接近。そして拒絶(姫咲視点)
姫咲琥珀side
初めて人を好きになったのは小学生の頃だった。当時のクラスの隣の席になった女の子に恋をした。
これが恋!初恋なんだって少し舞い上がって両親に言ったのが…言ってしまったのが良くなかった。
「女の子を…好きになった?それはホントなの?」
「そうだけど…なんで?ダメなの?」
「ええ、ダメよ。そんなのおかしいのよ。貴方は女の子なのよ?同じ性別の子を好きになるなるなんておかしいのよ!普通なら男の子に恋するべきなの」
父親も同様の反応を示した。そっか。私、おかしいんだ。
その日を境に、両親は私の事をまるで他人のように接するようになった。私がおかしいから、だから愛されなくなってしまった。そして両親は…中学2年の夏。
交通事故で亡くなった。悲しさは…正直あまり無かった。私は一時的に父方の叔父と叔母の元で暮らすことになったが、既に私の話は回っているようで、奇妙なものを見る目で見てくる二人を見て、私がおかしい事を再認識した。
でも、どんなに自分がおかしいと認識していても結局男の子を好きになる事なんて出来なかった。
だから、恋愛感情を捨てた。これでいい。これで私も普通の人になれる。
中学を卒業して、すぐに家を出た。自分のことを知ってる人が居ない…遠くの高校を受けた。それを機に一人暮らしをすることにしたんだ。愛されなくてもいい。でも蔑ろにされるのは耐えられない。だから叔父と叔母の元を離れたんだ。
高校生活は、至って普通で順風満帆と言っても差し支えなかった。勉強や運動を頑張るとみんなが褒めてくれる。それだけで十分だった。だから学力学年トップを取り続けるし、運動も人並み以上に出来るよう努力した。
そして高校2年生。私の平穏を脅かす存在が現れた。
小鳥遊未来さん。クラスの中で一際目を引く容姿を持つ女の子だ。彼女はとっても可愛くて、時折イケメンで、目の保養にしていたのだけど…
彼女は突然、私に告白をしてきたんだ。初めはドッキリや嘘告などを疑った。けど違うみたいで…
ダメだよ…私たちは女の子同士なんだよ…だからみんなにバレたら疎遠にされちゃうよ…同性愛者はおかしい存在。異端者なんだから。
彼女のためにも、キッパリと断った。なのに…どうしてか、彼女は私に絡んでくるようになった。どうして?なんでそんな周りにバレそうになることをするの?
1週間。私が告白を断ってからたった期間だ。その間、数え切れない程のアプローチを受けた。だから日が経つにつれて私の拒絶具合も強くして行った。それでも折れない。挙句の果てには土下座すると脅して来たのだ。
ついに私が折れて…そして何故か…私の異常な部分を彼女に告げてしまった。多分、同じ同性愛者なら言ってもいいと思ったんだ。でもそれが彼女の強い希望になってしまったようで…アプローチは続いた。
3ヶ月。アプローチは続いていた。いや、メンタルどうなってるの?私自身、引くくらい拒否ってたんだけど…変わったことと言えば、この3ヶ月、他の人から告白されることが無くなったくらいである。私のモテ期終わった?それとも彼女に私の全てのモテ期成分を吸収されたのだろうか。何はともあれ興味もない人から告白されることが無くなったのはいい事である。
そして、風邪をひいた。原因は全く持って分からないんだ。本当になんでだろうか。とにかく学校に連絡を入れ休む旨を伝え布団に入った。
午後にはだいぶ良くなっていたが体のだるさが少し残っていて力が余り入らなかった。夜ご飯作れそうにないけどどうしようかと悩んでいると、インターホンがなった。
開けた瞬間ゲンナリとした。小鳥遊さんがドアの前に立っていた…プリント類を持って。
なんで家知ってるんだろ…怖いから聞かないことにした。
軽く話すだけで疲れる…ただでさえ体がだるいのに…
更には何故か目のハイライトが消えていって不穏な雰囲気を纏い始めた。何この人。メンヘラかよ。
そして、プリントを渡さないなんて戯言まで言い始めた。挙句、キスがしたい?いや、もう怖いよ。
だから先生に報告するぞと脅し返したんだ。でも彼女は…構わないと、覚悟の上だと言うんだ。
……そこまで私の事を想ってるの?3ヶ月もアプローチしてきてる時点で凄いと思ってたけど、私が思ってるより本気度が高いみたいだ。報告されるということはみんなにバレるという事と言って過言では無い。それでもいいと。それってつまり私さえ居れば良いって事…?
そんな風に考えて動揺してる内にいつの間にか、家の中に入ってきて玄関のドアが閉まった。
流石に焦っている内にどんどんと距離を詰めてきて…ついに唇を奪われた。
ファーストキスは正真正銘…この子に奪われたのだ。
でも、そこからが問題だった。彼女がしてきたキスは…私の知るものとは異なっていた。
ドラマなんかでよく見る軽く触れるようなキスではなかったのだ。それは、舌を使った、情熱的で深いキスだった。
何が何だか分からない…初めてのキスで、それも自分の知らない仕方で…でも嫌では無いことは確かだった。
あぁ、やっぱり私は女の子が好きなまんまなんだな。
考えるのも億劫になって、その場の快楽に身を任せた。彼女の言うがままに従って舌を絡めた。
永遠とも言える時間がようやく終わった。身体が熱くて、息も少し上がっていて、そして、離れた瞬間なんだか名残惜しくも感じて、そんな自分に嫌気がさした。そんな気持ちとは裏腹にもっとしたいなんて言う感情も存在してて、暫く呆然とした。
正気を取り戻し、恥ずかしさが込み上げてきて、プリントを奪い取って彼女を家から放り出した。
…まだ、唇に感覚が残っていて、顔が熱くなるのを感じた。
これ以上踏み込ませたらダメだ。私も、彼女のためにも。私は理性を総動員して彼女を徹底的に拒絶することに決めた。
もう誰も、私から離れていかないように。この秘密を…同性愛の事を…隠し通すために。
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