ご都合主義が無いなら気合いでゴリ押し

ピンポーン

そんなありきたりな音を鳴らすインターホンを押してドアの前で待機する。非常にドキドキする。

ガチャ


「え…なんで居るんですか」

「……え?最初の一言それ?ひどくない?」

「いえ、とても不快でつい、すみません」


流石は3ヶ月も進展がなかっただけある。辛辣とか余裕で超えてくる。泣いちゃう。…と言うかなんか風邪引いてる感じがあんまりない…?


「えっと、風邪引いてるんじゃないの?」

「ああ、今日ずっと寝てたのでだいぶ良くなった感じですね」

「……て」

「え?なんて言いました?」

「どうして!なんで良くなっちゃうのかなぁ!普通はドア開けた瞬間さ!普段見ることの出来ないパジャマ姿にドキッとして!その後、普段より赤らんだ色っぽい感じにムラッと来て!なんやかんやで看病とかして!いい感じの雰囲気になるはずじゃん!なんなら足元がおぼつかない感じだったりして私に倒れかかってきたり普段は無いイベント尽くしのはずなのに!」


めちゃめちゃ期待してたのに…寝てる隙にキスとかしちゃったりして。少し潤んだ目で見つめられたり、帰ろうとしたら(まだ帰らないで…)なんて言われちゃったりしてとか色々考えてたのに…


「私の期待を返して!」

「知りませんよ。と言うか考えることが本当にベタですね。漫画の見すぎでは?」

「…ねぇ、水を被ってランニングしてみない…?」

「なんですか唐突に。しませんけど。いや、ホントにしませんよ?目が怖いんですけど」


どうしたものか。もういっそこのまま押し倒して既成事実でも…良くなったとはいえ風邪ひいてる訳だし、きっと力で押し切ればなんとかなるはずだよね…ここまで期待させといて、お預けとか…そんなのってないもんね。そうだよ、琥珀ちゃんが悪いんだ。これから起こることも全部琥珀ちゃんが悪いんだ。だから大丈夫だよね…


「あの、ジリジリとにじり寄って来るの辞めません?目が怖…あれ、ハイライトが…無い?え、いや、ホントに、怖すぎるんですけど。どこぞのメンヘラですか!」


何か言ってるけど関係ないよね。ラブコメでもグイグイ行く系のやつもあるし、私にはきっと勢いが足りなかったんだ。押し倒したらきっと、キュンッとなって(私を好きにしてください)なんて言われちゃったりして…えへへ。


「え、なんかニヤニヤしてる…キモ怖…と言うかプリント届けに来たんですよね。早く渡して帰ってください」


プリン…ト?…そっか、プリント。その手があった。今日のプリントは重要書類も含まれてる。つまり渡して貰えないと非常に困る代物。ここは賭けに出るしかない。


「プリントはね、渡さないよ」

「は?ではなんのために来たんですか?冗談とか良いのでサッサと渡してください」

「私が言う条件が飲めるなら渡してあげてもいいけど」

「はぁ、本当にめんどくさい、この人。で?条件とは?」

「キスしたい」


え、何この沈黙。どうしたらいいの!さすがに攻めすぎた…?もう!欲が出てしまった…


「そちらがその気ならこちらにも考えがあります」

「え?キスしてくれないの?」

「……先生に連絡します。プリントを私に来た生徒が下品な発言をしながらプリントを渡してくれませんと」


完全スルーされた。と言うか先生に報告…。さすがに痛手過ぎる…。でもここで引いたら有効打だと思われる…。勢いで押し切れるところまで行こう…やらない後悔よりやる後悔だよね!


「…良いよ?報告しても。でも報告してる間にその唇、奪うからね?」

「報告をしても…良い?正気ですか?そんな事になれば先生からの信頼を失い、セクハラをする生徒として他の子からも陰口を叩かれるかもしれませんよ?」

「覚悟の上だよ。どんなリスクを負ってでも琥珀ちゃんとキスがしたい。そのためなら退学でもなんでも受け入れるよ」


流石にブラフだけど、ここまで大きく出れば流石に行けるはず…


「っ!そ、そんなに私の事が…好きなんですか…?」

「もちろん、本気じゃ無かったらこんなこと言わない」


動揺した…?これなら行けそう、チャンスだ。このまま押し切ろう。


「だからさ…良いでしょ?ね、キスしようよ。」

「い、いや、でも…」

「それとも…少し無理やりされるのが好み?」

「そんな訳…!っ!ちょっと、何勝手に!入ってきてるんですか!」

「ん〜?琥珀ちゃんは玄関先でキスしたいの?他の人に見られちゃうよ?」


やっばい、めちゃ行けそう。雰囲気最高。てか焦ってるのめちゃかわなんだけど、顔ちょっと紅いのもエロい。


「ほんとに…ダメですってば。許可してないです!」

「ごめんね?私も我慢の限界なんだ…少し乱暴になったらごめんね?」


そう言ってついに私は彼女の唇を奪った。



「ッ!…な…だ、ダメだっ……て…んん!」

「っは、やば、エロカワすぎだよ、んっ。口もう少し開けて……そう、いい子」


そこから3分くらい彼女の唇を貪り続けた。惚けてボーッとしている顔を見るとグッと込み上げてくるものがあるけど、僅かに残っている理性で止める。さすがにこれ以上は洒落にならないし、ちゃんとした関係になってからしたい。


「琥珀ちゃん…大丈夫?顔結構赤いけど?」

「んなっ!誰のせいだと!……」

「えへへ、つまりちゃんと私とのキスをちゃんと意識してくれてるわけだ」

「ッ!ちが、そういう事じゃ…」

「じゃあどういうことなんだろうね?」

「……か、風邪のせい…です」


何この生き物。可愛すぎるんだけど、何?誘ってんの?その誘い乗っちゃうけど大丈夫?


「と、とにかく!ご所望のキスもしましたし!プリントを渡してサッサと消えてください!今すぐに!」


そう言ってほっぽり出されてしまった。まあ、あのままだと本当に襲いかねなかったし、良かったのかも?何はともあれ、これは大きな収穫だよね!この調子で頑張る!

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