お前なぁ、自分で書いた手紙くらい自分で渡していけよ。

お前がどんな顔して、どんな声で、どんな風に渡すのか、俺も見たかったのに。

開けばヨレヨレの文字と泣いた跡ばっかりでさ。

一生懸命書いてくれたんだな、ありがとな。


お前に余命を告げられた時から、覚悟はしていたよ。

日に日に痩せて行く身体に、何度代わってやりたいと思ったことか。

神って奴は残酷なんだな。

本当に、逝っちまうまであっという間だった。


もっともっと、一緒に色々な事がしたかった。

お前が元気になって退院したら、ちゃんと両親に話して関係を認めて貰うつもりだった。

それに、今の日本じゃ結婚は難しいけれど、籍を一緒にすることだって考えてたんだ、気付いてたか?


俺には忘れろって言うけどな。

馬鹿だなぁ、お前。

あんな手紙渡されたら、忘れるものも忘れられなくなっちまうよ。

お前の居た跡を辿って行く度、お前の生きた跡を見付ける度に、どうしようもなく声が聞きたくなる。

どうしようもなく会いたくなるんだ。

お前の事を忘れるのは無理そうだ。


ただ、折角お前に背中押してもらったんだ、俺は俺で残りの人生は好きなように生きさせてもらうよ。


でもな、忘れるなよ。


俺が最初に愛したのはお前だけだ。

残りのあと60年くらいの人生楽しんで、お前の分まで目一杯生きてからそっちに行くから。

だからさ。

そっちでまた会えたら、いつもみたいに、俺の馬鹿な話を笑って聞いて、お疲れ様って言ってくれると嬉しいよ。


じゃあな。

また逢おう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る