を持って接近してきたのだろう。


「でもびっくりしたっす。先輩もフェイちゃんもいつまで経ってもぴんぴんしてるから本気で量間違えたかって焦ったっす。でも、先生さんには効いてるすから間違ってはないっぽいんすよね」

「毒か?」


 セツナに水を貰った。あの水に何故か混ぜていたのだろう。


「毒じゃないっす。眠くなるお薬なんで。本当は眠ってから場所移してと思ってたんすけど、二人とも眠らないんで仕方なく実力行使にしたっす」


 先生は後方で眠っているのか。セツナに任していたため気づかなかった。

 セツナはリィドの目の間に移動した。


「これから質問するので、正直に答えてくださいっす」


 セツナは右手を掲げる。少しだけワイヤーがきつくなる。


「少し前に、ある身分の高い方が街付近を通過したんすよ。護衛がいるんで、魔獣に襲われることもなく。でも、後になって深刻な事実が発覚したっす」


 セツナは淡々と語る。


「ちなみに身分の高い方は女性っす。で、事実とは盗難っす」

「俺は知らないぞ」


 女性に声をかけたなら、可能性はあるが盗難なんて犯罪は心当たりはない。


「でいうと、盗難されたものは下着っす」

「は?」


 下着が盗難。悪質極まりない。


「な、まてまて。俺が下着を盗んだっていいたいのか?」

「森の通過ルート調べたら、先輩の家が近いんすよね。それに先輩はあの森は勝手知る人物っすよね?」

「それだけで疑うのか?しかも、護衛の目を盗んで?」

「街の住人調べたんすけどすけどね」


 女性にすぐ声をかける男がいる。年上の女性が好みなのか、声をかけるのは決まって自分より年上そうな女性。

 そして、決まって失敗する。

 それなのに最近素性の分らぬ少女と一緒に生活を始めた。 

 風呂など覗いたりしていると噂もある。

 ほとんどが真実な故にリィドの精神に莫大なダメージが襲う。


「一番の容疑者が先輩っすね」

「え、冤罪だー」

「ちなみにその女性は先輩より年上っす」

「何?」

「お?」

「は、違う。違うぞ」


 リィドは焦る。そして、ふとセツナの言葉で思い出した。


「なぁ、もしかしてその時護衛にエリルっていう女性騎士いなかったか?」

「……自白するっか?」

「違う。やってない。もしそうだったら俺はアリバイを証明できる」

「へー。聞くだけ聞いてあげるっす」


 あれはフェイシスの強さを目の当たりにした時だ。

 リィドは買い物途中のことを話した。


「……確かにそれが事実なら先輩が犯人は厳しいか……」

「な、無実だ」


 ワイヤーが解けリィドの体に自由が戻る。


「ご協力感謝するっす」

「へ?ちょ、どこ行くんだ?」

「うちの本当の任務は下着泥棒の捕獲っすからね。あ、先輩もフェイちゃん連れて帰っていいと思うっす」

「な、何故その人を連れていくんだ?」


 セツナは依頼人の学者を背負った。


「あ、この人本当の学者じゃないっすよ?」

「何?」


 理解が追いつかない。


「この人は盗賊っす」


 手配書をリィドに見せる。


「確かに同じ顔だな」

「さっき確認とったんすけど、この依頼を出した学者さんは襲われて警備局に保護されたそうっすよ」

「な、じゃ学者のふりした目的はなんだ?」

「恐らくは遺跡にあるかもしれないお宝を持ち帰って売るつもりだったんじゃないっすかね?」

「なるほどな」


 ありえる話だ。


「なんで依頼は中止かと」


 セツナはそのまま行ってしまった。


「は、フェイシス!」


 急いでフェイシスを引き上げた。


「あれ?二人は?」


 フェイシスに事情を話し、仕方ないのでギルドまで戻った。


「事情は分かりました。この度はご迷惑をおかけしてすみません」

「いえ、大丈夫です。この場合って依頼ってどうなるんですかね?」

「もちろん、無効として処理いたします」


 ひとまず一件落着はしたので家に帰ろうとしたところに意外な人物に声をかけられた。


「おい、ちょといいか?」

「ちょっと厳しい」


 声をかけきたのは医者だった。


「あの嬢ちゃんのことなんだがなー。無理ならしょうがない」

「あ、あります。時間あります」

「ったく。王都の病院の都合ついたから行ってこい」

「ありがとうございます!」

「これが紹介状だ」

「よかったなフェイシス」


 結局今の今までフェイシスの記憶が戻ることはなかった。解決の糸口になるかもしれない。

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